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若年失業率が10%に達し、フリーターは200万人を超える。これまで若者の就業問題は、この2点ばかりに目が向けられてきた。最近、にわかに注目されているのが、失業者でもフリーターでもない無業の若者たちの存在だ。彼らは「ニート」と呼ばれる。
「ホームレスにでもなるつもりか」。かつて不登校やひきこもりの当事者たちは、父親からそんな言葉で怒鳴りつけられてきた。
もはやそれは脅し文句としては通用しないかもしれない。横浜市に住む23歳になる無職の青年の話を聞いて、そう思った。彼は「仕事をしろ」と口やかましい親に反発し、実際にホームレスになった経験があった。
中学2年でいじめにあい、学校に行けなくなったことが、最初のつまずきだったという。家にも居場所はなく、卒業と同時に全寮制の工場に就職した。先輩の命令に絶対服従の職場環境で、やはりいじめとしかいえない仕打ちにあった。半年で仕事を辞め、実家に戻った。
翌春、定時制高校に入学したが、ほとんど通わなかった。両親の離婚やアトピー性皮膚炎の悪化が重なり、通学どころではなかったからだ。
その後、1人で暮らしながら、警備やビル清掃のアルバイトをしていた時期もある。だが、職場で「後輩の面倒を見るリーダーになってくれ」と頼まれ、首を縦に振れなかった時から、自分は仕事に向いてないのだと考えるようになった。
「上司とか部下とか、先輩とか後輩とか、仕事って常に上下関係がある。人の上に立ったり下になったりというのに耐えられない」
バイトをやめ、母親の元に身を寄せたが、居心地はよくなかった。一昨年、横浜駅周辺でホームレス生活を始めたのは、友人の家を泊まり歩く家出の延長だった。空き缶拾いで小銭を稼ぎ、コンビニでおにぎりやパンを買った。市からホームレスに食券が支給されることも知った。
1年で母の元に戻った。今も仕事に就く気はない。
「ホームレスをやって分かったのは、日本は豊かだってこと。無理して働かなくても生きていける」
就職するくらいならホームレスになった方がマシ――それを実践してしまうのは極端かもしれない。だが、職場の人間関係に自信が持てず、就職しようとしない若者は急増している。彼らこそ、ニートと呼ばれる存在だ。
○社会の機能不全映す
「Not in Education, Employment or Training」の頭文字を取ってNEET。義務教育終了後、進学も就職もせず、職業訓練を受けていない若者を指し、英国のブレア政権が使い始めた言葉だという。
英国では16〜18歳のニート率が1割に迫る。その事例を研究するグループに参加し、「日本版」のニートを定義づけたのが、独立行政法人労働政策研究・研修機構副統括研究員の小杉礼子さんだ。
まず日本では高学歴でもニートに近い実態があることから、対象年齢を15〜34歳に広げた。非労働力のうち通学も家事もしていない無業者をニートと位置づけ、その数は03年で64万人、10年前の1・6倍にのぼると推計した。
英国のニートは階級社会で排除、差別されている層の問題とされるのに比べ、日本では事情が複雑だ。小杉さんの分析を元にした四つの分類では、刹那(せつな)的に生きる「非行型」は英国とも共通し、各国に存在する。
「自己実現追求型」「自信喪失型」は長引く不況で、望んだ通りの就職がままならない現実と深く関係する。社会との接点が極端に少ない「ひきこもり型」を含め、親に子供を養う余裕があることが前提で、「非行型」以外は日本社会ならではの問題といえるかもしれない。
小杉さんがいう。
「日本の若者が仕事に対して過敏になるのは、就職するチャンスが新卒時に偏り、一度失敗すると再挑戦が難しいから。一方で、キャリアにつながる実践的な教育をしてこなかった学校システムも、即戦力を求める企業の実情と合わなくなっている」
まっさらな状態で会社に入り、給料をもらいながら仕事を覚え、そのまま定年まで同じ会社に勤め続ける。そんな高度経済成長に合わせて構築されたシステムの機能不全が、ニートを生み出す素地になっているというのだ。
○誰でもなりうる存在
ニートは今年2月、国会で初めて取り上げられた。きっかけは、東大社会科学研究所助教授の玄田有史さんが、1月発行の論壇誌でニートについて論じたことだった。
その後、玄田さんは与野党の勉強会で話した。民主党は参院選のマニフェストにニート対策を入れた。
国の対応も早かった。厚生労働省はニート対策を「若者人間力強化プロジェクト」と名付け、来年度予算で231億円を要求。合宿形式の集団生活で、働く意欲の向上を目指す「若者自立塾」の新設などを盛り込む。
玄田さんは7月にフリーライター曲(まが)沼(ぬま)美恵さんとの共著「ニート」(幻冬舎)を出版、すでに2万6千部に達した。にもかかわらず、ニートという言葉が政府や読者へ正確に届いているか、玄田さんは懸念している。
「国の対策は、働く意欲がない若者支援とうたわれる。まるで本人が怠けて、甘えているかのように聞こえてしまう。働いている人たちも働く意味を疑うことは多いはず。自分もニートになりうるという視点を持って欲しい」
国側がフリーターやニートに関心を寄せるのは、将来の税収減や年金制度の破綻(はたん)が心配されるためだ。しかし、玄田さんが注目したのは、「大人自身の考え方や生き方を問う存在」だからだという。
NPO法人「『育て上げ』ネット」(東京都立川市)は先月、ニートを対象に「若年者就労基礎訓練プログラム」を始めた。ホームレスを経験した冒頭の彼もいま足を運ぶ。
昼夜逆転生活を送りがちな彼らに、まず時間通りに集合してもらうことがプログラムの基本。ボランティア活動に参加したり、地域の商店や農家を手伝ったりしながら、自立を目指す。正社員になることが目標ではない。
理事長の工藤啓さん(27)は、対人関係の苦手意識の強さによって、ニートを「ひきこもり以上フリーター未満」と位置づける。
「企業に就職しなかった僕らスタッフもニートに近いかもしれない。彼らの気持ちは分かりますよ。社会とのかかわり方は、一つだけじゃないと思うんです」
<参考情報> 厚労相、文科相、経産相らが参加する「若者自立・挑戦戦略会議」は、ニート対策を含む若者への就業支援として、来年度予算で810億円を要求している。財政難にもかかわらず、前年度比54%増。個人的な相談に乗る「ジョブカフェ」の整備や、教育訓練と企業実習を組み合わせた「デュアルシステム」の推進などの政策が並ぶ。
(朝日新聞東京本社発行 10月2日付朝刊 週末版be)
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