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中国、元切り上げ 2%幅、米に配慮 複数通貨と連動化

2005年07月29日

中国、元切り上げ 2%幅、米に配慮 複数通貨と連動化 1ドル=8.11元に

 中国の中央銀行にあたる中国人民銀行は21日夕、人民元の為替レートを1ドル=8.28元から1ドル=8.11元に切り上げる、と発表した。切り上げ幅は2%。あわせて、米ドルのみに連動させてきた現行制度を見直し、ユーロや円も含めた複数通貨の動きを参考に調整する制度に切り替える。21日から実施した。中国の為替制度の大幅な見直しは94年以来、約11年半ぶり。=2面に「時時刻刻」、3.11面に関係記事

 人民元の切り上げで、中国のドル建ての経済規模は拡大し、消費力も高まることから、世界経済へ及ぼす影響力は一段と高まるのは必至だ。中国経済の成長とともに、3年にわたって切り上げ観測が続くなか、この時期に踏み切ったのは、胡錦涛(フーチンタオ)国家主席の9月訪米、ブッシュ大統領との会談を控え、対中貿易赤字の増大から人民元の切り上げを強く要請していた米国への外交的配慮もある、とみられる。

 人民元相場はアジア金融危機を機に97年ごろから事実上、1ドル=8.277元に固定。制度上は対ドルで前日比上下0.3%の変動幅を設けているが、経済の安定を優先し、人民銀行の介入によって動かないように運用してきた。今回の見直しでも、ドルに対する変動幅は上下0.3%で同じ。ドル以外の通貨に対しては一切明らかにされていない。このため実際にどの程度の動きを示すかが今後、注目される。

 今回の見直しでは、人民元を連動させる対象を米ドルだけでなく、「通貨バスケット制」と呼ばれる複数通貨を加重平均した指標を参考に為替水準を調整する方式に切り替えた。人民銀行は、対象を複数通貨に広げることで、より柔軟な運用方法に改善したい考え。ただ、実際には対外決済通貨の大半を占めるドルの動きに大きく影響を受ける、とみられる。

 外国為替市場では、中国の輸出拡大につれて、人民元の切り上げ観測が流れ、人民元の上昇圧力が強まっていた。中国人民銀行が対ドル相場固定のため「ドル買い人民元売り」の介入を続け、05年6月までの3年間で外貨準備高は約3倍にあたる7110億ドルまで膨らんだ。景気が過熱するなかで、人民元の流通量が増えてインフレ圧力を抱えていた。今回の措置は、中国国内のインフレ圧力を和らげるとともに、米国を筆頭に海外から「人民元が低いために、中国製品の外貨建て価格が不当に安く据え置かれて貿易不均衡を招いている」との批判が強まっているのをかわす意図がある。

 ◇国際通貨の転換点に

 《解説》米国が金とドルの交換を停止した71年のニクソン・ショック、ドルと円など他通貨の間で大幅な調整が行われた85年のプラザ合意――。今回の人民元改革は、こうした戦後の国際通貨の転換点に匹敵する局面の入り口と言える。日本はニクソン・ショックの2年後に変動相場制に移行し、プラザ合意を経て世界経済の一極となった。現在の中国の状況は70年代初頭の日本と似ており、中国は、世界経済の中核を担うための第一歩を踏み出しつつある。

 ニクソン・ショックでは金・ドル本位の固定相場制が崩れ、変動相場制に移る契機となった。円切り上げが輸出に悪影響を及ぼすことを恐れた日本は、ドルを買い支えて固定相場制を維持しようとしたが通貨調整の圧力に抗しきれず、71年末のスミソニアン合意で1ドル=308円への大幅切り上げを実施。73年春に変動相場制へ移行した。

 当時の日本は高度成長で競争力が強まり、日米繊維摩擦が激化。68年に10.4億ドルだった経常黒字が71年には57.9億ドルに急増した。円切り上げ期待から巨額の資本が流れ込み、外貨準備高も同時期に29億ドルから152億ドルに積み上がった。

 「世界の工場」として台頭する現在の中国も、04年までの3年間で経常黒字が4倍弱、外貨準備は3倍弱になった。経常黒字の恒常化、資本流入と外貨の積み上がりはかつての日本とうり二つだ。米政府・議会が、巨額の対中貿易赤字を背景に人民元切り上げを中国側に迫る構図も重なる。

 中国は通貨面では外国為替制度や対外資本取引での厳しい規制のため、存在感が薄かったが、「日本と同様、いずれ変動相場制へ移行せざるを得なくなる」(市場関係者)との見方は強い。

 中国経済は、銀行の不良債権問題や国有企業の経営不振、都市と農村部の貧富の格差拡大など課題が山積しており、今後の通貨改革も曲折が予想される。しかし、「日本が30年かかった経済発展を早回しで進んでいる」(財務省幹部)中国は、アジアの「経済大国」への階段をまた一歩上り、「ドル、ユーロ、円、人民元」の4極通貨体制へつながる時代の幕が確実に開きつつある。

 ●スノー米財務長官、歓迎の声明

 スノー米財務長官は21日、「より柔軟な為替制度を採用するという中国の発表を歓迎する」という声明を発表した。「新制度を完全に実行すれば、世界の金融の安定に対する重大な貢献になる」と評価したうえ、「中国の管理変動相場制が市場の基礎的条件に沿って動くかどうか監視する」としている。

 ●谷垣財務相も

 谷垣財務相は21日夜、記者団に対し「細かい内容は分析中だが、柔軟な為替制度に向けて中国が決断して動き出したのは歓迎すべきことだ。人民元が柔軟な方向に動いていくことは、中国のみならず日本経済、世界経済にプラスと考えてきた」と述べた。

