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きょういく特報部2009

家畜さばく、命学ぶ 長崎県立島原農業高校

2009年5月10日

地図写真全員の前でニワトリの解体法を説明する=長崎県島原市の島原農業高写真自分たちで育てた肉と野菜でカレーを作る生徒たち=長崎県島原市の島原農業高写真自分たちでつくったカレーを食べる生徒たち=長崎県島原市の島原農業高

 食肉用の家畜を育てた上で、自分たちでさばいて食べる。命の尊さ、食べ物の大切さを学ぶために、こんな授業を採り入れている学校がある。生徒たちは、そこで何を思ったか。(星賀亨弘、伊東聖)

■涙出ても目そらさず

 「怖いよ、怖い」

 包丁のような解剖刀をニワトリの首筋にあてた女子生徒が、思わず声をあげた。「まだ切れてない。もっと力を入れて」。そばに立つ山田善光先生(31)が声をかける。

 年度末が近い今年2月6日、長崎県島原市の県立島原農業高校であった、ニワトリをさばいて肉にする実習。女子39人が在籍する生活福祉科の1年生は10班に分かれ、1羽ずつさばいた。前の年の7月、卵からかえったヒナの頃からエサをやり、世話をしてきたニワトリだ。

 ニワトリを押さえる役割の生徒も泣いている。周りで見守る生徒も涙を流す。ただ、誰も目をそらさない。実習前、山田先生は繰り返し言った。「目をそむけるのが一番失礼なことです」

 末吉祥子さんは「自分で食べるものを扱う、大切な経験だから」と、自分から申し出て解剖刀で切る役を引き受けた。家は野菜農家。小学生のころはニワトリを飼っていて、食べるために祖母がさばく様子を見たことがあるが、自分では経験はない。かわいそうだから早く切らないと、と思ったが、固くてなかなか切れなかった。

    ◇

 ニワトリを育て肉にする。島原農高の生活福祉科は、この実習を02年度から始めた。看護や福祉の道に進む生徒もいる。山田先生は「だからこそ命について考えてほしい」と話す。

 血を抜き、羽根をむしったニワトリが各班の机に置かれる。生徒たちが解剖刀で切っていくと、だんだんふだん見ている鳥肉に近づいていく。

 前で手本を見せていた山田先生が、手羽を切り離して見せた。「これ何だ?」「フライドチキン!」。さっきまで泣いていた生徒が声を上げた。モモ肉、胸肉、ささみ。切り分けの作業が進むにつれ、「おいしそー」という声も出た。一人がつぶやいた。「実習したら鳥肉が食べられなくなるっていうのは、ウソやったんね」。山田先生は大きくうなずいた。

    ◇

 3日後には調理実習があった。さばいた肉と、自分たちで育てた野菜を使ってカレーを作る。皮に残っている毛を一生懸命つまみ取る生徒。「肉が切れません」と訴える生徒。

 末永紗希さんは、包丁で骨から肉を丁寧にそぎ落とした。「最初は可哀想と思ったけど、命の大切さを感じ、無駄がないように作ろうと思った」。約2時間で完成。生徒らは、皿に盛ったカレーを平らげた。

 田島かれんさんは、ニワトリをさばいた日、夕食が食べられなかったという。手袋に付いたニワトリの血を思い出し、罪悪感もわいた。その後、思った。「自分たちのために肉になったんだ。ちゃんと食べてあげないと可哀想」。この日も「命を取ってごめんなさい」と思いながら食べきった。

 さばく時にクラスで一番泣いた、という山外涼さんも「おいしかった」と笑顔を見せた。「感謝して食べようと思った。これからは好き嫌いせずに何でも食べたい」

■賛否割れる難しいテーマ

 生き物を飼った上で食べる授業は、議論にもなってきた。秋田県では01年、小学校で半年近く飼ったニワトリを食べる授業が中止になった。子どもたちの前でさばいてカレーライスをつくる予定だったが、一部の保護者から批判が出て、地元の教育委員会が待ったをかけた。

 上がった反対意見は「個々の子どもや親の考えによらず、クラス一斉でやるのはおかしい」「子どもたちへの心のケアがない」など。一方、「子どもの頃はさばいて食べるのは普通だった」と賛成する保護者もいたという。

 昨年秋、「ブタがいた教室」という映画が公開された。育てた上で食べるという約束でブタを飼ったクラスの物語で、佛教大教育学部准教授の黒田恭史さんが90年当時、新任の教師として赴任した大阪府内の小学校での実践がモデルだ。

 3年間ブタを飼った子どもたちは、卒業を前に「さすがに自分たちでさばくことはできない」と思った。「殺さずに下級生に託して飼育を続けてもらう」「自分たちで飼い始めたのだから自分たちでけじめを。ブタは食肉センターへ送ってさばいてもらおう」。子どもたちの考えは割れ、最終的には先生の判断で食肉センターに送ることを決めた。

 そうした姿は当時、テレビのドキュメンタリーで取り上げられたが、放送後、「こんなものは教育ではない」といった厳しい意見が放送局や学校に寄せられた。

 黒田さんは「命についての授業は、子ども個人個人で受けとめ方が違い、難しい。生き物を通じ、子どもたちそれぞれが命について考えを深める機会をつくるのが大事だ」という。「映画でも、ブタをどうするか、出演する子どもたちが台本なしで真剣に議論してくれた。今の子どもたちも、そういう機会を欲しているのだと思う」

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