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|記事と写真|学習のポイント|ワークシート|バックナンバー| 「平成の市町村大合併」西高東低 「お上任せ」に変化の兆し(朝日新聞東京本社発行 11月25日付朝刊) 日本列島が合併の大きな波に洗われている。「3217ある自治体を千に」。「アメとムチ」で強引に合併を進める国の方針に自治体は揺れ、まち、むらの主張、歴史、メンツ、プライドが引き起こす衝突、摩擦に悩む。一方、わがまちの将来は自分で決める、と住民投票で決着をつけようという機運も広がる。「平成の大合併」は、地域のくらしの運営のあり方、お任せ民主主義を変質させる可能性をはらみながら進行中だ。 ●なぜ今、必要なのか 国・地方の財政難が背景 「市町村リストラ」には反発も 市町村合併には、明治、昭和、平成と三つの山がある。 「明治の大合併」(1880年代)では、欧米にならって市町村制を導入した。300〜500戸の集落を基準に、7万1千の町村から1万6千市町村に再編した。 戦後まもない「昭和の大合併」では、新制中学校の校区人口を8千人と見積もり、9868市町村を3472市町村に整理した。 「平成の大合併」は自主合併が建前とされ、人口などの基準はない。このため、1万人の町から100万人の政令指定市まで、ばらつきがでそうだ。 「民主主義の学校」である地方自治が導入されて半世紀。 モータリゼーションやIT(情報通信)は驚異的な発展を遂げ、住民の生活圏は広がった。一方、介護保険の導入などで行政サービスはより多様に、高度化している。 「住民の利便性を向上させ、高まる行政需要に応じるためにも行政基盤の強化は不可欠」というのが「平成の大合併」の大義名分だ。「地方分権の受け皿づくり」の面もある。「合併は時代の必然」というわけだ。 □ □ もっとも、背景には、国と地方の財政悪化という厳しい現実がある。 財政力の弱い自治体の財源を補填(ほてん)する地方交付税は2年連続で減額され、今年度は19兆5千億円。しかも元手は12兆7千億円しかなく、不足分は借金で穴埋めしている。交付税会計はすでに破綻(はたん)状態にある。国と地方が積み上げた財政赤字は693兆円。もはや国に地方の面倒を見る余裕はない。 市町村の規模を拡大することで、小規模自治体に手厚く配分される地方交付税を削減することができる。市町村を千台に再編すれば、年間数兆円を節約できるとの試算もある。 □ □ 国の合併方針に対する地方の反発は「市町村のリストラ」を察しているからだ。しかし、自治体によって温度差はある。首長や議員の考えが色濃く反映されるし、財政力の差もある。 ただ、合併に向けた協議会の設置状況を都道府県別に見ると、「西高東低」の傾向が浮かぶ。 総務省や学者に聞いてみてもその理由はいま一つ明確でない。「昭和の大合併では西日本が冷ややかにやりすごしたから」「もともと北海道や東北の市町村は面積が大きい」 知事の影響を指摘する声もある。 長野県の田中康夫知事は「地方自治体のあり方に関する長野モデルを策定したい」と、合併しない選択肢を研究する「市町村『自律』研究チーム」を設けた。自身も9月、福島県矢祭町を訪れ、「合併しない」と宣言をした根本良一町長と、「平成の大合併」批判で意気投合した。 一方、合併に積極的な佐賀県の井本勇知事は10月、市町村議長との懇談会で、合併後の新しい自治体に助成する県の合併交付金(最高10億円)を合併前でも交付する考えを明らかにした。 協議会に参加する市町村の割合は、長野県が25・8%。一方、佐賀県は93・9%で、47都道府県の中では最も高い。 ●サービスの質は高く、負担は低くってホント? 新潟市・黒埼町「ごみ分別、ばらばらのまま」 岡山・玉野市「ただで葬式」続けられる? 介護保険や国民健康保険の保険料、水道などの公共料金、ごみ処理……。合併が本決まりになると、行政サービスなどの事務を調整する膨大な作業が待っている。 来年4月に合併する静岡市と清水市の場合、すり合わせが必要な項目は約2100。両市は98年から法定合併協議会を作って協議してきたが、一元化が合併後に先送りされる分は500以上ある。