■「竹島周辺調査 お互いに頭を冷やせ」(06年4月20日)社説
日本海に浮かぶ孤島、竹島の周りで、また大きな波風が立ってきた。
韓国は「独島」と呼び、日本と領有権を主張し合って互いに譲らない。国連海洋法条約に基づいて日本と韓国がそれぞれ線を引く排他的経済水域(EEZ)には、どうしても重なり合うところが出てくる。
そういう重複部分も含む海域で日本の海上保安庁が水深の測量調査を計画し、韓国側が激しく反発している。
韓国政府は、日本の測量船が重複海域に入れば拿捕(だほ)も辞さないという強い姿勢を見せている。盧武鉉大統領は「国粋主義傾向のある日本の政権が侵略の歴史を正当化する行為だ」と非難した。
これは誤解というものだ。日本はなにも植民地支配の歴史と絡めて調査を考えているわけではない。海上保安庁によると、今回の目的は海底の新しいデータを得て海図を作り直すことだという。
思い込みと感情的な対応は、問題をこじらすだけである。ここは頭を冷やして互いに知恵を絞りたい。
韓国もここ数年、同じような調査を続け、そのたびに日本は抗議した。この関係が逆になるだけではないのか。日本にも言い分があり、科学的な調査であることを理解してもらいたい。
一方で日本は、なぜ韓国があんなに反発するのか考えてみる必要もある。
1905年に日本は竹島を島根県に編入し、領土であることを内外に示した。だが、それは朝鮮半島を植民地化していく時期でもあった。
だから韓国の人たちは自然と、日本が竹島にからむ行動をとるとそういう被害の歴史につなげて見てしまいがちだ。それだけ心に深く根ざした問題なのだ。
かつて周辺で操業する日本漁船を多数、拿捕したこともある。日本の領有権はもとより、それを主張することさえ認めようとしないかたくなな態度できた。
今度の強硬な姿勢も、来月に地方選挙を控えた政権の人気取りといった次元だけでとらえるのは間違いだろう。
日本は、自国のEEZ内だから韓国と関係なく調査できるという立場だ。海上保安庁は調査についてホームページに公表し、韓国などには郵送もした。
だが、ただでさえ複雑な背景を抱える海域である。それに加えて、いまの日韓関係は小泉首相の靖国神社参拝などでかつてなくささくれだっている。郵送だけですまさず、なぜ今なのかも含めて丁寧に説明すべきだ。
その間、調査はEEZが重なり合わないところでまず進め、重複海域への立ち入りを見合わせるのも手ではないか。
漁業の面では、竹島の帰属問題は棚上げにして互いに操業を認める暫定水域を設定した。測量調査でも、そんな知恵を編み出せないか。
北朝鮮の問題に限らず、東アジアの将来のために日韓は手を携えていかねばならない。そんなときに「調査強行」「拿捕」なんて時代錯誤というほかない。
■「日韓の妥協 まずはホッとした」(同23日)社説
日韓の交渉決裂という事態はなんとか避けられた。竹島の近海で日本が予定した海洋測量調査をめぐり、最後は双方が主張を引っ込め、穏当な妥協にたどり着いた。
それにしても、どうしてここまで緊迫してしまうのか。領土がらみの問題が民族主義的な感情に火をつけやすいことはあるにせよ、日韓の間に横たわる過去をめぐる溝の深さをあらためて思わないではいられない。
海底の山や谷の名称を検討する国際会議が6月に開かれる。それに合わせて韓国には、竹島周辺を韓国式の名に変えるよう提案する動きがある。日本はこれに対抗する狙いもあって、海底の測量調査を計画した。
火種になったのは、竹島の領有権争いがからんで両国の排他的経済水域(EEZ)が重なり合う海域の調査だ。双方とも自分のEEZであると譲らず、韓国側は日本が調査を強行すれば測量船の拿捕(だほ)も辞さない構えを見せていた。
結局、日本は調査を取りやめる。韓国も今度の国際会議では提案しない。そんな合意がとりあえずできた。
今の段階ではこれしか考えられないという現実的な妥協である。危機を回避した双方の努力を評価したい。
争いの元となったEEZの線引きについても、5月にも交渉を再開することで合意した。息の長い交渉になるだろう。
今回の騒ぎで遺憾なことがあった。
