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きょういく特報部2009

算数セット「もったいない」 なぜ新入生全員が購入?

2009年6月1日

 投稿コーナー「聞いて聞かせて」で学校にまつわるお金の悩みを募ったところ、小学校低学年を中心に授業で使われる「算数セット」について多くの意見が寄せられました。足し算、引き算などをわかりやすく学ぶため、カードやおはじきといった教材を詰め合わせたセットですが、新入生全員に購入させる地域が多く、「すぐに使わなくなるのにもったいない」という保護者の声が目立ちます。「おはじきの一つ一つまで名前を入れなきゃいけないのが大変」という人も。算数セットの負担、あなたはどう思われますか?(中村真理子)

■「貸し出しがベスト」

 入学式、机の上にはすでに算数セットが置かれていた。

 「長男のお下がりを使おうと思っていたのに、必要かどうかも聞かれなかった」と東京都のパートの女性(41)は不満をこぼす。今春、次男が公立小学校に入学した。5年生の長男が使ったものと比べても、時間の見方を学ぶ際に使う時計のデザインが変わったくらいだ。

 算数セットはいくつもの会社から発売されており、標準的な値段は2千〜3千円程度。されど……。「長男のはまだきれいなのに捨てることになりそう。切りつめて生活している我が家には大きな出費。こんな無駄はなくしてほしい」

 大阪府の主婦(35)は転勤族。最初に子どもが入学した愛知県の学校では算数セットを貸し出してくれた。だが、2年生の途中で引っ越した先の大阪府の小学校は購入制で、改めて買わねばならなかった。「もったいないと思いました」

 「算数セットほど教師にとっても親にとっても負担のかかる教材はない」というのは岐阜市の蜂谷富子さん(58)。30年間小学校に勤務し、2年前に退職した元教員だ。

 入学時にせっかく新品を購入しても、例えば2年や3年の授業で時計の教材を使おうとした時、「長針がない」「短針が動かない」と児童が言い出す。必ず誰かが部品をなくし、バラで買い直していた。「お下がりで十分。もっと言えば、学校で購入したものを児童が共有するのがベストだと思う」

 ただし、保護者の思いは一様ではない。「子どもには新しいものを買ってやりたい」「名前付けをすると子どもが小学生になった喜びを実感する」という声も少なくない。

■リサイクルの学校も

 算数セットの取り扱いは各地で異なる。

 岐阜市教委は、以前は毎年全員分を公費で購入して一人ひとりに配布していたが、5、6年前から保護者負担に変えた。きょうだいの多い家庭から「いくつもいらない」という声が寄せられ、市教委の中でも「財政負担が大きい」「受益者負担の考え方をとるべきだ」という意見が上がったという。担当者は「私費負担の学用品は他にたくさんあり、『算数セットだけ公費なのはどうして?』と言われてしまう」と話す。

 名古屋市教委は20年前から公費負担で購入し、授業の際に貸し出す形をとっている。教材を私費で負担してもらうか、公費でまかなうかの判断基準は「児童が家庭に持ち帰るようなものかどうか」だという。

 「ものを大切にしたい」という保護者の動きで取り扱いが変わった例もある。

 水戸市の市立双葉台小学校の空き教室には、不要になった学用品や教材が大量に保管されている。卒業生や在校生に持ち寄ってもらったもので、希望者に無料で渡す。PTAで作る環境委員会が00年に始めた活動だ。算数セットもリサイクルされていて、名前のシールをはがし、サインペンで書かれている名前も除光液で消す。足りない部品は寄せ集め、3年がかりで2クラス分のセットをそろえた。04年から授業で使う時に貸し出している。

 PTAでこの活動を担当する岩佐光江さん(45)は、中3の長女の時には算数セットを買ったが、小5の次女が入学した際には共有になった。「おはじき一つ一つに名前を付ける作業からも解放される。鍵盤ハーモニカや体操服、辞典など、ほかにもたくさん集まります」

 同小の取り組みと前後し、水戸市では小学校全体で算数セットが公費負担に切り替わった。

■毎年微妙に変更

 実は、算数セットは毎年微妙に変わっている。教材メーカー大手の誠文社(堺市)は「現場の教員の要望を反映させたり、学習指導要領の改訂にあわせたりするため」と説明する。

 教員にとってみれば、同じセットをクラス全員が使っていると「赤い棒を10本出して」などと指示しやすくなる。毎年新品の購入を求めるところが多いのはこの点が大きいようだ。

 とはいえ、変更点は毎年数カ所程度。誠文社の永橋修社長は「去年と今年のものを授業で一緒に使っても大丈夫」と言う。

 教育誌「おそい・はやい・ひくい・たかい」(ジャパンマシニスト社)の編集人で名古屋市立小学校教員の岡崎勝さん(56)は「高度経済成長以降、算数、理科が強化され急激に学習内容が増えた。全体として教材や学用品は多くなり、保護者の負担も大きくなっている」と指摘する。

 岡崎さんは教員生活の中で保護者の様々な意見を聞いてきた。その上で「義務教育は無償であるべきだから、教材もできるだけ公費負担がいい」と考える。現在勤務する小学校も算数セットを学校が管理して児童に貸し出す。「子どもと教員にとって良いものを選び、買ったものはしっかり使うことを心がけています」「子どもたちには来年の1年生も使うから大切にしよう、と話します」

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