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きょういく特報部2009

「適切な講習」手探り続く 教員の「免許更新制」スタート

2009年6月15日

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 教師という立場に安住せず、知識や技能をさび付かせないようにしてほしい――。こんな考えでつくられた「教員免許更新制」が今年度から始まった。幼稚園から高校まで、全国に約100万人いる現役教員は、今後は10年に1度、大学などでの講習が義務づけられる。落とすことを前提とした制度ではないが、修了認定が得られなければ教壇には立てなくなる仕組みだ。先生にとっても、受け入れる大学にとっても初めての経験が続く。(星賀亨弘)

■内容・形式工夫、離島にも講師派遣

 今回の制度では、今年4月以降に教員免許を取得した人について10年の有効期限を設定。それ以前に免許を得た人についても、35歳、45歳、55歳を区切りとし、それぞれ期限までの2年間に講習を受けることを義務づけた。

 パスする条件は、教育の最新事情を学ぶ「必修領域」(12時間)と、教科や生徒指導に役立つことを学ぶ「選択領域」(18時間)の講習を受け、試験などを経て修了認定を受けることだ。

 工夫を凝らした講座も多い。例えば福井大学では、幼稚園から高校まで年齢も様々な教員を少人数のグループに分け、これまでの経験と課題を語り合ってもらう。「教育実践と教育改革」というタイトルの講座で、必修の12時間と選択の6時間を組み合わせ、夏休みや冬休みに3日連続で開く予定だ。一斉講義よりも、互いに学び合うような場を提供しようと考えた。大学側は、元校長など経験を持った調整役をグループごとに配置し、話し合いに加わってもらうという。

 特殊な地域事情から、運営方法に思案を重ねたところもある。

 県内の他の大学・短大と連携して5月2日から講習を始めた長崎大学。担当者が悩んだのは、島にいる教員にどう講習を受けてもらうかだった。

 県内には、五島、上五島、壱岐、対馬と四つの島しょ部がある。「なるべく受講者に負担をかけないように」。考えた末、教授らを派遣して現地で講習を開くことに。皮切りとして5月16日の土曜日、玄界灘に浮かぶ対馬で「美術教育ⅱ」の講習を開き、長崎大の教授2人がパソコンを使ったデザイン教育や彫刻の鑑賞について講義した。

 島で開講するのは計46講座。長崎市からは遠く、移動は飛行機か船に限られる。日帰りは難しく、土日のいずれかに開講しても前後どちらかの平日を休まざるをえない。周辺の離島から来る受講者もおり、時間割りも船の時間に合わせて設定した。

 免許講習を担当する橋本健夫副学長は「心配なのは天候です。海や空が荒れると講師の到着も遅れてしまう」。受講できない事態も考え、いったん受講料を支払えば、教員側は修了認定を受けるまで何度でも講座を受けられるようにしたという。

■テーマや担当の教員で評価に差も

 実施を前に、文部科学省は昨年度、各地の大学などに依頼して試行的に「予備講習」を開いた。受講の義務はないが、これを受けて試験をパスすれば正式に免許更新を認める、という位置づけだった。

 ふたを開けると、試験の不合格者は36人。受講者は約4万5千人で、率にすると0・08%。ただし、更新制の目的は教員の能力を厳しくチェックし、排除するところにはない。新しい知識や技能を身につけるとともに、改めて教員の職務について考えてもらおうというものだ。当然、現場では、普通に受講して不合格になるようなことがあるとは思われていない。

 東北地方の中堅の男性高校教員は、はからずも不合格者36人の中の一人になってしまった。

 昨夏、地元の国立大学で予備講習を受けたが、9月30日付で届いた大学からの書類を見て驚いた。「履修証明書」と書かれたその紙には「必修」の一つと「選択」の二つの講習の記載はあるが、もう一つ受けたはずの講習が書かれていない。不合格、という意味だった。

 その講習のテーマは「脳」。3人の大学教員が交代で講義した。双子の成長を追いかけた心と遺伝の研究、目と脳の働き……と興味深い内容で、真剣に聴き入った。

 計6時間の講習の後、わずかな休憩をはさんで40分の試験があった。A4の紙2枚に3題。「ゲゲゲの鬼太郎」にからめ、「目玉おやじが見ている世界について、私たちが見ている世界と比較して論じよ」という問題もあった。面食らいつつも、講習の内容を踏まえた答えを書いたつもりだったが……。

 文科省が示す評価基準では、100点満点の試験で59点以下だと不合格となる。関係者によると、この大学では他にも複数の不合格者が出ているという。教員免許更新担当の副学長は「講習も試験も適切に行われ、問題はなかった」「全員が認定されれば素晴らしいとは思うが、何でもいいから受からせようとは思っていない。ちゃんと試験をした結果だ」と言う。

 制度では、改めて講習を受けて合格すれば免許は更新される。やり直しがきくため、男性は「教壇に立てなくなる恐怖感はない」と話すが、制度のそもそもの公平性には疑問がふくらんでいる。今回経験したように、講習のテーマや担当の大学教員によって評価に差が出るのは避けられないからだ。

 この8月、再び同じ大学の講習を受けるが、今度は興味をもつ分野ではなく、自分の得意分野に近いテーマの講習を選ぶつもりだという。

    ◇

 教員免許更新制 改正教育職員免許法に盛り込まれ、制度化された。大学などでの受講料は3万円程度で、自己負担。教壇に立っていない「ペーパーティーチャー」は受講しなくても失効しないが、教職に就く際には講習を受けねばならない。

 更新制の議論はもともと、「不適格教員を現場から排除するにはどうしたらいいか」という点が出発点で、安倍政権の目玉として設けられた教育再生会議などが提案した。ただし、制度化に当たって文部科学省は「あくまで最新の知識技能を身につけてもらうことが目的」と説明している。制度をめぐっては「教育委員会などが実施している従来の研修で十分」「多忙な教員の負担をさらに重くしてしまう」といった批判もある。

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