介護保険と国保の保険料は合併後も統一されず、下水道の基本料金は静岡市が1世帯あたり1900円、清水市が900円のまま。両市は「当面住民の生活に支障はない。合併後速やかに検討したい」と話す。 総務省は合併すれば「サービスの質は高い方に、負担は低い方に統一されることが多い」とする。 01年に田無、保谷両市が合併してできた西東京市はこの原則を徹底、国保でも保険料を低い田無市に合わせた。負担減による年間2億円を超える減収分は、合併に伴う人件費の削減分などで埋めた。 両市は長い検討期間の中で財政面の協議を重ねて見通しを立てたが、今年から急増している合併協議の場合は細部の詰めが進んでいないところも多い。サービスの質などをめぐって法定合併協議会を離脱するケースも出ている。 ごみ処理も難題の一つだ。新潟市は01年に黒埼町と一緒になったが、ごみ収集はいまも旧黒埼町域が8分別、旧新潟市域が6分別。リサイクルの方法が違うためだ。現在新潟市は政令指定都市を目指して11市町村との合併を目指しているが、そのうち9市町村は新潟市と違い、ごみ収集は有料。分別方法もばらばらだ。新潟市の担当課は「一元化は先が見えない」と気をもむ。 自治体独自の施策も合併協議が進めば、俎上(そじょう)にのぼることになる。 人口約7万人の岡山県玉野市には「ただで葬式が出せる」条例がある。73年から葬式を出す市民の火葬費、棺おけ代、霊柩(れいきゅう)車と葬具の貸出料を市が負担している。年約3千万円の予算が計上されている。 同市は隣の岡山市との合併を検討しているが、本格的な協議はこれから。玉野市の担当者は「市民には好評なのですが」と、自慢の条例の存続を気にする。 三重県紀勢町は、子育て支援や子供の医療費補助、長寿祝いなどに独自の給付金を出している。なかでも12歳までの児童の保護者に年2万〜3万円を支給するエンゼル手当は、合併を模索している近隣市町村にはない制度。町福祉課は「合併後も引き継いでほしいが、存続で合意できるかわからない」と話す。 ◆住民投票 合併に慎重な首長や議員対策として、国は住民投票を推進装置として合併特例法に盛り込んだ。効果は予想を超え、直接民主制の波が広がる。「パンドラの箱を開けてしまったのでは」。総務省内にはこんな声もある。 首長が合併に無関心でも、住民が有権者の50分の1以上の署名を集めれば法定協議会の設置を要求できる。議会が設置要求を否決しても、有権者の6分の1以上の署名で協議会設置の是非を問う住民投票が可能だ。 徳島県宍喰(ししくい)町で9月、町議会によって否決された協議会の設置が住民投票によって息を吹き返した。これが全国初で、宮崎県高岡町では、宮崎市との協議会設置を問う住民投票が12月1日に。千葉県御宿町でも同15日、井上七郎町長が請求した住民投票がある。首長が求めたのは初めてだ。 特例法によらず、合併の是非や枠組みを問う住民投票条例も、16市町村が制定している。うち実際投票が行われたのは24日の兵庫県緑町を含めて1市5町。永住外国人の投票を認めたのは7市町で、投票年齢を18歳以上に引き下げたのは1市2町ある。条例制定には至っていないが、長野県平谷村は中学生にまで広げる方針だ。 12月議会で住民投票条例を提案する富山県小杉町は、投票資格を18歳以上とし、永住外国人も申請すれば投票を認める。土井由三町長は「町の将来はできるだけ多くの人に、町を担う若者にも考えてもらいたい」。 合併を巡って首長のリコールや議会解散、それに伴う選挙も各地に見られる。 山口県熊毛町では、徳山市など2市2町の合併に反対する住民団体の直接請求で議会が解散。今月10日に出直し町議選が行われ、合併賛成派が多数を占めた。来年4月、2市2町は合併して周南市になる。群馬県富士見村では、「合併しない宣言」をした村長に対し、反発する住民団体がリコール運動を進めている。 ◆バブル スイッチを押せば、334席分の客席が、収納されていた壁面から一斉に現れる。岩手県大船渡市にある三陸公民館のホールは、電動式観覧席が自慢だ。パイプいすを並べる手間がいらなくなった。 約6千万円の費用のほとんどを、合併特例債で賄った。「合併しなければ出来なかっただろう」と公民館の職員は言う。 同市は昨年11月に旧三陸町と合併した。人口約4万5千人の同市は、約100億円の合併特例債を発行する。 