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少子化、変わる生活 新たな価値へ転機 人口減少社会を生きる

2006年01月13日

図表

日本の人口の推移

 生まれた赤ちゃんの数が死亡者数を1万人下回り、1年前に比べて人口が1万9000人減る――厚生労働省や総務省が昨年末発表したこれらの統計で、日本が人口減少社会に突入したことが確認された。人口が長期にわたって減るという、日本の歴史をひもといても初めての経験を私たちは生きることになる。06年以降、どんな社会に向かっていくのだろうか。

 日本の人口が減った――そう聞くとショッキングに感じるが、超長期的にみれば、人口は一本調子で増えてきたわけではなく、増加と停滞を繰り返しながら増えてきた。上智大教授の鬼頭宏さん(歴史人口学)は「過去には四つの波があった」と指摘する。

 第1の波は縄文時代。6000年前ごろには暖かくなって人口は増えたが、4500年前ごろから寒くなって激減したとみられる。次の波は弥生時代。稲作の定着などで人口が増えた。だが、平安時代になると、開発の停滞や干害などの影響で成長は鈍化していく。

 第3の波は14、15世紀に始まった。生活水準が上がって人口が増えたが、江戸時代末期に停滞期に入る。飢饉(ききん)や寒冷化による死亡率の上昇などの要因が絡む。

 そして第4の波。19世紀以降の工業化がこれまでにない人口増加を引き起こし、現在は増加の最終局面だという。

 鬼頭さんは「これまでは、人口停滞期を超えて新たな価値観や社会システムが生まれている」と話している。

 ◆江戸の「えーっ」

 「少子化対策」といえば、ここ10年ほどの日本の重要課題だが、実は江戸時代にも行われていたらしい。

 江戸時代末期の人口停滞の背景には、女性の晩婚化や少子化があったという。特に北関東では18世紀前半から後半にかけて、江戸など都市への流出も影響し人口が20%以上も減った。人口減に悩んだ藩の中には少子化対策を行うところもあった。妊娠した女性を登録して江戸版「母子手帳」を作成、それにもとづき米や金などの養育手当を出すというものだ。残念ながら効果のほどは不明というが、まさに歴史は繰り返す?

 ◆ギリシャの「?」

 ギリシャ時代にも人口減少があったというが、その理由が面白い。「人口減少のわけは人間が見栄(みえ)を張り、貪欲(どんよく)と怠慢に陥った結果、結婚を欲せず、結婚しても生まれた子供を育てようとせず、子供を裕福にして残し、また放縦に育てるために、一般にせいぜい1人か2人きり育てぬことにあり、この弊害は知らぬ間に増大したのである」――最近の新聞の社説か、それとも識者の論文だろうか? 実はこれは紀元前2世紀半ばに書き残された文章だという。(『村川堅太郎古代史論集I』による)

 それによると、長期の戦争や疫病があったわけでもないのにギリシャ全土にわたって子どもが減り、人口減少が進んでいるという。社会の成熟は、少子化を招き、それによる社会への影響が危惧(きぐ)される――いつの時代も変わらぬ悩みのようだ。

 ◆縄文の「あれっ」

 近年まで縄文時代の人口については漠然としか分かっていなかった。国立民族学博物館の小山修三・名誉教授は縄文遺跡の分布をもとに時代別・地域別に人口を推計。これによると人口は縄文時代早期には2万人ほどだったが、最盛期の中期には26万人程度まで増加したという。また人口密度の地域格差は大きく、東日本が高く、西日本が低い「東高西低」だったとされる。

図表

2030年 翔一家の家族構成

 ○2030年、暮らしこうなる 年金目減り、通勤緩和も

 今から24年後、2030年×月×日。人口はピークだった04年より1000万人以上減り、1億1758万人に。私たちはどんな生活をしているのだろうか。

 「55歳おめでとう。あと定年まで10年だね」。朝食のテーブルで誠(55)は妻の陽子(56)と、長男の翔(しょう)(23)に祝福された。誠と陽子は団塊世代を親に持つ団塊ジュニアだ。

