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東京・品川区立第三日野小学校・内野務さん

校庭に家を建てる

2009年6月15日

写真ドキュメンタリー映画「トントンギコギコ図工の時間」にもなった内野先生=池田良撮影

 工事現場さながらの声とドリルの音が、都心の小さな校庭に響き渡る。子どもたちは、ヘルメットに、くぎ袋、軍手姿……。

 校庭に家を建てる「カーペンターズ」という図工の授業だ。

 「こっちを出口にするから、もう少し、ここを閉じないと……」

 5年1組の「ピカソ建設」の班長が指示すると、ウッチー先生のげきが飛んだ。

 「口だけじゃだめ! 材料を持ってきて話しなさい」

 今度は「ドリームビルダー」の班長が、脚立に上り、電気ドリルを手に板を留めようとしている。

 「やめっ! 仕事の仕方がよくない。もう1人を呼んで、板を押さえるように言って」「何でも自分でやっちゃだめ。人に任せて教えてあげなさい!」――。

 10年前、使用済みの選挙ポスターの掲示板を区からもらい、活動を始めた。10代目の家を作った昨年、校舎の建て替え工事で校庭も狭まるため、切りのいい所でやめようと決め、板もすべて捨てた。

 だが、子どもたちや保護者から残念がる声があがった。狭くとも、校舎の隅を選んで、新しい材料を購入して11代目が着工した。定年後2年目。再任用で図工専科として学校に残った春だ。

 「作り合うという実体験が子どもを豊かにさせます。どういう家を建てるかだけじゃなく、自分がどう考え、仲間の中でどう動くか、ということが大切なんです」

     *

 単なる木工ではない。

 選挙で選ばれた3人の班長が話し合い、全員を三つの班に分ける。建設会社の名前や建設計画を相談し、校長先生から「建設許可書」をもらう。それから作業だ。

 「サービスセンター」と墨で書かれた机に男の子たちが来た。

 「先生、板がなくなってきた」

 「もうない。使い過ぎたんだ。予算がなきゃ工事はおしまい」

 戸惑う子たちを先生は見つめているだけ。するとこそこそ話し合い、班全員で「お願いです。板を買ってください」と頼みに来た。

 「メモ帳に請求書を書きなさい。校長先生に持って行きます。何枚欲しい? 代金は20歳になったら払ってもらうよ」とニヤリ。

 限られた材料をどう使うか、ことを成し遂げるために何をしなければいけないか、すべて勉強だ。

 5年1、2組の六つの家が校庭の隅に点在する。わらぶき屋根の家、百葉箱のような家――。

 先生が、家を揺らし始めた。

 「これじゃあ、違法建築だな。風で飛びそうな板や倒れそうな柱は、全部はがす。事故が起きたら即、建設中止命令を出します」

 みんなはあわてて、板を留め直す。「やり直すことも大切なんですよ」と、また先生はニヤリ。

 各家には「ご迷惑をおかけします」と書かれた紙がはられている。周囲への気遣いだ。休み時間は、校庭で遊ぶ子にけががないよう、班員が交代で保安員になる。

     *

 最後に、みんなを集めた。

 「暑いな。疲れた? でも、先生も夕方ビールが飲みたいから頑張っているわけじゃない。君たちがどんなにすてきな家を作ってくれるか楽しみなんだ」

 そして、こちらへ向いてポツリ。「ホントは、花まる子どもなんだよ」(宮坂麻子)

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