台北日本人学校・毛美月さん
2009年9月14日
台北日本人学校の中庭に、たくさんのイーゼルが並んでいる。庭にある一本の大きな樹(き)を、5年生が描いているのだ。
「樹の命が感じられるように描いてね。土の中の水を、根っこが吸い、上へ先へと伸びて……、葉っぱが輝く。描く時も、根っこの方から上へ先へ描いて」
樹を仰ぎ見ながら、身ぶり手ぶりを入れて教える毛先生。
小1から中3まで約700人が学ぶ日本人学校の図工の専科教員だ。小3〜小6の12学級を担当。文部科学省から派遣されて2、3年在籍する日本人教員と違い、現地採用ですでに7年教えている。
「台湾の学校は図工がとても軽視されている。時間が少ない上、すぐに国語や算数に授業変更されてしまう。日本の学校は芸術も大事にしていてありがたい」
台湾の私立高校などで教壇に立った後、京都の大学の美術学部に留学。日本の教員免許を取った。
毛先生の絵の指導は、4年間一貫している。
3年生はまず、赤と黄、青の3色だけの水彩絵の具を使い、混ぜることで色を作り出すことを覚える。4年生は、果物や野菜などの静物を、墨で描いて色をのせることで輪郭と色の濃淡について学ぶ。5年生は、台湾伝統の水墨画にもよく出てくる樹を、水彩で光と影をつけて立体的に描く。
そして、6年生になると、小学6年間の思い出の風景や夢を、詩と水墨画で表現させ、各自の印を彫って押し、巻物に仕上げる。
「せっかく台湾に住んでいるのだから、伝統の水墨画の作品を一つ仕上げてほしい」
この日、子どもたちは、簡単に鉛筆で描いた構図の上に、水彩で描いた。絵の具の茶色をそのまま使う子はいない。黒や黄色、白などいろんな色を混ぜて表現する。
先生は、声をかけて回る。
パレットに大量に作った一つの「茶色」で、樹の全部を描く男の子がいた。
「幹は右も左も同じ色?」「うーん……、右は明るいけど、左は暗い」「そうだよね」
なぜか樹を灰色で描いている子には、「いいねえ。絵は、心で描くんだったもんね。自分の思う色でいいんだよ」。
大半の子が樹を描いたところで、先生はみんなを集めた。
「背景は想像でいいよ。季節も新緑の春でもいいし、紅葉の秋、雪でもいい。手のひらの中に樹が立っていても、自分の鼻のてっぺんから樹が出ていてもいいよ」
低学年は、想像力がある。しかし、5年生ぐらいになると、大人の目を気にして、現実通りの「いい絵」を書こうとする。だから、あえて先生は、樹は忠実に描かせ、背景は想像にさせた。
宇宙の絵にして惑星や流れ星を描く子、都会の灰色のビル群を描く子、チョウチョやカブトムシ、池や海、太陽に葉っぱが溶けていく絵を描いた子もいる……。
どのクラスも、なぜか夕日を描く子が多かった。
「この学校の北に、淡水という夕日の美しい名所があります。台北に越してくると、そこに行くので、印象深いんでしょう」
現実の目と心の目。みんな両方の目で見事に描いた。
(宮坂麻子)
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