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|記事と写真|学習のポイント|ワークシート|バックナンバー| 死刑廃止しなければ人権後進国 大島令子(私の視点)(朝日新聞東京本社発行 5月27日付朝刊) 昨年暮れ、東京と名古屋の拘置所で2人の死刑囚に刑が執行された。実は名古屋で処刑された死刑囚による被害者の遺族は、昨年4月に高村正彦法相(当時)と面談し、「生きているからこそ、償いの気持ちも生じる。刑を執行しないでほしい」と要望していた。 森山真弓法相は、前任者からこの報告を受けていたにもかかわらず、就任6カ月で死刑執行命令書に判を押したのである。 私は処刑者のうちの1人の遺体を名古屋拘置所で遺族とともに引き取り、遺体の首を写真におさめた。棺(ひつぎ)を開け、遺体の頸部(けいぶ)にかけられた白い布をめくると、紅紫(あかむらさき)の太い縄のあとがくっきりと残っていた。まさに絞首刑である。 大粒の涙をふきながら、遺族の同意を得た上でカメラのシャッターを押した。冷酷と思われるかもしれないが、死刑の実態とこの処刑がいかに痛ましく残酷であるか、法相に正しく認識してもらうためである。 4月の衆議院法務委員会でこの写真を森山法相に見せたところ、法相は数秒間険しい表情で見つめた後、「法務大臣の責任上そのような決定をしなければならなかったことは、大変重い意味があるという思いを深くした」と答弁された。 現在、わが国の死刑確定者は50人を数える。その中で冤罪の可能性を全く否定できない現実がある。 私は決して法相を個人攻撃しようとは思っていない。法相が言う「法律に従って責任を果たす」こと自体が、「生命権」を冒涜(ぼうとく)する行為であると訴えたいのである。 89年、いわゆる「島田事件」で死刑判決を受けた赤堀政夫さんが、再審で無罪となり、35年ぶりに解放された。精神障害を理由に差別されながらも、冤罪を訴えてきた彼の第一声は、「死刑をする法律をやめてください」という訴えであった。赤堀さんのこの一言が、私の死刑廃止に向けた闘いのきっかけである。 死刑肯定論者は、犯罪抑止力の必要性や、犯罪被害者の遺族の心情を考慮すべきだと主張する。だが、死刑が決して犯罪防止につながらないことは、近年、凶悪事件が多発していることを見ても明らかである。 犯罪被害者の遺族の心中は察するにあまりあり、犯人への強い憤りは人間として自然な気持ちである。人の生命は重く、大切だ。だからこそ、私は国家が死刑執行という殺人行為を公務員に職務としてさせることは許されないと考える。 わが国は被害者及び被害者の遺族に対し何ら補償をしてこなかったことも重大な問題で、早急に解決しなければならない。ただ、死刑制度の廃止とは相対立することではなく、人権や生命を尊重する意味で同じなのである。 現在、私は「死刑廃止を推進する議員連盟」(会長・亀井静香衆議院議員)の幹事として、仮出獄を認めない終身刑を軸とした死刑廃止法案を早急に提出するべく準備を進めている。 27日から2日間、欧州評議会司法人権委員会の議員20人が来日し、参議院議員会館内で死刑廃止議員連盟と合同でセミナーを開催する。死刑制度について、率直な議論を交わしたい。 死刑判決を受けたこともある金大中大統領が率いる韓国では、すでに国会議員の半数を超す署名を集め、昨年10月、死刑廃止特別法案が国会に提出された。 世評や支持率をみて行動する政治家が多い中、人間の尊厳や命にかかわることを「世論」だけで決めてよいのだろうか。このままでは日本は人権後進国になってしまう。一刻も早く死刑制度を廃止するべきだ。 (おおしま・れいこ 衆議院議員<社民党>、死刑廃止議員連盟幹事) ●日本の死刑制度存廃論 欧州中心に廃止の潮流(私の視点・その後)(朝日新聞東京本社発行 8月28日付朝刊)
死刑制度の存廃をめぐって、「私の視点」で議論が続いている。きっかけは、大島令子衆議院議員の「死刑、廃止しなければ人権後進国」(5月27日付)との訴え。これに対し、多くの反論や意見が寄せられた。いま、日本の死刑制度を取り巻く状況はどうなっているのだろうか。(企画報道室・磯洋介) 死刑制度で一番大きな変化は、国際環境だ。 89年にいわゆる「死刑廃止条約」が国連総会で採択されてから、死刑を廃止する国が徐々に増えた。アムネスティ・インターナショナルの調べでは、今年1月現在、存置国・地域84に対し、廃止国・地域は欧州を中心に111と上回っている。 先進国で死刑を残すのは、米国と日本だけだ。このため昨年6月、欧州評議会は日米両国に対し、「03年1月1日までに死刑廃止に向けた具体的な進展がみられない場合、オブザーバー資格を見直す」と決議した。 