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成績下位県、必死の対策 揺れる全国学力調査

2009年1月19日

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 全国の小6と中3の全員を対象に、07年春に始まった全国学力調査。文部科学省は「学力の状況を把握し、指導に生かすため」と目的を説明するが、都道府県別の成績が下位だった県では、正答率アップを目指した「必死」の取り組みが続く。「教育のあるべき姿からずれている」。こんな声も聞かれる。

■高知 教員に脅迫観念

 高知県教委は08年に2回、成績上位の秋田県に職員を派遣した。秋田では、算数・数学の単元ごとのテストを各校にネットで配信し、子どもたちが苦手な問題は具体的な指導方法も一斉に送れるシステムを取り入れている。高知もこれにならい、さっそく11月末から中学の数学で配信を開始。この4月からは小学4年以上に対象を広げる計画だ。

 国語と数学を担当する県教委の指導主事も6人増やし、「学力向上推進チーム」を設置。学校ごとに改善プランを作り、全校で課題を共有できているか確認している。

 OB教員らが各校に出向き、宿題の点検や放課後指導などに当たる「学力向上サポーター」。小学校5校、中学校15校に教員を選んで配置する「学力向上コーディネーター」制。さらには、15市町村に教科指導のエキスパートを派遣し、特に中学校の授業力向上を目指してアドバイス……と、施策は目白押しだ。

 しかし、全県あげての点数アップの取り組みは、現場の教員の「重荷」にもなっているようだ。

 「ドーピング」。こんな言葉が、高知の教員の間でささやかれている。

 本来はスポーツ競技で良い成績をあげるために薬物を投与することなどを意味するが、ここでいう「ドーピング」は、自分の学校やクラスの成績を上げるために「ズル」をすることを意味するという。

 同県では、県独自に「到達度把握検査」という名称の学力調査をかねて実施しているが、最近はこの場で「テスト時間を勝手に15分延長した」「子どもが頭に入りやすいようにテストの問題を読み上げた」といったことが行われているといううわさが絶えないという。教員が間違った答えを書いている部分を指さして子どもに教える行為は、その所作から「田植え」と呼ばれている。

 子どもたちの点数が低いと、教師としての自分の評価にかかわる――。こんな強迫観念に支配されている教員は少なくないという。

 ある教員は「テスト対策でドリルを解かせ、点数を上げる練習をするようなことが教育ではない」と語気を強める。「文科省の学力調査は『学力向上』にはつながらない。『学力工場』を作りだしているだけだ」(平岡妙子)

■沖縄 生活習慣改善促す

 全国学力調査で、初回の07年、2回目の08年と2年続けて全都道府県中最下位の成績だった沖縄県。「もうちょっと、(点数が)あると思ってました」。県教委の担当者は、残念そうに話す。

 授業改善とともに同県が力を入れるのは、家庭での生活習慣の改善だ。同県では、学力調査と同時に行われた質問への回答で、朝食を毎日食べる子どもが少ない、夜更かしする傾向が強い……と、生活習慣に関する項目で悪い傾向が目立った。

 県教委が掲げる合言葉は「凡事(ぼんじ)徹底」。当たり前のことをちゃんとできるようになろう――と、保護者向けのパンフレットにこの4文字を太字で刷り込んでいる。

 学校現場では模索が続く。那覇市近郊の小学校は、琉球大学の西本裕輝准教授(教育社会学)に、学力と生活習慣との関連性について調査分析を依頼した。「テレビゲームを4時間以上する子は、全くしない子に比べて国語Aの正答率が24ポイント低い」。こんな結果が出たという。

 西本准教授は、かねて同様の分析をしており、生活習慣の乱れや親子のコミュニケーションの低さが学力の低さに影響しているという結果が出ている。沖縄県は、低い県民所得、高い離婚率といった「ワーストワン」を抱える。西本准教授は「生活習慣が乱れている子は、母子家庭や低所得など、生活自体が大変な例もある」と指摘する。「それは、経済問題であり格差問題。沖縄の学力問題は、日本で起こっている学力問題と同じ面もあるのではないでしょうか」(原田朱美)

■公表巡り、離脱表明も

 全国的な学力調査はかつて1956年から実施され、当初は一定数にしぼった抽出調査だった。それが、61〜64年度は中2、中3の全員を対象として実施され、学校や自治体の競争意識が過熱。「学力コンテスト」化した結果、平均点を上げるために成績が振るわない生徒を休ませるようなケースも出た。批判の中、66年度を最後に中止された経緯がある。

 その失敗を繰り返さないよう、文科省は07年春に始めた新調査の「実施要領」で、市町村別や学校別の成績を名前がわかる形で公表しないこととし、関係機関に協力を求めてきた。

 それが、情報公開に積極的な知事たちの出現で様相が変わってきている。

 秋田県では昨年12月25日、寺田典城知事が市町村別の結果を県のホームページで公表した。これを受け、同県藤里町は4月の09年度調査に「公表するなら参加しない」という方針を決めた。塩谷文部科学相は「非常に懸念していたところで、こういったことが続くと参加したくないというところが出てくる。だからそういった公表はしないということでやってきた」と批判した。

 秋田の寺田氏のほか、大阪の橋下徹氏、鳥取の平井伸治氏といった「公開派知事」の発言が目立つようになったのは、実施2回目の08年度調査の結果が発表された昨年8月末以降のことだ。

 情報公開条例に基づく住民の請求を受け、鳥取県南部町教委は10月、全国で初めて学校別の結果を開示した。大阪府も、自主的に公表している多くの市町村の結果を開示した。いずれも、文科省の実施要領より自治体が定める情報公開条例の方が優先する、という判断からだ。

 鳥取県では昨年7月、県情報公開審議会が「文科省の実施要領に法的拘束力があるとは認められない」とし、県教委の非開示決定を「取り消すべきだ」と答申。12月には、請求者に取り扱いに配慮を求めつつ、市町村別、学校別の結果を09年度以降、開示できるようにする県条例が成立した。

 一方、文科相だった04年に全国学力調査を提案した中山成彬氏は、昨年9月の国土交通相就任時のインタビューで、提案の理由を「日教組の強いところは学力が低いんじゃないかと思ったから」と発言。自説が確認できたとして「学力テストを実施する役目は終わった」とも話している。中山氏は様々な発言が問題視され、就任5日で大臣を辞任した。

 全国学力調査は1回50億円以上の予算が必要だが、そこまで巨大な費用をかけなくても、学力の分析なら抽出調査で十分という指摘は根強い。情報公開をめぐる混乱と相まって「不要論」はくすぶりつづけている。(葉山梢)

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