◇ののちゃん 見て、先生。お習字(しゅうじ)できたよ。
◆藤原先生 「秋の味覚(みかく)」? はぁ、いつも通り雑(ざつ)な……いえ、元気(げんき)な字(じ)ね。
◇ののちゃん いつも通り? ほんとは、左手で書いたんだよ。ところで、先生、左利きの人は右利きより少ないよね。
◆先生 大まかに言うと人間の約9割が右利きだそうよ。日本より米国、女性より男性の方が、少し左利きが多いとか、発展途上国(はってんとじょうこく)では右利きがさらに多いという調査結果(ちょうさけっか)もあるわ。
◇ののちゃん なんで国によって違(ちが)うんだろう?
◆先生 本来(ほんらい)は左利きでも、訓練(くんれん)して右利きになった人が多いからと考えられているわ。おはしは左利きでも字を書くのは右手、という人もいるでしょう。
◇ののちゃん うん。あれ? じゃあ何を基準(きじゅん)に、右利きと左利きを分けるの?
◆先生 いい質問ね。一目で見分ける目印(めじるし)は分かっていません。よく使われるエディンバラ利き手調査という方法では、書く、描(えが)く、投げる、蹴(け)るなどの動作(どうさ)を、左右どちらの手足で行うかといった質問に本人が答えて、それを計算式(けいさんしき)にあてはめて判定(はんてい)します。利き手と、足や目の関係は、まだはっきりしないけれど。
◇ののちゃん うん、これだと、やっぱり私は右利き。どうして私は、右利きになったんだろうね。
◆先生 実は、そこが難(むずか)しいの。初めから、人間という生き物が右利きが多いようにできているのか、右利きに便利(べんり)な社会がなりたつに連(つ)れて、右利きの人が増えてきたのか、結論は出ていないわ。洞窟(どうくつ)に描かれた大昔(おおむかし)の絵は左向きの顔が多いから、描いた人は右利きだという人もいるし、人類初期(じんるいしょき)の道具(どうぐ)が右利き用だった影響(えいきょう)だという説もある。
◇ののちゃん 生まれつきとは限(かぎ)らないってことか。
◆先生 一方で、お母さんのおなかにいる赤ちゃんは、もう利き手が決まっているという研究(けんきゅう)もあるの。
◇ののちゃん へー、何も教(おし)えられていないのに。
◆先生 脳に左右があるのを知ってる?
◇ののちゃん うん。体の右半分は左側の脳、左半分は右の脳がコントロールしているんだよね。
◆先生 そうよ。例(たと)えば、左の脳(大脳左半球(はんきゅう))の成長に関係する遺伝子(いでんし)があって、発達(はったつ)を抑(おさ)える場合があると考えたらどう?
◇ののちゃん 右半身より左の方が上手に動かせるから、左利きになる……。
◆先生 利き手と言葉(ことば)の関係が面白いわ。右利きの人のほとんどは、言葉を使うとき左脳が働くの。左利きの人では左脳が働くのは約7割。右脳や、両方の脳を使う人がいるのよ。
(取材協力=脳血管研究所教授・杉下守弘さん、国立科学博物館人類研究部室長・溝口優司さん、構成=冨岡史穂)
(朝日新聞社発行 10月9日付be)
◇調べてみよう
(1)人間以外の生き物にも利き手はあるかな? ニホンザルやチンパンジーで研究している人がいるよ。
(2)マウスの内臓(ないぞう)の発達では、左右を決める遺伝子の存在(そんざい)と働きが分かってきたよ。どんな仕組(しく)みかな。