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|記事と写真|学習のポイント|ワークシート|バックナンバー| 稲作伝来、500年早まる 国立歴史民俗博物館が発表 (朝日新聞東京本社発行 5月20日付朝刊)
国立歴史民俗博物館(千葉県佐倉市)は19日、水田稲作が日本に伝わり弥生時代が幕を開けたのは定説より約500年早い紀元前1000年ころ、と特定する研究を発表した。北部九州から出土した土器などから採取した試料を最新の放射性炭素(C14)年代測定法で分析し、結論づけた。この結果に基づくと、日本の古代史は大幅な修正を迫られる。考古学界には慎重論があり、教科書の書き換えなどをめぐっても論議が起こるのは必至だ。 調査したのは同博物館の春成秀爾(はるなりひでじ)教授(考古学)と今村峯雄教授(歴史資料科学)を中心とする研究グループ。01年度から、90年代以降急速に整備されたC14測定法を使って縄文・弥生時代の年代測定を進めている。 試料は福岡市の雀居(ささい)遺跡や橋本一丁田遺跡、佐賀県唐津市の梅白遺跡など弥生文化が上陸したとされる玄界灘沿岸部と、東北地方や韓国・松竹里(ソンジュンニ)遺跡の出土品で、土器に付着した炭化物や、くいなど32点。同博物館で試料の前処理を行い、米国の測定機関を通して加速器質量分析計(AMS)で分析、さらに実年代に直す補正をした。 その結果、弥生早期後半の夜臼(ゆうす)2式土器と前期前半の板付(いたづけ)1式土器、計11点のうち10点が紀元前800年から前900年ころに集中することが判明。水田稲作が伝来した弥生早期前半は前1000年ころと判断し、弥生の幕開けは前1000年前後と導き出した。 これまで稲作技術は、紀元前5〜同4世紀ころ、中国の戦国時代の混乱によって大陸や朝鮮半島から日本に渡った人たちがもたらした、とされてきた。 春成教授は「弥生の始まりを考えるには、殷(いん)<商>が滅亡し西周が成立するころ(紀元前11世紀)の時代背景を検討しなければならなくなった」と、東アジア全体の古代像を再検証する必要を指摘した。 ○他の検証も必要 金関恕(ひろし)・大阪府立弥生文化博物館長の話 この測定結果自体は興味深く、尊重したい。ただ、C14年代測定法の信頼性をめぐっては、学界にはなお論議がある。より説得力を持つためには、年輪年代測定法など他の技法による検証をさらに進めることが必要だろう。 ◇キーワード <C14年代測定法> 生物が大気から取り込んだ放射性炭素C14の濃度は、死後、次第に低下する。その減り具合を測定し経過時間を割り出す。近年は加速器を使い微量でも分析可能になった。ただ、大気中のC14濃度は微変動するため、直接の測定結果は実年代とずれる。それを補正するため、世界的規模で巨木の年輪測定などのデータベースが整備されてきた。
一気に5世紀、常識覆す 弥生時代早まる研究結果教科書は果たして書き換えられるのだろうか――弥生時代の始まりが、考古学の定説より500年さかのぼりそうだと、国立歴史民俗博物館が19日発表した研究結果に、考古学界では戸惑いが広がった。研究結果が事実なら、古代史の枠組みを大きく修正せざるを得ないからだ。 ●波紋 弥生時代に詳しい小田富士雄・福岡大教授は「一機関の測定結果だけでは、にわかに信じがたい。分析対象をもっと広げる必要がある」と話す。中園聡・鹿児島国際大教授も「分析の結果か、これまでの考古学研究か。どっちかが間違っているんだけど」と、発表を衝撃的に受け止めた。 考古学者にとって「稲作文化の始まりは紀元前5〜4世紀」というのは常識だ。それが一気に500年もさかのぼれば、弥生時代そのものの長さをはじめ、中国大陸や朝鮮半島との関係、日本列島の中での稲作や弥生文化の伝播(でんぱ)など、大幅な見直しを迫られる。 「今までの研究成果が雲散霧消するとまではいわないが、影響は相当深刻だ」(大塚初重・明治大名誉教授)というのが正直なところなのだ。 教科書会社は、学界での論議の行方を見守る姿勢だ。旧石器遺跡捏造(ねつぞう)事件では、調査結果を踏まえて翌年度から教科書が書き直された。高校教科書「日本史B」などを出版している東京書籍は「編集委員会で話し合われてから検討することになる」という。 ●違い 考古学の年代決定は主に、青銅器の中国大陸や朝鮮半島との比較にもとづく。「明治に始まり、終戦後にはかなりのレベルに到達した研究方法」と大塚名誉教授はいう。 ただ、系統をきちんと追える青銅器は弥生前期末以降にならないと出現しないため、前期よりも前の年代決定は土器の様式の変化から推定するのが一般的だ。 弥生早期・前期には時代を追って数種類の土器が現れた。一つの様式の土器が使われた年数を推定し、それに様式の総数を掛け合わせて、早期・前期が続いた期間を求める。「そうして推定した早期・前期の期間を、弥生中期の開始時期からさかのぼらせた結果、弥生の始まりは紀元前5世紀から前4世紀というのが定説になった」と藤尾慎一郎・国立歴史民俗博物館助教授は説明する。 研究者の中からさえ、「大雑把」という感想がもれることがある。そのあいまいさを突くように切り込んできたのが、放射性炭素を使って遺物から直接、年代を測る今回の手法だった。 自然科学の手法による年代測定が、考古学上の年代と食い違ったのは初めてではない。西谷正・九州大名誉教授は「矛盾点もあるが、初心に帰り、すべてを検討し直すといった姿勢が大切だ」と話している。 ◆従来説と整合性課題 《解説》 放射性炭素年代測定法による弥生時代の年代はこれまで、青銅器や土器様式などを基に組み立てられてきた考古学の年代と大きく差があったことから、考古学界では軽視されがちだった。 しかし、加速器質量分析計(AMS)を使った今回の研究は、従来の千分の一というわずかな試料で分析ができ、32点もをまとめて測定することを可能にした。しかも結果に大きなばらつきはみられず、この測定法を考古学に応用するうえで一定の信頼性を示した。 考古学界にとっては、従来の学問的蓄積とどう折り合いをつけるか、大きな宿題を突きつけられたといえる。 一方で、新たななぞも生まれた。たとえば、鉄器の使用開始時期だ。現在、最古とされる鉄器は福岡県の弥生早期の遺跡から出土した板状鉄斧(てっぷ)だが、今回の測定結果を当てはめると、その遺跡の年代は紀元前9世紀前後となり、中国で鉄器が工具などとして普及し始めたとされる春秋・戦国時代(紀元前770年〜)と肩をならべてしまう。 発表会見では「西周(紀元前1050年前後〜)時代の鉄器も、出土が報告されている」と説明されたが、この時期にどれだけ鉄器が普及していたか、疑問は残る。 今はまだ材料が出始めたばかりだ。今後、中国や朝鮮半島を含めて多くのデータを集積し、研究者同士が率直に論議を重ねていくことこそが重要になる。
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