市民会館54億円、防災センター9億円、図書館8億5千万円……。特例債頼りの建設計画が目白押しだ。道路整備も6路線で始まっている。旧三陸町にあてる事業費は、かつての1・5倍に膨れあがった。 しかし、喜んでばかりはいられない。特例債のうち国が償還してくれる分などを除く約40億円が、市民の借金として残るからだ。 だが、24日に投開票された同市長選では、特例債についての議論は盛り上がらなかった。 合併特例法で認められた合併特例債は、自治体にとって財政上の大きな魅力だ。人口規模に応じた特例債を合併後、10年間発行でき、国が償還分の7割を交付税で負担してくれる。 昨年4月に2町が合併した茨城県潮来市は、約84億円の特例債を見込む。道路や公園の整備、小学校校舎の建設など合併前の事業を引き継ぐほか、新庁舎を建てる予定だ。 山口県徳山市や熊毛町など2市2町が、来年4月に合併してできる周南市。10年間に1170億円の事業費を見込む。2市2町時代の事業費より1・5倍近い。徳山駅周辺整備や生涯学習センターの建設、ケーブルテレビの普及などに特例債432億円を活用する。 福岡県志摩、二丈両町との合併を進めている前原市の春田整秀市長は、特例債などの特典を意識し、「合併特例法の期限内でなければ意味がない」と話す。 同市は福岡市のベッドタウンとして急速に都市化が進む。だが、図書館や総合運動公園がない。春田市長は両町に都市基盤整備の構想を語っている。 ◆破談 合併を協議するテーブルにいったんはつきながら、「破談」になった例も多い。新しい市の名前のほか、新庁舎をどこに置くかなども原因になっている。 愛知県渥美郡3町の合併協議会。トヨタ自動車の工場のおかげで地方交付税の不交付団体の財政力を誇る田原町と、渥美町が主導権をめぐり対立、協議会は廃止された。 広島県の江田島町など4町の協議会は、合併後の名称をいったん、「江田島市」と決めた。しかし、「議論が十分でない」と能美町議会が反発し、合併協議会からの脱会を決議した。 栃木県の小山市と栃木市の場合は、合併後の名前ではなく、前段の協議会の名前のつけ方からもめた。「小山・栃木」とするか、「栃木・小山」とするかだ。これが尾をひいて、合併に向けた話し合いはほどなく中断した。 新庁舎の位置をめぐる争いも後を絶たない。滋賀県では守山市と2町の協議で、すでに2町が合意していた境界付近の新庁舎建設計画に対し、守山市が現市役所の改築を主張して紛糾。協議会は今月末で廃止されることになった。 江戸時代の記憶が合併にブレーキをかけたのが、山形県米沢市から持ちかけられた川西町。町民は賛成署名を寄せたが、町議会は協議会設置を拒否した。背景には、代々の米沢藩主に、周辺の農民たちが重税を課せられたという思いがあった、とも言われる。 熊本県天草地方の苓北町の場合は、町内にある九電火力発電所の年間20億円にのぼる固定資産税の扱いをめぐって、合併協議から抜けた。同町は固定資産税の一部など10億円を、合併後も特別財産区として交付するよう2市9町の合併協議会に求めたが、受け入れられなかった。 日本一の「梅干し」のブランドを守るために、広域合併を小規模合併に切り替えたのは和歌山県の南部町と南部川村。田辺市など8市町村と約1年間協議を続けたが、「広域合併では梅のブランド、知名度が低下する」との理由で離脱した。 ◆広すぎる 北海道十勝地方の陸別、足寄、本別の3町は4月に合併を検討する協議会を作った。 不安は面積の広さだ。約2400平方キロ。神奈川県とほぼ同じになる。人口は約2万3千人と神奈川の400分の1だ。 陸別町。小中学校が一つずつあり、児童、生徒の4分の1、53人が町のバスで通う。1時間近く乗る児童もいる。町総務課は「合併で学校が統合すればさらに長時間、バスに乗る子どもが増えるかもしれない」と指摘する。 現在でも役場から町はずれまで約20キロある。「合併後、ほかの町と施設を共用することは困難だ」。足寄町の香川博彦町長は「財政の効率化ばかりが合併の目的とされる」と嘆く。 この3町を含んだ十勝地方19町村の合併モデル案もある。面積は約1万平方キロ。東京都と埼玉県、神奈川県、大阪府を合わせたほどのとてつもない広さだ。 鳥取県東部の15市町村は昨年5月、合併に向けた研究会を発足させた。