「侵略戦争で確保した占領地について権利を主張する人たちがいる」。盧武鉉大統領は、そんな表現を使って日本を非難している。
領有権を主張しているのは事実だが、これでは国家指導者が先頭に立って民族感情をあおっているようではないか。問題の解決には何の役にも立たない。
人や経済、文化の交流がこんなに広がっている隣国同士なのに、「拿捕」とか「侵略」とかいう過激な言葉が飛び交うのはなんとも情けない。
そもそも領有権の主張は簡単に折り合えるはずもない。容易に決着しないからこそ、緊張を避ける現実的な知恵が必要だろう。
それぞれの立場は立場として、領有権はとりあえず棚上げし、今回のような科学調査が無用な緊張を生まずにすむルールを編み出してほしい。
日韓の漁業協定では、竹島の周辺海域を入会地のような「暫定水域」にした。日本と中国の間には、EEZ内の海洋調査について2カ月前までに相手方に伝える事前通報の制度ができている。
実際は、暫定水域に日本漁船が思うように入れていない。事前の通報もなしに中国が調査をする例も少なくない。
とはいえ、そういう制度があるとないとでは、大きな違いである。
それぞれが調べた海底のデータを少しずつでも交換する。調査そのものにも協力し合う。そういう成熟した関係を思い描いてみたい。
■「盧大統領 原則一本やりの危うさ」(同26日)社説
怒りのボルテージを上げているうちに、収まりがつかなくなっているかのようだ。
盧武鉉大統領が「特別談話」を出した。韓国で独島と呼ぶ竹島の領有権を日本が言うのは不当であり、「独島は、歴史の清算と完全な主権の確立を象徴する」と断じた。
「日本が誤った歴史を美化し、それを根拠に権利を主張する限り、韓日間の友好関係は成り立たない」とも述べた。
歴史教科書や小泉首相の靖国神社参拝の問題とあわせ、厳しく対処していくという。1年前には大統領府のホームページで「外交戦争もありうる」と語っていた。その頑(かたく)なさがさらに強まった。
韓国が信ずる原則に基づき、言いたいことを言う。決して譲りはしない。政権の基盤が弱いがゆえの国内向けのポーズだ、などと矮小(わいしょう)化してはならない。そんな警告を込めたのだろう。自らの任期中は日韓の和解は無理だと言っているようにも響く。
だがちょっと待ってほしい。領土問題を正面にすえたのでは、日韓の関係はにっちもさっちもいかなくなる。
過去、日本は朝鮮半島を植民地にして多大な迷惑をかけた。そのことは真摯(しんし)に反省していかなければならない。侵略戦争の責任者もまつる靖国神社に首相が参拝するのは理が通らない。そうした点について、私たちは社説でこれまで何回も訴えてきた。
韓国の人たちが被害の歴史に竹島の領有権問題を重ね合わせて見がちなのも、まったく理解できないとは言わない。
けれども、日本も領有権を主張する根拠を持っている。「植民地支配の歴史を正当化するもの」とは別の話だ。そこを混同し誤解されては心外である。
日本はことあるごとに抗議はしているものの、韓国はもう半世紀もの間、竹島の実効支配を続けている。
「騒がないほうが得策だ」。かつてそう語ったのは、大統領自身である。騒ぎ立てるほどに他の国も関心を寄せる。それこそ、韓国が避けたがる「問題の存在を知らしめること」だろう。
日韓の国交正常化にしろ漁業協定にしろ、島の帰属についての決着はあえて避けてきた。それを「逃げ」だと頭から否定すべきではない。棚上げしたうえで関係の進展をはかっていく現実的な知恵であった。
「成功するには『書生的な問題意識』と『商人的な現実感覚』が必要だ」。前大統領の金大中さんは昨日の朝日新聞で語っている。両者の調和がとれてこそ政治がうまくいくというのだ。
盧大統領の談話は、いかに指導者間の信頼関係が失われているかを如実に物語っている。だからといって、自らの原則をそれこそ「書生的」に主張するだけでは、解決の糸口さえ見つけられない。
竹島をめぐる今回の対立は、双方の外交努力でとりあえず急場をしのいだ。そんな状況で最高責任者が突き進めば、肝心な時に外交の手足を縛ってしまう。