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ピアニスト・辻井伸行のお母さん いつ子さん:3

「二兎追わず」 夫がピアノの道認めた

2009年11月24日

 いつ子(49)と伸行(21)の「音楽遊び」は、今まで、ずっと続いている。

 「この曲ステキ」といつ子が言う。すると、伸行がそのメロディーや伴奏を弾く。「すごい」といつ子が喜んで手をたたき、「じゃあ、この曲は?」。小学校に入るまでは、朝から晩までその繰り返し。「将来のことなんて考えてません。何年後どうなっているとか、将来どんな仕事につかせるかなんて思うと、行き詰まっちゃうから」。その日その日を過ごすのが精いっぱいだった。

 だが、夫の孝(52)は違った。

 4歳の伸行がバイオリンに興味を示したので、いつ子が習わせたいと言い出したことがある。孝は「まだ自分の意見も言えないのに、難しいんじゃないか」と反対。「でも、可能性は一つもつぶしたくない。本人がやりたいことは全部やらせてみたいんだよね」と食い下がるいつ子に、孝は渋々OKした。

 小学1年で全日本盲学生音楽コンクールで1位を取った時もそうだった。「音楽でいいところにいける?」と思い始めたいつ子に、孝は「草野球で4番打者の人間が、みんなプロ野球選手になれるわけじゃない」と冷静な反応だった。

 医師という仕事もあり、孝はコンクールや演奏会に行く余裕はなかった。

 10歳で大阪センチュリー交響楽団と共演し、全国ピティナ・コンペティションD級で金賞受賞。12歳でサントリーホールでソロリサイタル――。ピアニストへの道を駆け上る伸行だったが、孝は口をすっぱくして言い続けた。

 「1日何分でもいいから、本を読みなさい。本も読まないようじゃ、だれからも相手にされなくなるぞ」

 伸行は反抗し、思春期は大声で言い争うこともしばしばだった。

 そんな孝がピアノへの道を認めたのは、筑波大付属盲学校小学部に通っていた伸行が中学部に進む時だ。中学部の進学相談で「ピアノだけやるのではなく、学校の勉強にもしっかりついてきてください」と言われた。

 ピアノか勉強か。「二兎(にと)を追う者は一兎(いっと)をも得ず」と言ういつ子に孝も賛成した。中学はピアノに理解がある都立の盲学校へ進んだ。(敬称略、宮坂麻子)

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