合併後の面積は約1520平方キロになる。 今年4月に初当選した竹内功・鳥取市長は、この「因幡市構想」を公約に掲げた。温泉や鳥取砂丘、日本海、奈良時代の国庁跡などの観光資源が多い。「高速道路など交通網の整備、観光開発は一つにまとまれば大きな効果が期待できる」と各町村を説得して回る。 だが、うち2町だけで合併を模索したり、単独存続を決めたりという動きが出てきた。「大合併では個性が失われる」というのが主な理由だ。 ◆しません 新潟県加茂市の小池清彦市長は3月、「合併しない」と宣言した。合併すると交付税が減り、地方は貧しくなるという理由だが、「自治体が巨大化すると市民との対話が難しくなる。民主主義の破壊につながる」とも。 視察に来る首長や議員が引きも切らない。東北から九州まで22自治体。19日は山形県鶴岡市議らが訪れた。 「合併しない」理由は各地で様々だ。 世界文化遺産の合掌集落で知られる岐阜県白川村は10月、飛騨地域の15市町村で作る任意協議会から離脱した。「山深く、雪深い地域だから残った文化や風習を絶やさないため」と谷口尚村長。観光資源を武器に頑張るという。協議会からは、東大の宇宙素粒子研究施設「スーパーカミオカンデ」のある神岡町や、NHK連続テレビ小説「さくら」の舞台となった古川町も抜けた。 滋賀県竜王町には自動車メーカー「ダイハツ工業」の主力工場がある。同社からの税収は年間約16億円で、町の歳入の約4分の1を占める。福島茂町長は3月、合併について静観する姿勢を表明。町独自の高齢者医療費の助成制度など、高い行政サービスが合併で消えてしまうのではと懸念する。 合併したくても相手が見つからない例もある。 石川県羽咋市の本吉達也市長は昨年、周辺4町に合併を呼びかけたが反応は冷たかった。自主財源は乏しく、自由に使える予算はほとんどない。原発交付金で潤う隣接の志賀町幹部は「財政的な違いが大きすぎる」。 今秋、本吉市長は押水、志雄の2町を訪ね、「少なくとも(合併の)話し合いの場をもってほしい。排除はしないで」と頼んだが、町長らは「市と町の対等合併は難しいのでは」とつれなかった。 ◇共産・社民除き、各党とも前向き 01年参院選の公約などを見ると、共産、社民を除く各党は合併に前向きだ。 与党3党は、政府の方針と歩調を合わせ、「千程度の市町村」を目標に掲げる。民主党は「市町村合併を推進、都道府県を道州制に再編して、分権連邦型国家を目指す」とし、自由党は廃県置藩を念頭に「全国を300程度の市に再編する」。 共産は「市町村合併の上からの押しつけに反対」。社民は「強制合併に反対」の立場だ。 * ■各党の「合併」公約■ <民主> <公明> <自由> <共産> <社民> <保守> ◇諸外国の地方制度は <フランス> フランスの基礎自治体は「コミューン」と呼ばれ、その数は3万6千とフランス革命前からほとんど変わっていない。平均人口は約1500人。一方、地方行政を担う中央政府の出先機関が整備され、サービスを提供する責任はコミューンではなく、出先事務所や県にある。コミューンを合併して規模や能力を強化することはもともと期待されていない。 <スウェーデン> 福祉国家を実現するためには自治体の能力を強化する必要があるとして、52年に最低2千人をめどに境界線を引き直した。自治体の数は約2500から千に減ったが、59年にはさらに、最少人口を8千人とする勧告が出された。自主合併から強制合併への政策転換が図られ、74年までに自治体の数は約280に減った。その一方で自治体への分権は進み、地方自治は根付いている。 <イギリス> 基礎自治体の平均人口は約12万人で、各国に比べても格段に多い。財政危機を背景にサッチャー政権が自治体の再編や歳出削減などに取り組んだ結果だ。日本の「平成の大合併」と事情は重なる。80年代に欧州各国の中で唯一、地方分権とは逆行する改革だった。その結果、50年代には2千以上あった自治体は、92年には約480まで減った。 <合併巡る住民投票条例の広がり> ◇合併協議会の進み具合 <法定協議会と任意協議会が存続している市町村数/総市町村数、(%)> |
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