 「とにかく健康が一番ですよ」。誠の母で、入居中の有料老人ホームから遊びに来た幸子(83)も声をかける。生活習慣病予防の健診を受け、律義に医師の指導を守ってきたかいがあり、大きな病気はしていない。「病院の窓口負担は、あなたたちと同じ3割になった。これで病気になったら、ただでさえ色々と天引きされて少ない年金がなくなってしまうからね」と元気そのものだ。

     *

 誠の勤める製薬会社は、60歳だった定年を65歳に引き上げた。その後も嘱託やパートで働ける。地価も下がり、夢だった都内で3階建ての庭付き住宅も買えた。「35年の住宅ローンの返済もそれほど負担ではないな」と誠は感じている。

 「野菜サラダどう? レタスとトマトが新鮮でしょ」。陽子がほほえむ。農業に携わる人が高齢化し、耕作が放棄された農地が増えた。野菜は空洞化が進んだ都心のオフィスでも作られている。照明は発光ダイオード(LED)、室温や肥料もハイテク管理で、水耕栽培で育てる。

 看護師の陽子が「うちの病院ではフィリピンの看護師が増えたわ」と話を切り出した。「そういえば、翔のベビーシッターもフィリピン人に頼んだこともあったね」と誠。「私の住んでいるホームでも、たくさん働いているわ」と幸子が相づちを打った。

     *

 朝食後、掃除ロボットで部屋を片づけ、留守番ロボットをセットして2人は職場に向かった。介護施設の見守りロボット、企業の受付や店舗で案内ロボット……人手不足を補うため、サービスロボットが大活躍だ。

 誠のオフィスは都心にある。新入社員時代は通勤ラッシュに悩まされたが、最近は電車の混雑もそれほどでもなく、座って新聞を読める日もある。

 翔は大学院へ向かった。電車の窓から、昔、通った幼稚園と保育園が一体化した総合施設が見える。「おふくろが迎えに来るのは、延長保育が終わる夜8時15分ぎりぎりだったな」。街の景色を見ながら、思い出が頭をよぎる。

 小学校は自宅から5キロも離れていた。子供の数が減り、統廃合が進んだためだ。当時、30代前半でフリーターだった叔父が毎日、車で送り迎えしてくれた。「おれが大学生の頃は不景気で、就職できなかった。でも、組織に縛られない自由な生活もいいもんだぞ」と何度も聞かされた。

     *

 18歳人口は92年度の約205万人をピークに減少し、07年度には「大学全入時代」に突入。大学の偏差値が二極化するなかで、翔は一流大学の商学部に合格した。

 入学ガイダンスで「労働力不足に悩む企業は、学歴や新卒かどうかは気にしない。入社時にすでに一人前に仕事ができる人材を求めている」と、就職課の職員からはっぱをかけられた。

 バイトや合コンはほどほどに勉強に励んだ。大学院進学も、高齢者の消費に関するマーケティングの専門知識を深めるためだ。

 授業の前に、図書館に寄った。70代のパート職員がパソコン検索で専門書を素早く見つけてくれた。「子どもも孫もいないから、家にいてもつまらない。妻と2人、食べていけるぐらいは働かないとね」と笑った。

 ●支える

 高齢化の影響もあり、政府の見通しだと約30兆円の国民医療費は25年度には倍以上に。抑制のため、糖尿病などの生活習慣病対策が中長期的な課題になっている。今年の国会で議論される医療制度改革では、08年度から75歳以上を対象に独立した医療制度をつくり、介護保険と同様に保険料を年金から天引きする案が盛られた。10月からは、一定以上の所得がある高齢者の窓口負担は現役と同じ3割に引き上げられる予定だ。

 ●暮らす

 04年の農地面積は471万ヘクタール。農林水産省は、耕作放棄などの対策が進めば15年には450万ヘクタール、このままだと431万ヘクタールになると推計。基幹農業従事者は04年は220万人だが、15年には146万人に減り、高齢化率は約6割と予測。建設経済研究所によると、20年度の新設住宅着工戸数は04年度より38万戸減の81万戸と予測している。

 ●学ぶ

 文部科学省の試算によると、05年度に約137万人だった18歳人口は、09年度には約121万人に減り、以後20年度まで120万人前後で推移する。大学志願者数は、05年度は79万人だったが、07年度には67万人となり、「全入時代」の到来が見込まれる。

