「ちゃんと鳴るかな」。防犯ブザーの操作を指導する木田先生=東京都中野区で、東川哲也撮影
「こんな時、きみならどうする?」
木田先生はそう問いかけると、プロジェクターを使った「紙芝居」を読み始めた。
《ここは向台小学校2年2組です。……友だちがこうちゃんに「一緒に帰ろう」といいました。こうちゃんは「今日は急ぐから1人で帰るよ」とさっさと帰りました。歩いていると知らないおじさんが車から声をかけてきて……》
「さて、お母さんが急病だから病院に連れて行ってあげる、乗ってといわれたらどうしますか?」
「確かめる」と男の子。
「どうやって?」
「病院の名前を教えてという」
次々と声が上がる。
「すぐ逃げる」
「大声をあげる」
「110番する」
◇
先生は「防犯」の授業づくりに取り組んでいる。
いまの都会の小学生に「夜道は歩いちゃいけない」「知らない人に気をつけて」と注意しても、あまり現実的ではない。塾や習い事帰り、知らない人ばかりの夜道を日常的に歩いているからだ。「公衆電話で110番して」といっても公衆電話が少ない。「その場面場面で、具体的に教えていくしかない」と授業にした。
紙芝居をすすめながら、「無理やり車に乗せられそうになったらどうする?」「そういう友だちを見かけたら?」と、矢継ぎ早に問いかける。
「友だちがされていたら……防犯ベルを鳴らす」
「後で似顔絵が描けるように顔をよく見る」
「犯人の足をつかんで逃げないようにして、助ける」
刑事ドラマのように想像が膨らんでいく子どもたち。
先生は首をかしげて見せた。
「本当に助けられると思う?」
車に乗っている人から声をかけられたら、車の進行方向と逆に逃げるのが鉄則。すぐに追いつけないからだ。
「まずは大声を出して、大人を呼ぶことだよね」
◇
次は、防犯ベルの点検。
「防犯ベルを鳴らすっていう答えも多かったけど、じゃあ、みんなのベル、持ってきてみて」と先生が提案した。
ランドセルから外す子、首から外す子、ポケットから出す子……。1人ずつ鳴らしていくと、なんとクラスの4割ぐらいの子が鳴らない。電池切れなのだ。
先生は「予想通りですね」と苦笑い。
「間違えて鳴らすこともあるので電池は1年はもちません。時々点検しないとダメです。取り付ける場所も、ランドセルの横や下ではダメ。いざという時、手が届きませんから」
中野区では、最近、自宅のマンションのエレベーターの中に子どもが連れ込まれる事件も何件か起きている。
「エレベーターに連れ込まれたらボタンを全部押して、とにかく止める。エレベーターに乗る時はボタンのある側に」
寂しい現実だが、アドバイスは切りがないほどあるようだ。