由岐子5歳(左)の七五三。3歳の妹といっしょに
正通(53)の耳の奥には、いまでも「ボーン、ボーン」という音が響くことがある。由岐子(26)のボールが、ベニヤ板に跳ね返される音である。
正通は「子どもがやりたいことは、なんでもバックアップ」というタイプである。せっかく由岐子がやる気になり、がんばって練習し始めたのだからと、1枚の板を庭に立て、真ん中をストライクゾーンの形にくりぬいた。
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由岐子は飽きもせず投げ続けた。学校から帰ってくると、すぐ庭へ。台所にいる京都(52)にも、ボールが跳ね返される音ばかりが聞こえた。
正通は話す。
「監督から、『制球を気にするとスピードが育たない』と言われたので、コントロール無視で投げさせました」
由岐子は小学4年生で控え投手になり、5年でエースになった。当時の少年ソフトボールリーグ25チームで、女の子のエースなんているわけがない。
京都と由岐子はソフトを始めたとき、ひとつの約束をした。
「学校の宿題だけはしっかりやらないと、練習には行かせない」
それまでは宿題をしないこともあったが、ソフトを始めると、欠かさずするようになった。しかし、家で由岐子が机に座っている姿を見たことがない。どうやら学校の昼休みに片づけていたらしい。
「ああ、そこまでソフトがやりたいんだなーと。じゃ、こっちも根性入れて応援しましょと、夫と決めたわけです」
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小学校時代から、由岐子の速球は有名だった。京都はある時、捕手の男の子が監督に直訴したことを人づてに聞いた。「由岐子ちゃんのボール、試合ではしっかり捕るけど、練習では捕りたくない」
「その子によると、由岐子のボールを受けると手がはれるだけじゃなく、せっかく小学校でずっと使おうと買ってもらったいいミットが、1年でだめになってしまうらしいんです」
相変わらずコントロールは定まらなかったが、スピードはどんどん増していった。(敬称略、石川雅彦)
※今回から、父・正通さんにも加わっていただき、お話をうかがいました。
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