現在位置:
  1. asahi.com
  2. ライフ
  3. 教育
  4. 小中学校
  5. 天才の育て方
  6. 記事

ピアニスト・辻井伸行のお母さん いつ子さん:1

童謡、クラシック「それしか方法なく」

2009年11月10日

 「クラシック音楽? 全然、興味なかったですね。私、山下達郎さんやユーミンが大好きなんです」

 今年6月、バン・クライバーン国際ピアノコンクールで優勝し、日本中を沸かせたピアニスト、辻井伸行(21)の母いつ子(49)は、そう言ってはにかむ。

 都内の短大時代に行ったコンサートといえば、ボズ・スキャッグス、ビリー・ジョエル、アース・ウインド&ファイアー……。卒業後はフリーのアナウンサーとして活躍していた。夫の孝(52)も、いつ子の言葉を借りれば「音痴で、音楽センスゼロ」。クラシック音楽とは無縁の家庭だった。

 「でも、なーんにも知らない親だったからよかったって、伸(のぶ)リンは言います」

   *

 産婦人科医の孝と結婚したのは、バブル時代に向かう1986年。2人でおいしいものを食べ、旅行に行き、幸せな生活を送っていた。

 88年9月、伸行を出産。孝が勤務する大学病院で、両親の仲人や知人に祝福されて生まれた。が、いつまでも目を開かない。小眼球症という視覚障害があり、全盲とわかったのは、まもなくだった。

 「伸リンには申し訳ないけれど、がけから突き落とされたような絶望感でした。子どもが生まれた喜びより、この子が幸せに生きられるのか、私もモチベーションを崩さずに、今まで通りの自分でいられるんだろうかと不安ばかり。何か糸口を見つけなきゃと思っても、半年ぐらいは泣けてきてしまう日々でした」

   *

 伸行は、感受性が強く、繊細で、難しい子だった。買い物に出かけても、店員の呼び込みの声や音に、火がついたように泣き出す。うちでも、掃除機などの雑音はダメ。いつ子の声が聞こえないとすぐに泣いてしまう。

 いつ子は、どうしていいかわからず、童謡全集を買って、朝から晩まで片っ端から歌った。歌に疲れると、胎教のために用意したクラシックのCDをかけた。

 「遊びにきた友達に『いつ子ってそんなに歌好きだったっけ?』と言われました。でも、それしか方法がなかった」

 親子の心を癒やす苦肉の策から、伸行の音楽は始まった。(敬称略、宮坂麻子)

検索フォーム
キーワード:


朝日新聞購読のご案内

[PR]注目情報

ここから広告です

広告終わり

ジャンル別の最新情報はこちら
  • 大学
  • 中学・高校
  • 通信制高校