苦しみに気づいてあげて
作家・松谷みよ子さん
イソップ物語に、子どもにいじめられる池のカエルのお話があります。20年ほど前、いじめで死を選んだ子のことを聞いたときにこの話を思い出し、たまらなくなって詩を書きました。
〈どうか石を投げるのはやめてくれ/君たちには遊びでも/わたしたちには/いのちの問題なのだから/わたしはいつも/心のなかでさけぶのです/どうか やめて おねがいだから/わたしには いのちの問題なのだから〉
そのころ、若い女性から手紙をもらいました。妹さんのことがつづられていました。妹さんは同級生からいじめを受けて深い心の傷を負い、こんなメモを書いていた。「わたしをいじめた人たちは、もうわたしを忘れてしまったでしょうね」
涙がこみあげました。わたしにもかつて、寄ってたかって周囲の人から自分の生きてきた根っこを否定された体験があったからです。でも、彼らはこのことを案外すぐ忘れてしまっていました。
わたしの痛みはずっと消えなかった。ずいぶんたってから彼らと話をする機会があって、つらい思いをさせたなあ、と分かってもらえたとき、やっと少し救われました。
いじめている子に何か感じてほしくて「わたしのいもうと」という作品を書きました。転校していじめられ、学校へ行けなくなり、ツルを折り続ける女の子。いじめた同級生がおかまいなしに毎日楽しんでいるのに、ひっそりと死んでしまいます。「あそびたかったのに べんきょうしたかったのに」と書き残して。
相手がこんなに苦しんでいるということにどうか気づいてください。そのことが、いじめられている子にとって、少しでも救いになるのです。
(朝日新聞2006年12月5日掲載)
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