◇ののちゃん 鏡(かがみ)に映(うつ)った自分(じぶん)を見(み)ると、左右(さゆう)が逆転(ぎゃくてん)してるよ。どうして?
◆藤原先生 先生(せんせい)も子(こ)どものころはそう思(おも)ってた。でも本当(ほんとう)に逆転してるかな。
◇ののちゃん え〜?
◆先生 絵(え)を見て。(1)を鏡に映すと、(2)になるでしょ。(1)の左側(ひだりがわ)の丸(まる)は、(2)でも左だし、右(みぎ)の四角(しかく)は、(2)でも右にきているわ。左右逆転なら、(3)のようになるはずよ。
◇ののちゃん うーん、ありえないね。そうか、左右は逆転してないんだ!
◆先生 ののちゃんが(1)の手前(てまえ)、白(しろ)いほうから見ると、(2)で見えてるのは黒(くろ)い側、つまり(1)の裏(うら)でしょ。鏡の作用(さよう)は、向(む)こう向きのものを、こっち向きに変(か)えることなの。逆転させてるのは「前後(ぜんご)」。「奥行(おくゆ)き方向(ほうこう)」と言(い)ってもいいわ。
◇ののちゃん そうかぁ。でも、あれ〜? 鏡の前(まえ)で手(て)を「左がグー、右がパア」にすると(4)でしょ。これが鏡に映ると(5)で、「左がパア、右がグー」。ほら、左右が逆転したよ。
◆先生 そうかな?ののちゃんはまず、鏡の前の人(ひと)にとっての左右で「左がグー、右がパア」と言ったでしょ。ところが次(つぎ)には、“鏡の中(なか)の人”になり代(か)わって、その左右で「左がパア、右がグー」と言ったじゃない。
◇ののちゃん それが、何(なに)かまずいの?
◆先生 ものを観察(かんさつ)するとき、途中(とちゅう)で自分(じぶん)の「見る位置(いち)」を変えてはダメよ。たとえば、一(いっ)カ所(しょ)に立(た)って川(かわ)を見れば水(みず)が流(なが)れていくのがわかるけど、水と一緒(いっしょ)に下流(かりゅう)に走(はし)り出(だ)したら、止(と)まって見えちゃうでしょ。これは「首尾一貫(しゅびいっかん)」という大事(だいじ)なことよ。あくまで鏡の前の人から見れば、(5)も「左がグー、右がパア」でしょ。
◇ののちゃん そうかぁ。私(わたし)は途中から、鏡の前の人が回(まわ)れ右して鏡の中に入(はい)ったみたいに考(かんが)えちゃった。
◆先生 (2)は「物(もの)」だったから、そういうことは起(お)きなかったのに、(5)は「人」だから、思わず、見る位置が鏡の中に引(ひ)き込(こ)まれちゃったのね。
◇ののちゃん なっとく。それにしても、鏡の中の「左右」については、逆転したと錯覚(さっかく)したのに、どうして「上下(じょうげ)」では同(おな)じ錯覚が起きなかったんだろう。
◆先生 鏡の前の人にとっても“鏡の中の人”にとっても、上下は同じ。だから、見る位置が鏡の中に引き込まれても間違(まちが)わずにすんだのね。そもそも、鏡はどの方向にも同(おな)じ作(つく)りになっているんだから、「左右は逆転するけど、上下は逆転しない」なんて、左右と上下で別(べつ)のことが起きるはずないわ。「上下、左右とも逆転しない。逆転してるのは前後」よ。
(朝日新聞社発行 12月17日付be)
(取材協力=東京都・杉並区立科学館・渡辺昇館長、東京大・滝川洋二客員教授、構成=武居克明)
◇調べてみよう
(1)写真(しゃしん)にうつった姿(すがた)と、鏡の中の姿は同じかな? どこか違うかな?
(2)鏡を持(も)って、横(よこ)向きに寝(ね)てみてね。そのとき、「左右」と「上下」は、どの方向のことになるだろう。「逆転」の錯覚はどうなるかな。