ちぃちぃのおへその上3センチぐらいのところに、小豆サイズのしこりを見つけてから3カ月近くがたった。さわってみると、コリッとしている。押すと見えなくなることもあるので、消えないかなあと念じながら、お世話をしていた。本人はいたって元気で、具合は悪くなさそうだ。
でも、悪いしこりだといけないので、思い切って近所の小児科を訪ねることにした。おじいちゃん医師でちょっと気むずかしいけれど、腕は信頼できると、ママ友の間で評判の小児科だ。いつも股関節脱臼で通っている隣の市にあるこども病院の次の予約まではまだ間があるし、近所のかかりつけ医はいた方がよい。何人ものママ友がおじいちゃん医師にやりこめられているのを知っているので、ドキドキしながら診察室に入った。
おじいちゃん先生に事情を話し、ちぃちぃを診察台の上に寝かせ、しこりを見せた。
「これは何でしょう。悪い腫瘍でしょうか」と私。
「分からない。99.999%の確率で違うと思うけれど。飛行機だって落ちることあるからねえ」と先生。
「しこりじゃないとすると、うんちですか」と私。
「うんちはそんなところにはないから違う。分からないよ。僕の専門は風邪だから」と先生。
「そんな。ということは、急を要するようなものではないのでしょうか。先生のお孫さんやお子さんにあったら、どうしますか」と私。
「病院に行かずに放っておきなさいって言うね」と先生。
「じゃあ、大丈夫ってことですね。先生が長年の経験でそうおっしゃるなら、ひとまず安心ですね」と私。
「そんなこと分からないよ。専門外だからね。お母さんの安心のためだけに、紹介状を書くから。行ってきたら」と先生。
「分からないのに大丈夫そうって、どういうことなんですか」と私。
「長年、小児科をやってきたけど、こんなしこりを見たのは初めてだよ」と先生。
「え、初めて見るのに、大丈夫ってどういうことですか」とうろたえる私。
「言葉の揚げ足とらないでよ。今時は大丈夫って言って大丈夫じゃなかったら、大変なことになるから、うっかり言えないよ」と先生。
押し問答は続き、紹介状をもらって、ドキドキしながら帰宅した。でも、おじいちゃん先生のあの反応から推測すると、あわてることはなさそうだなと思い、ちょっとほっとした。とはいえ、長い小児科医人生の中で初めて見たと言われると、また心配になってくる。
紹介状は希望した病院は書いてもらえなかったが、おじいちゃん先生が推薦する総合病院の小児外科を訪ねることにした。一番早い診察日が2週間後だった。朝一番に、ちぃちぃを連れて行った。白髪の交じった気さくそうな医師に、状況を説明した。おなかの真ん中あたりにあるしこりは、がんではないらしい。大切な臓器はおなかの左右にあり、がんになると、大きく腫れてくるという。
ちぃちぃを診察台の上に仰向けに寝かせた。ところが、この時に限ってしこりがあまり見えない! あせったが、医師は慣れているみたいで、「ああ、ここら辺ね」と、指で的確にいつもあった場所のあたりを触れた。
それから、医師は時間をかけて、丁寧に図までかいて説明してくれた。ちぃちぃのおなかの真ん中の筋肉は弱いか、穴が開いていて、圧力で腸が出てきて、それがしこりに見えるということらしい。穴が開いているかはCTで検査しないと分からないけれど、5歳ぐらいまで経過観察して、それでも穴がふさがらない場合は開腹して縫うという。もっと大きく膨らんでいる子もいるので、この程度なら、穴はまず開いていないでしょうと、おっしゃった。ただ、穴に腸がはまってしまって抜けなくなってしまったら大変なので、様子がおかしくなったり、おなかが赤くなってきたりしたら、すぐに連れてきてくださいとのことだった。
次の診察は年明けになったが、別にキャンセルしてもいいという。たいしたことはないらしい。しこりの理由も分かり、やっとすっきりした。
股関節脱臼の治療で仰向けに寝かせてばかりいて、あまり腹筋を鍛えることがなかったから、こんなことになったのかなあと帰途につきながら思う。それにしても、赤ちゃんって、健康のかたまりのように見えるけれどいろいろあって、将来大きくなって健康に過ごせるように、親が気づいてケアしてあげなければいけないのだなとつくづく感じる。
というわけで、私の質問攻めにもめげず、分からないことは分からないと貫き通し、きちんと専門医を紹介してくれたおじいちゃん小児科医とは、これからもおつきあいが続きそうだ。次回ははしかの予防接種。今度は何を言われるか、半分楽しみで半分怖い。
1995年朝日新聞入社、34歳。前橋、福島総局、東京・名古屋本社学芸部などを経て、04年9月から東京本社文化グループに在籍。現在、第一子を出産し育休中。
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