初診から2日後。脱臼している右股関節を治すため、ちぃちぃにリーメンビューゲル(あぶみ式つりバンド)をつける日がやってきた。医師はちぃちぃを診察台に寝かせて、ビニール製のピンク色のリーメンをつけてくれた。ちぃちぃが泣いて暴れないよう、私が付き添う。
肩、胸、ひざ下、足首と6カ所以上、ベルトで固定するので、ちぃちぃの身になって考えると、胸が締め付けられた。足を動かすと、肩にかかっているベルトが食い込んで痛そうだ。胸や背中の金具も苦しそうだ。「大丈夫。あんよを治そうね」。そう言いながらも、思わず涙ぐんでしまった。でも、本当に大変なのは、これから治療に立ち向かうちぃちぃの方で、私は励ます立場。ぐっと涙をこらえた。
医師は、これからの3日間は、比較的ゆるめにベルトを調節しておきましょうと話した。これで、整復されれば、めっけもの。それでだめなら、もう少しきつくしますが、大抵、それで整復されますと、説明してくれた。とにかく、リーメンを装着してからの2週間が勝負という。そこで整復されないと厳しい。
脱臼した股関節を整復させるには、赤ちゃんが仰向けに寝て、リラックスしていることが大事なので、極力抱き上げてはいけない。泣かせて、全身が力んでいると整復されないので、泣かさずに寝かせておかなければならない。眠っているときに、整復されることが多いという。
全身に窮屈なものをつけられたちぃちぃは、診察台では何が起きたのかよく分からずに、きょとんとしていたが、まもなく大泣きして抗議しだした。病院にいる間ずっと号泣し続け、帰宅後も機嫌が悪かった。
とにかく、仰向けに寝かせておかなければならない。抱っこもせずに、ちぃちぃをリラックスさせるのは至難の業だ。おしゃぶりを試してみた。それまでおっぱいしか知らないちぃちぃなので、果たしてゴム製のおしゃぶりを受け入れてくれるだろうか。くわえさせてみると、ちぃちぃは気を落ち着かせるために、必死で黄色いおしゃぶりを吸い始めた。その姿がまたふびんでならない。
汗っかきのちぃちぃなのに、ベルトの下に着けている肌着さえ、なかなか着替えさえてやることができない。それでも、あんまりびっしょり汗をかくので、風邪をひかせてはいけないと思って着替えさせると、不慣れな私は大泣きさせてしまう。ベルトの下に肌着を通すのが、慣れるまでは一苦労なのだ。
足を自由に動かせるようにしておくため、掛け布団も軽くするように指導を受けた。でも、まだ春先で寒い季節。どうしたものか悩んだが、オイルヒーターをつけて、室内温度計とにらめっこしながら、掛け布団を調節した。うっかりすると、室温が上がりすぎて、ちぃちぃがまたぐっしょり汗をかいている。それでもリーメンを装着して最初の3日はあまり着替えさせないように、と言われていたので、なるべく着替えを控えた。入浴もさせられないので、何枚もハンドタオルを電子レンジで温めては、朝夕、ちぃちぃの体をふくことになった。
バンドの下に蒸しタオルを入れてふこうとすると、ちぃちぃは苦しがって泣いた。ビニール製のバンドの下の肌は炎症を起こしやすく、赤くなったところには、薬用クリームをこまめに塗ってやった。
3日たったが、ちぃちぃの脱臼した足は治らなかった。整復されると、仰向けにひっくり返ったカエルのように両足がパタンと開く。眠っているちぃちぃのタオルケットをそうっとあげて何度も確かめてみたが、脱臼している右足のひざは不自然に浮いたままだった。
装着から4日目、医師はリーメンのベルトをきつめに調整し直した。ここから1週間以内にはまることが多い、と説明された。脱臼した足が整復されると、あまり足を動かさなくなり、機嫌が悪くなるという。その時に抱き上げてあやしてしまうと、また脱臼してしまうので、ぐっと我慢しなければならない。ベルトをきつくしてから1週間後、ちぃちぃの足はパタンと開いて動かなくなった。こ、これは! 期待に胸を膨らませ、リーメン装着から6度目の診察に向かった。
1995年朝日新聞入社、34歳。前橋、福島総局、東京・名古屋本社学芸部などを経て、04年9月から東京本社文化グループに在籍。現在、第一子を出産し育休中。
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