6月に名人位を奪回。熱戦から一夜明け、善治も笑顔に
ハツ(75)は、けっこう照れ屋である。「子育てとはなんですか」と聞いたときの答えがそうだった。
「まず、自分が楽しむことですよ」
善治(37)の小学校時代、週末に将棋大会に連れて行ったのは、実は会場となる都心のデパートでショッピングしたかったからだと言った。本心はともかく。
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「よくあれだけ考えられますね、あの人。よく飽きないものですよ」
善治はいま、究極の「考える競技」でトップに立つ。プロ棋士がよく言うことだが、1時間も考えれば、1千手さきとか2千手さきまで読むことができる。
善治はこの6月、名人戦直後のインタビューで、こう振り返った。
「将棋の鉱脈の深さには本当に驚きましたし、将棋は簡単じゃないと感じることが多くなっています」
夫・政治(74)は話す。
「小学校時代から、善治が将棋を指して考えているときは、ちょっと話しかけられないほど深く入り込んでいるんです。まったく別の人物に見えました」
善治はかつて、こんなことを両親に言ったことがあるという。
「これ以上に集中すると、もう元に戻れなくなるのではないか、という瞬間があるんだよ」
2人は「なにも特別なことはしていません」と繰り返した。ただ、意識的にしろ無意識にしろ、善治を「考える環境」に置いてきた。将棋だけでなく、人生の岐路で、すべてを善治に任せた。
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政治とハツの話を聞いていて、はたと思う。この両人はすごいリスクを取ってきたのではないかと。小学生での奨励会入り。中学生でのプロ棋士。高校と棋士生活との両立。善治が大成しなければ、批判を受けたかも知れない。そこを、じっと、見守った。
善治がよく繰り返す言葉がある。
「将棋でいちばんの才能は、決断力です。勇気を持ってリスクを取る力です」
ハツと政治の教えは受け継がれ、勝負師のかけがえのない資質として、名人を支える。(敬称略・石川雅彦)
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次回からアルピニストの野口健さんです。
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