 ●働く

 改正高齢者雇用安定法では、企業にこの4月から13年度までに段階的に、定年引き上げや再雇用などで65歳までの雇用確保をすることを義務づけた。厚生労働省の研究会では、30年の労働力人口は、高齢者・女性・若者の就業支援策などで労働市場へ参加が進んだ場合でも04年の6642万人より500万人以上少ない6109万人に、参加が進まない場合は5597万人になると推計している。

写真

伊東四朗さん

 ◇哺乳類の本能へ戻ろう 喜劇役者・伊東四朗さん

 「人口減社会」と聞いて、日本沈没のような危機感を感じます。国も対策を考えているようですが、政策を立てている人たちはお年寄りが中心。若い人がどう考えているか知りたい。

 私は5人兄弟の4番目。幼少時代、下町の路地裏で兄弟や近所の子供たちと、竹トンボやコマで遊びながら、社会のルールや生活の知恵を学びました。

 当時は、近所全体が家族だった。悪いことをすると、よそのおやじにもしかられた。私の父親も厳しく、時にはほおをビシッとたたかれました。少子化で、社会全体が過保護になりすぎていることが心配です。

 若い世代が子供を産まなくなった要因の一つには、子育てが格好よくない、ダサいという意識もあるのかもしれない。だから、おっぱいの形が悪くなるからとミルクで育てたり、児童虐待をしたりという親も出るのではないか。

 私には成人した3人の息子がいます。子供を持つまでは実感はなかったのですが、生まれたら本当にかわいい。ほっぺたでもどこでもなめましたよ。

 妻は専業主婦ですが、私も積極的に育児にかかわりました。おしめ替えやおふろ入れなど、楽しみでした。一緒に子育てをしたことで、子供は夫婦の共有物なんだと実感しています。

 今の人たちは、子をかわいがるという本能を持つ「哺乳(ほにゅう)類」から離れて変な方向へ向かっている気がします。哺乳類の原点に戻り、子育ての大切さを自覚する時だと思います。

     *

 68歳。「てんぷくトリオ」を結成、テレビ、映画などで活躍。レギュラー番組は「伊東家の食卓」(日本テレビ系)などで、「理想のお父さん」として幅広い世代の人気を集めている。

写真

室井佑月さん

 ◇将来の不安で産めない 作家・室井佑月さん

 自分の将来設計図さえ描けない日本の社会で、安心して子どもを産めるはずない。責任感のある人ほど慎重になると思いますよ。今や、子どもは「最高のぜいたく品」ですから。

 でも、私は子どもを産んで本当に良かったと思っている。離婚した夫との間にできた息子です。自分の時間を捨て、やりたくない仕事もやり、育ててきました。今、5歳になりますが、一緒に笑い、道を歩きながら大声で歌い、時には本気でけんかもして。

 息子は「ママはダメな人だけど、好き」と言ってくれます。おにぎりが一つしかなくても、きっと半分くれると思います。息子は私の最高の作品、自分の命より大切なものです。

 今でも週2日は徹夜で仕事をしています。こんなに頑張れるのは家族がいてくれるからです。私の一番の自信は、子どもと両親を食べさせていることかな。

 でも、今の日本には大きな不安を感じる。

 国や政治家たちは、日本が借金で身動きが取れなくなるまで知らん顔していた。その結果、少子化対策にかける十分なお金もない。憲法9条が改正されたら、子どもたちが兵隊にとられるかもしれない。そんな社会にしておきながら、政治家や官僚たちが「少子化を憂えている」と騒ぐなんて、ウザイ。騒ぐ前に本気で借金減らせ、と言いたいですね。

 私だって日本人が少なくなるのは切ない。でも、子どもを産む産まないは他人にどうのこうの言われることじゃないと思う。

     *

 35歳。モデル、女優、銀座のホステスなどを経て、97年に作家デビュー。著作に「熱帯植物園」「恋より仕事」「子作り爆裂伝」など。テレビやラジオのコメンテーターとしても活躍している。

(朝日新聞東京本社発行 1月1日付朝刊)


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