死刑問題に詳しい明治大学の菊田幸一教授は、「経済や軍事力で優位な日米に対し、欧州には人権や環境問題を外交交渉力にしたいという政治的意図はあるものの、死刑廃止はもはや世界の流れだ」と断言する。 こうした見方に対し、法務省は、今年4月の国連人権委員会での死刑廃止決議が、賛成25に対し、反対が20、棄権が8あったことなどを挙げ、「死刑廃止が国際的に一致したといえる状況にはない」(北村篤・参事官)と反論。死刑の存廃についても、「各国における国民感情、犯罪情勢、刑事政策のあり方などを踏まえ、独自に決定すべきだ」(同)という従来の見解を変えていない。 ただ、これまで比較的死刑存置国が多かったアジアでも、韓国では昨年10月に過半数の国会議員によって死刑廃止法案が提出され、現在審議中だ。死刑の執行も金大中大統領が就任した98年以来、ない。台湾でも昨年5月、法務大臣が04年までに死刑を廃止する計画を発表している。 総理府(当時)が99年9月に行った世論調査では、79%が死刑制度を支持すると答えているとはいえ、死刑廃止の国際潮流から日本だけが遠ざかる可能性がある。 ○浮上する執行停止制度 死刑制度を支持する人の間でも、生命を奪う死刑と、10年を経過すれば仮釈放が可能な無期刑に、大きな違いがあることを問題だと指摘する声は大きい。 そこで、国会の超党派で組織する「死刑廃止を推進する議員連盟」(会長・亀井静香氏)は、死刑の代替刑として、仮釈放を認めない終身刑を新たに設ける法案を検討して、来年の通常国会に提出する方針だ。 ただ、この死刑に代わる終身刑については、死刑廃止論者からも「かえって残虐な刑罰だ」「重罰化の動きを加速する」との批判がある。 日弁連の死刑制度問題対策連絡協議会の座長を務めた柳重雄弁護士は、「日本の刑務所は閉鎖的で非人間的な扱いをする、と諸外国から批判されている。処遇を改善しないまま終身刑を導入すれば、かえって人道上問題になる」と指摘する。 そうした中で浮上しているのが、死刑執行停止制度、いわゆるモラトリアムの採用だ。死刑制度そのものは維持しつつ、確定死刑判決を受けた者に対する死刑の執行を一律に停止する。その間に死刑制度について存廃も含めて国民的な議論をして見直すというのだ。 死刑を廃止した多くの国が採用し、5月に来日した欧州評議会のメンバーもモラトリアムの導入を勧めた。死刑廃止議連の保坂展人事務局長(社民党)も、「幅広い国民的議論を巻き起こさないと、刑法の最高刑から死刑を除くのは難しい。耳の奥に残った」と言う。 日弁連でも現在、死刑執行停止法案をつくり、政府内に臨時調査会などを設けて死刑制度の存廃について合意形成するよう提言できないか、内部で検討している。 今後、日本でも死刑制度の存廃が大きな社会的、政治的課題になる可能性が高い。
◇読者の意見から 肉親が被害者でも反対か/罪の自覚ないまま抹殺して何になる 「私の視点」に寄せられた意見では、当初、死刑廃止論に反発する声が多かった。しかし、次第に死刑廃止に理解を示す意見も増えている。 多かったのは、大島議員が死刑囚の首の写真を撮って法相に「死刑は残虐だ」と訴えた行為に対して、「(大島氏は)殺害された被害者の遺体はご覧になったのでしょうか」(41歳、勤務医)、「自分の親や子供が被害者になった場合でも、死刑は反対であろうか」(61歳、女性)といった応報感情に基づく反発だ。 死刑制度に対しても、「正義を実現するためには、(国家に)一元化された暴力装置が必要」(38歳、塾講師)、「あだ討ち時代に戻ることはできないので、法治国家としての処罰は必要」(58歳、公務員)と肯定する。 死刑制度を必要としない社会は理想だが、次々と起こる凶悪事件に、どうしても極刑を望む心理は強いようだ。 逆に、死刑制度の廃止に賛成する人は、国家による「殺人」に疑問を感じ、誤判や冤罪の可能性を指摘する。 「死刑制度を廃止しなくてはならないと思う最大の理由が、国家に市民の生殺与奪権を与えてはならないことだ」(49歳、NPO職員)。「人が裁判を行う以上、冤罪の危険性を完全に除去するのは不可能。(死刑に賛成の人は)仮に自分の身内が冤罪で死刑になっても受け入れられるのか」(27歳、大学院生) 一方で、そもそも「死」は刑罰になるのか、という意見もあった。横浜市に住む32歳の幼稚園教諭は、「自らの罪すら理解していない犯罪者を、社会が抹殺したところで何になるのか。たとえ何十年かかろうと罪を理解させることが、刑として有効だと思う」。
<死刑制度をめぐる最近の主な動き> |
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