 ◆キーワード

 <中国の為替制度> 94年の改革で「管理された変動相場制」に移行した。制度上は、人民元レートの変動幅を対ドルで前日比上下0.3%以内、ユーロや円に対しては上下1%以内に収める仕組み。対外決済通貨の大部分がドルのため、事実上のドル連動となっている。97年に始まったアジア経済危機を契機に、1ドル=8.277元にほぼ固定された。

(朝日新聞東京本社発行 7月22日付朝刊)

     *

(時時刻刻)小幅に官民とも冷静 人民元切り上げ

 「8月説」が根強かった人民元の切り上げに、中国が21日踏み切った。意表をつかれた世界の金融市場に一瞬動揺が走ったが、小幅切り上げだったことで、日本の政府や産業界も冷静な受け止め方をみせた。だが、いっそうの人民元改革に向けた米国の要求は再び強まりそうだ。元相場が大きく変動していけば、生産拠点を相次ぎ中国に移した日本の製造業を含め、復調した世界経済に冷や水を浴びせかねない。「人民元ショック」の行方は定まらない。=1面参照

 ●財務官、手短に「歓迎」

 切り上げの一報が伝わった午後8時すぎ、財務省では、外国為替問題を担当する渡辺博史財務官が自室にこもり、複数の幹部が集結。あわてぶりを隠せなかった。午後10時すぎ、渡辺氏は記者団に「中国が為替の弾力化に踏み切ったことは歓迎する」と手短に語った。「中国側から連絡はあったか」との問いには「コメントは控える」。

 渡辺氏は切り上げ発表前の21日夕、記者の質問に「7、8月が一つのタイミングであることは間違いない」と強調していたが、夜のやりとりでは「私のみならずマーケット関係者も詳細がわかりかねているところがある」と本音を漏らした。

 一方、日本経団連は、静岡県内での夏季フォーラムの最中。夕食後の懇親会の席上、「切り上げ」が伝わると、財界人に驚きが広がった。

 オリックスの宮内義彦会長は「切り上げの水準は小さいが、今後の大きな動きへの予兆。日本が1ドル=360円を見直したときに匹敵する動きだ」と興奮気味だった。

 「中国の真意」を探る発言も相次いだ。野村ホールディングスの氏家純一会長は「切り上げ幅は小さく、中国政府はこれによって、どういう動きが出るか試したのだろう」と推測する。

 ソニーの出井伸之最高顧問は「ゴルフで言えば、中国はドライバーで打たず、まずはパターで試したのではないか」とたとえてみせた。

 ●現地生産企業「問題ない」

 日本企業への影響は、その軸足が対中輸出にあるか、中国からの輸出にあるかで違ってきそうだ。ただ、元の切り上げ幅が小さいうえ、ドル決済などで対応済みの企業が多く、全般に落ち着いた受け止め方だ。

 「元が多少変動してもビジネスの方向性に大きな影響はない」。ホンダの福井威夫社長は20日の記者会見で語っていた。

 同社は6月下旬、中国・広州の合弁工場で輸出専用に作る小型車の欧州向け輸出を開始。元切り上げで輸出品の価格が実質的に上がれば、マイナス要因になる。同業他社は中国の国内市場向けの現地生産や対中輸出が中心なので、輸出品価格が下がるメリットが出る。

 日本の鉄鋼メーカーは、中国企業とはドル決済で取引するため、元切り上げで輸出価格が下がり、有利に見える。ただ、日本鉄鋼連盟の三村明夫会長(新日本製鉄社長)は「需要の変化などを見ないと判断できない」という。

 一方、中国内の生産拠点から製品を輸出する企業は、輸出価格の実質値上がりでマイナスの影響が懸念されるが、深刻な見方は少ない。東レの榊原定征社長は、ドル建て取引を拡大しており「切り上げ幅が10%以内なら問題ない」と語る。松下電器産業も「突然の感はあるが想定の範囲内。影響は少ない」(幹部)という。

 将来、元の切り上げ幅が広がる可能性もある。みずほ総合研究所は、10%切り上がった場合の日本企業への影響を試算。対中輸出中心の鉄鋼、非鉄金属で4%、輸送機械で1%弱の増収効果がある一方、中国からの輸出が中心の繊維や家電では2〜3%程度の減収が見込まれるとしている。

 ●静まらぬ米の改革要求

 「人民元改革が近い」という観測は最近、急速に強まっていた。

 米上院で対中制裁法案を提出したシューマー上院議員が6月末、スノー財務長官、グリーンスパン連邦準備制度理事会議長と会談。「数カ月以内に元を切り上げる可能性が極めて高いという確信が得られた」として、7月末までに予定していた法案採決の延期を受け入れたからだ。この会談時にスノー氏が「8月実施」との見通しを伝えた、との報道もあった。

 具体的な改革に中国が乗り出したことは、03年秋の訪中以来、圧力をかけ続けたスノー氏には目に見える初の成果だ。

 ただ対中制裁法案は、人民元が3割近く割安な相場で固定されているとみなし、中国からの輸入製品に対して27.5%の関税を課すことができるようにする内容。今回の元切り上げで、米国の対中赤字が大きく減るという見方は少ない。

 議会を納得させる切り上げ幅にもほど遠い。このためシューマー氏らは21日の記者会見で、「将来、さらに大きな進展がなければ、われわれは多くを達成したことにはならない。今後数カ月間、中国の動向を注視したうえで、制裁法案の採決を求めるかどうか決断する」とくぎを刺した。来年秋の中間選挙に向け、米国の対中圧力はさらに強まりそうだ。

 一方、中国の動きに追随したマレーシアの通貨バスケット制移行に「東アジア経済における中国の存在感が大きくなる」

(朝日新聞東京本社発行 7月22日付朝刊)


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