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私立中学・高等学校ガイド

表意文字と算数

2008年12月1日

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●日能研教務部:真藤啓

 算数が好きな人の好きな理由と算数が嫌いな人の嫌いな理由が同じだったりすることがよくあります。たとえば、記号だとか用語などの約束ごとがあるから算数は難しいと言う人がいますが、記号だとか用語などの約束ごとがあるから算数はやさしいとも言えるのです。

    ◇

 次の文は、エッセイストで通訳者の故米原万里さんの文章で、東京の私立共学校明大付属明治中の国語の問題に出ていたものをこまかく切って短くしたものです。

 ―「ロシア語は取っ付きにくい、難しそう、つい敬遠してしまう」そういう人たちが一番にあげる理由が例のロシア文字、なじみのない形状のものも混じったキリール文字である。それにしても、ロシア語の場合、その文字数わずか33。大文字小文字両方あわせても、たかだか63である。かな文字に加え3000字前後の漢字を書けて、5000字以上の漢字を読めることになっている日本人が、怖じ気付き、覚えるのを億劫がるような数ではない。その気になりさえすれば一時間で覚えられる量だろう。

 「日本人が文字習得に費やす膨大な時間とエネルギーと記憶容量を考えると、何たる非効率、何たる無駄。同じ時間を何かもっと意味あることの習得に使えないものか」この思い込みは、ついこのあいだまで私に取り付いていた。

 ところが、同時通訳稼業に就いてサイトラ(黙読通訳)をするようになって、この考えがコペルニクス的転換をとげた。日本語のテキストからロシア語ヘサイトラする方が、その逆よりはるかに楽なことに気付いた。

 子どもの頃から文字習得に費やした時間とエネルギーが、こんな形で報われているとは。世の中の帳尻って、不思議と合うようになっているんですね。いや、これからは収支を黒字に転ずるために、どんどん読まなくては損てことだろう、と意地汚く本を貪る今日この頃である。―

 というものです。米原さんの胸のすくような文章をずたずたにいじくってしまいましたが、だいたいの意向は伝えられていると思います。

 実はこうしたことは私も気付いていましたが、外国語がほとんどできない私が言うのははばかれていました。というかカナモジや ROMAJIだけの日本語はとても読みにくいのは誰にもあきらかで、このことから類推できるでしょう。日露のバイリンガルの米原さんの文章は心強い援軍です。というわけで、日本語は世界一、黙読しやすい言葉といえます。

 表意文字まじりの文は読みやすいと気づいた米原さんは、その発見を「コペルニクス的転換をとげた。」と喜んでいますが、数学の記号は、漢字よりもさらに、意味が限定されていますから、見てぱっと意味がわかりやすいのです。

 記号だとか用語などの約束ごとはしっかり覚えなければなりませんが、それを覚えると、算数・数学の文は意味が取りやすいのでやさしいのです。そのことに意識してとりくむと、きっと、算数はわかりやすいと気づきますので、苦手だと思う人は思い出してください。

 徳永晴美さんは米原さんについて次のように偲んでいます。

 もう25年も前のこと。会議の同時通訳をやらせてみた。が、数分も経たないうちに彼女は、「だめ、私やっぱり才能ない、こんなの向いてない」と叫んだ。私は、「万里ちゃん、大丈夫だよ、最初は、分かるところをゆっくり伝えるだけでいいよ」とささやいた。彼女は気を取り直した。以後これまで 「全部訳さなくてもいいと教わったから通訳者になった」と話していたが、私は、「なりたての最初のうちは」と言いたかっただけだ。

 しかし、「情報の核」を抽出してめりはりをきかせる米原流の通訳は、我が国マスコミに重宝がられた。クーデター未遂事件を経てのソ連崩壊、エリツィン率いる新生ロシアの出現など、歴史的な事件が起きた。多くが同時通訳者・米原万里を知らしめた。

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