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花まる先生公開授業

言葉つないで話そう 川崎市立鷺沼小学校・渡辺信二さん

2007年06月25日

 「壁は自分自身だ」

 4年1組の子どもたちは、黄色のチョークで黒板に大きく書かれた芸術家・岡本太郎の言葉を、声を合わせて読み上げた。

 「よし、今日はこの言葉を使おう」。渡辺先生は子どもたちの方を向き、パンッと両手をたたいて言った。「10年間、自分の生きてきた経験に、この言葉を重ねて話してみよう。話し合いはキャッチボールだ。前の人の言葉を聞いて、自分の言葉にどうつなげるか。さあ始めよう。フリートーク」

 一番前に座っていた男の子が立ち上がり、ゆっくりと自分のことを話し始めた。

 「2年のころ水泳をやっていました。5級から4級にあがりたかったけど、何度も壁にぶつかった。1番のライバルはもう一人の自分だった」

 話し終わると、5、6人が一斉に手を挙げた。互いに目で合図し合い、女の子が立ち上がった。

 「私は今バレエを習っているんだけど、自分を何度も傷つけて、頑張っていかないとうまくなれないって思うことがありました」

 別の女の子が続けた。

 「ピアノが全然うまくならなくて、楽譜をたたきたいくらい悔しかった。でもやめないで、レッスンに通って弾けるようになったとき、壁は崩れた、と思いました」

   *

 子どもたちに学んでほしいことは、「自分の言葉に責任とプライドを持つこと」だ。国語の時間では、テーマを設定したフリートークや作文に力を入れている。

 例えば、本の感想文。渡辺先生は本の中で一番印象に残った言葉と、その理由を「200字以内」で書かせる。あえて文字の数を制限しているのは、一番伝えたいことは何なのか、慎重に言葉を選ばせることを狙ってのことだ。そんな感想文や作文がつづられた文集は、4月からもう7冊になった。

 「子どもの心は吸収力のかたまり。文章を読んだり、話を聞いたりするとき、耳を傾けるコツや視点を大人が示してあげれば、あとはぐんぐん伸びていきます」

   *

 授業中、先生は教室中を走り回る。子どもたちの言葉に敏感に反応し、ときに腕を組んで目をつぶり、ときに目を大きく見開く。

 授業の終盤、これまで聞き役だった男の子が立ち上がった。子どもたちの視線が集まった。

 「サッカーで年下の子に負けて、自分のプレーに自信がなくなって、楽しくなくなった。そんな自分が悔しくて、監督に辞めますって電話しました」

 感情が高まり、男の子は泣き出した。震える声で話を続けた。

 「でも、最後の試合で死ぬ気になって頑張ったら、みんながほめてくれた。それがうれしくて辞めないことにした。壁が自分を認めてくれたんだ」

 女の子が言葉をつないだ。

 「壁は自分を変えるチャンスをくれる。いつも自分を見ているお母さんみたいなものだと思います」

 渡辺先生は汗をふきながら壁の時計を見あげ、まだ話したくて手を挙げる子どもたちに言った。

 「今日は時間切れ。誰の言葉を自分に生かしたいか、次の授業までに考えておこう」

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