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棚に積まれたダイコン。袋に付いたラベルを、スーパーのレジで使うような読み取り装置にかざす。
「10月5日、肥料散布」「10月7日、農薬散布」……「1月7日、収穫」
ダイコンが出来るまでの、農家の作業手順が次々に映し出される。タッチパネルの「使用肥料詳細」の部分に触れると、使った肥料の種類も分かる。
画面をのぞき込んだ主婦(46)は「あらすごい。早く実用化して欲しいわ」と声を上げた。
ラベルに埋め込まれているのはICタグ(電子荷札)。これを使って、どんな方法で生産し、どんな流通経路をたどったかわかるシステムの実証実験が、横浜市金沢区の京急ストア能見台店で8日から始まった。
生産情報の、最初の画面に表示されるのが嘉山敬夫さん(59)。横須賀市の農家だ。
15アールの畑で、朝早くから冬ダイコンを収穫、昼までに箱詰めする。段ボールにもICタグ。専用端末で、出荷日を入力する。
昨年8月、専用端末を手にしてから、農作業が終わるたび、同じような入力作業を繰り返してきた。8月20日に土壌を消毒し、9月1日に肥料6種類を畑に盛り込んだ後、19日に種をまいた。
「一つ一つの作業を逐一入力するのは、正直言って面倒だった」と嘉山さんは苦笑する。だが今は、「自分がどうやって育てたか、消費者にじかに分かってもらえるのはうれしい」と顔がほころぶ。「将来は、いい野菜を作る自分なりの工夫も記録して消費者にアピールできたら」
ICタグで農家と消費者が直接結びつけば、気に入った商品を消費者が直接注文する、産地直送の販売も増やせるのではないか、という期待も農家にはある。
○広い応用範囲
牛海綿状脳症(BSE)や、食品の偽装表示。今月中旬には、京都の鶏卵業者が半年前の卵を出荷していたことが判明した。「食の安全」への関心が高まる中で、生産者と消費者をつなぐシステムとして、ICタグに注目が集まっている。
0.4ミリ角のIC(集積回路)に、超小型無線アンテナがついている。コンピューターに番号を渡し、照会された情報が読み取り装置に表示される。実験に使われたICタグは、38ケタという「ほぼ無限」(メーカー)の番号を管理することが可能だ。
消費者側に情報を提供するばかりではない。どこの店に出荷・販売したか。生産者、販売者が商品の行き先を管理するのにも使える。
今月12日、山口県内の養鶏場で「鳥インフルエンザ」が確認され、この養鶏場から出荷された卵約36万個の回収が始まったが、もしICタグが付いていれば、扱った店が即座に割り出せる。
食品以外にも、応用範囲は広い。
千葉県の富里市立図書館では、昨年3月の開館と同時に、全国で初めてICタグを使った本の貸し出し・返却システムを導入した。約8万7千冊の蔵書の表紙裏にICタグを張り付けた。貸し出し限度の10冊までなら、読み取り端末の上にまとめて載せるだけで、一瞬で受け付けが完了。「カウンターで利用者を待たせることが少なくなった」と高橋正名館長は話す。
富士通では02年、パソコンのハードディスクドライブ(HDD)に不具合が起きた。原因は部品メーカーが納入した小さな部品の欠陥で、20万個以上が無償交換の対象になった。
出荷から販売までをICタグで管理していれば、どの店や倉庫にどれだけあるのかが把握でき、不具合が起きた製品の回収も容易になる。
部品の在庫を把握するなど、生産管理を効率化する可能性もある。
○多く残る課題
しかし、本格的に普及するには、まだ課題も多い。
当面は、ICタグの価格だ。ダイコンの実証実験に使われたICタグは、通常は一つ約50円。1本百数十円のダイコンにつけたら、販売価格がはねあがってしまう。
ただ、世界最小クラスのICチップ「ミューチップ」を開発した日立製作所では、100万個以上の注文があれば、一つ10円台になるICタグを4月から発売する。普及によって価格が下がる可能性は見え始めた。
通信方法などの規格統一も問題だ。
日本では、坂村健・東大教授が主宰する研究組織のもとに大手電機メーカーなど300社以上が集まり、共同開発を進めているが、米国でも別の規格の策定が進んでいる。
国際的に取引される商品に使うとなると、インターネットのアドレスのように、タグにつける番号の割り振り方や、管理方法についてのルール作りも必要になる。
そして、大きな問題が消費者のプライバシーだ。将来、消費者が特定できる電子マネーによる決済などとタグがネットワークを築くようになれば、商品の購入者が簡単にたどれるようになる。その情報をだれが、どう管理するのかという問題が発生する。坂村教授は性急な利用で弊害が起きることを懸念し「実験を重ねて様々な課題を解消してから本格普及」と話している。
(朝日新聞東京本社発行 1月18日付朝刊)
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