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ルポにっぽん 10カ国語の「おはよう」

2008年6月29日

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 「ザオシャンハオ」

 横浜市泉区にある市立いちょう小学校の金野邦昭校長(59)は27日朝、校門に立ち、子どもたちを中国語の「おはようございます」で迎えた。「早上好」と漢字で書いたプラカードを掲げる。「ザオ、シャンハオー!」。元気よく返す声が走り抜ける。

 ベトナム語では「シンチャオ」、スペイン語だと「ブエノス・ディアス」……。げた箱前には、日本語を含め10言語の「おはようございます」の張り紙がある。「何語であいさつするかは日替わりです」と金野校長は言う。

 Tシャツにハーフパンツ、ランドセル。外見はあまり変わらないが、全校200人のうち外国籍が92人。日本国籍を取った子を加えると116人で過半数だ。国籍やルーツは日本を含め10カ国にまたがる。

 子どもたちは、近くの県営いちょう団地から通う。隣接する神奈川県大和市に98年までインドシナ難民の定住促進センターがあったこともあり東南アジアからの集住が進んだ。中国残留日本人孤児が呼び寄せた家族も入居するようになった。

 日本語がよく分からない子たちをどう指導していくか。

 「にじ色のゼリーのようなくらげ」「ブルドーザーのようないせえび」。2年生の国語の教科書にある表現だが、日本語指導が担当の菊池聡先生(41)は「にじ色がどんな色か、クラゲが何か、分からない子がいる。経験も語彙(ごい)も少なく頭に浮かんでこないのです」。そんなとき、にじ色のゼリーやブルドーザーの写真をみんなに示す。

 6月半ばの授業参観の日。2年生の国語に応援に入った菊池先生は、数人の机を行き来し小声で話しかけていた。

 「真剣って、どういうことかわかる? まじめな話する時、どんな顔してるかな」

 「笑わない」

 「そう、それを真剣っていうんだよ」

 保護者へも気を配る。

 連絡では写真や実物を使う。全校遠足の前に配った持ち物のプリントは「リュック」「弁当」「エチケット袋」などの写真付き。さらに、それぞれの母語で「重要」の判を押した。

 日本人の保護者からは学力低下の不安も聞かれるが、基礎が定着したので中学で伸びたと言う卒業生の親もいる。

 そんな学校を支える人たちがいる。

 毎週2回、ボランティアグループ「多文化まちづくり工房」が放課後、高学年を中心に宿題をみる。「昨日」「往復」「夢」……。「分かんねー」。繰り返し書き取り、懸命に辞書を繰る子を見守る。

 宿題を片づけていた6年生の横澤真由美さん(11)は日本で育ったが、母親はフィリピン人。「大学はフィリピンに行ってみたい。そのためにも早く中学で英語を勉強したい」と身を乗り出して話す。

 代表の早川秀樹さん(34)は先月、補習を終えた子を家まで送る道で、別の6年生からこんな質問を受けた。「悪魔と残酷って、おんなじ?」

 抽象的な概念がよくのみ込めないのだ。日本生まれや長く住んでいる子は日本語への苦手意識が薄いだけに、理解できないのは自分のせい、ととらえがちという。

 14歳で中国から移住し、04年度までPTA代表を務めた福山満子さんは、通訳を兼ねた「学習支援者」として授業に立ち会う。

 今春、中国から来た男の子が気になっていた。不安そうな顔はかつての自分だ。日本語はかなり理解できているのに話す勇気が出ない。

 「私の給食、取ってきて」と背中を押した。「一人じゃ怖い」と言っていたが、「福山さんの給食を取りに来ました」とちゃんと職員室で言えたらしい。トレーを抱え戻ってきたうれしそうな表情が忘れられない。(片山健志)

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