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2011年12月29日
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2012年度中学受験特集

「光より速い物質」あったら?

図:光より早い素粒子拡大光より早い素粒子

 あらゆるものの中でいちばん速く進むのは光です。1秒間に約30万キロも進みます。ところが、その光よりも速く進む物質(ぶっしつ)があるかもしれないという研究が最近、報告(ほうこく)されました。この報告に「本当ならたいへんなことだ」と世界中の科学者がおどろいています。なぜでしょうか。

●タイムマシンができるかも

 光の速さを超(こ)えたことが観測(かんそく)されたのはニュートリノという素粒子(そりゅうし)だ。小柴昌俊(こしばまさとし)さんが遠い星から飛んできたニュートリノを観測し、ノーベル賞の受賞理由になったことでも知られる。

 素粒子は、物質をこれ以上細かくできないという物質の素(もと)だ。ニュートリノは、あらゆる物質を突(つ)き抜(ぬ)け、地球さえも通り抜ける。

 スイスにある欧州合同原子核研究機関(おうしゅうごうどうげんしかくけんきゅうきかん=CERN)の装置(そうち)でスピードをつけ、イタリアのグランサッソ研究所へこの粒子を飛ばす実験で観測した。約730キロを飛んだ時間を測(はか)った結果、1億分の6秒、光(秒速約30万キロ)より速かった。

 ニュートリノの速度は光とほぼ同じか、少し遅(おそ)いと思われていた。しかし、3年かけて1万5千回以上も飛ばして調べた結果、ニュートリノが光の速さを上回ってしまった。

 実験した名古屋大(なごやだい)や神戸大(こうべだい)などを含む国際(こくさい)研究グループが数カ月をかけて、「間違(まちが)っていないか」を見つけ出そうとした。でも、見あたらなかった。そこで「ほかの人たちにも実験してもらうため、結果をみんなに知らせる」という考えで公開した。同じ実験ができるアメリカのフェルミ国立加速器研究所(こくりつかそくきけんきゅうじょ)は、今回の結果が正しいかどうか確かめるようだ。

 こうした分野を専門とする物理学者が、今回の結果を「間違っていないか」と考えるのは、もし正しいと、これまでの考え方を完全に変えなくてはいけないからだ。

 今の物理学は「特殊相対性理論(とくしゅそうたいせいりろん)」という考え方がひとつの柱だ。この理論は、アインシュタインという有名な学者が1905年に発表した。その考え方では、光の速度がいつも同じで、重さがあるものが光の速さを超えられないことになっている。

 ニュートリノは重さがある。だから実験結果が本当ならば、今の物理学の考え方を超えた何か他のことが関係していなければならない。だから、みんなおどろいた。いままでの考え方では、光の速さに近い速度で動くと時間の進み方が遅くなり、光の速さを超えると時間が過去(かこ)に戻(もど)ることになる。そうするとタイムマシンができてしまう。

●測定正しいか議論に

 この実験は、どのくらい正しいと考えられるのだろうか。

 ニュートリノを発射(はっしゃ)した場所と到達(とうたつ)した場所の距離(きょり)は正しいのか、その時間を正しく測っているかが、決め手になる。

 まず、730キロという距離は、スイスやドイツのとても信用できる機関が測った。もし違いがあったとしても、20センチ以下だという。

 時間は、別の信用できる機関が確かめた。こちらは、もし違いがあったとしても、1ナノ秒(10億分の1秒)以下しかないという。

 それでは、こんなに精密に、長さや時間をどうやって調べたのか。

 どちらの測定も、とても正確(せいかく)な時計を積(つ)んでいる全地球測位(ぜんちきゅうそくい)システム(GPS)衛星(えいせい)が使われた。GPSは、カーナビや携帯(けいたい)電話で自分の位置を知るのに使われる。これが、ものすごく正確なことを調べる物理学の実験に使えるほどの精度(せいど)なのか議論になっている。

 実験について、東京大学数物連携宇宙研究機構長(すうぶつれんけいうちゅうけんきゅうきこうちょう)の村山斉(むらやまひとし)さんは「光の速さを超える粒子と相対性理論の両方(りょうほう)を認(みと)めれば、過去とやりとりできることになる。しかし説明がつかないことが多く、ふつうは考えられない。もし光より速いのが本当なら、これまでにない複雑(ふくざつ)な考え方を作らなければ説明できない」と話している。(田中誠士=たなかせいじ、2011年10月29日付朝日新聞夕刊掲載)


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