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きょういく特報部2009

就学援助、自治体で格差

2009年10月26日

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 義務教育の小中学校は、本当は「無償」ではない。確かに授業料や教科書代はかからないが、鉛筆、ノートに始まってランドセル、給食費……と様々なお金がかかる。そこで経済的に苦しい家庭に支援金を支給するのが「就学援助」の制度だが、自治体レベルでは住民にほとんど広報していないところも少なくない。自治体によって支給する基準が大きく異なる問題もあり、課題は多い。

■小規模ほど周知不足

 横浜市の市立中学校の事務室。そろりと開いたドアの向こうに、在学生の父親がいた。

 父子家庭だが、病気で働くことができない。就学援助の申請で訪れ、頭を下げた。「ふがいない親で申し訳ございません」。事務職員の植松直人さん(57)は「就学援助は世の中を支える仕組みです。堂々ともらってください」と言葉をかけた。

 植松さんは「全国学校事務職員制度研究会」の事務局を務める。学校で実務を扱う現場感覚から、事務職員の会員らには「就学援助制度がうまく活用されていない」という思いがあるという。

 会の代表で埼玉県の元事務職員の竹山トシエさん(62)は、以前勤めていた小学校でこんなことがあった。

 ある男子児童は母子家庭でずっと就学援助を受けていたのに、4年生になって申請書類が出てこなかった。担任が家に電話をしても母親につながらない。代わって竹山さんが何度もかけ続け、夜遅い時間にようやくつかまった。

 聞けば、母親はダブルワーク。朝7時に仕事に出て、さらに夜にも別の仕事をしており、時間がなくて学校に申請に行くことができなかったという。「みんな色んな事情を抱えている。学校のお知らせ文や書類に目を通す時間がない人には制度は届かない」。竹山さんは実感したという。

 就学援助をめぐり、各地の自治体では収入の基準を厳しくしたり、支給額を引き下げたりする動きが相次いでいる。厳しい財政事情が背景にあり、住民への広報活動もおざなりにされがちだ。

 制度について07年に全市区町村に調査した学習塾経営者の湯田伸一さん(52)は、「人口規模が小さくなるほど制度の透明度が低くなる」と指摘する。

 湯田さんの調査では、人口70万人以上の自治体はほぼすべてで制度の案内書などを配布していた。しかし、人口規模が15万〜5万人では16.3%、5万〜2万人は23.2%、2万〜8千人は26.2%、8千人未満の自治体では3分の1に当たる33.3%が案内書を配布していなかった。

 制度の必要性について意識が低いところも多い。調査で問い合わせた際、役所の担当者から「就学援助って何ですか?」と聞き返されたこともあったという。「小規模な自治体では、援助を受けるべき児童や生徒の捕捉ができていない。底抜け状態です」

 湯田さんの調査によると、案内書をすべての児童生徒の家庭に配布している自治体の就学援助の受給率は11.6%。一方、配布していない自治体は6.8%にとどまっていた。

■支給基準にも地域差

 就学援助は、自治体によって制度の様子がかなり異なる実態がある。

 全国学校事務職員制度研究会の会員で長野市立小の事務職員、下平容子さん(53)は今年9月、長野県内の18市町村の事務職員に今年度の制度について聞き取ったところ、対象とする収入の基準が生活保護の水準の1.3倍から2.5倍まで差があることがわかった。さらに細かくみると、給食費について全額を援助している自治体がある一方、6割程度の援助にとどまるところもあった。

 福岡県の公立小学校の事務職員、高津圭一さん(44)も、全国40の市町村について就学援助が認められる収入や所得の目安を調べた。同じ4人家族で比べても、年間所得は259万円から431万円まで、最大で1.6倍以上の開きがあった。「同じ生活状況なのに、住む地域によって援助が受けられたり受けられなかったりするのはおかしい」という思いを強めている。

 制度はいかにあるべきか。現場では、より良い方向を求めて取り組みが続く。

 東京都大田区は、区立小中学校に通う児童生徒を通じて希望調査書を保護者全員に渡している。

 調査書の最初の質問は「就学援助費の受給を 1、希望します 2、希望しません」。2に丸をつけた場合はそれで終わり。1に丸をつけたら、続けて申請に必要な事項を記入してゆく。どの子どもが援助を受けているか教室内でわからないようにするため、回答した書類は全員に提出を求めている。

 さらには、子どもたちの多様化を踏まえ、英語、中国語、韓国語、タガログ語、スペイン語で「それぞれの言語版を学校に問い合わせてください」というメッセージを添えている。

 神奈川県大和市は、眼鏡の購入費を援助対象に入れている。検眼から購入まで、市と提携する店であれば1万8千円を上限に個人負担は一切ない。眼鏡が買えず、黒板が見えないまま授業を受けるようなことがないようにという考えからだ。

 札幌市は、体育の授業で使う用具について、北国らしくスキーやスケートの道具も援助対象に含めている。市教委が購入して現物支給する形で、数種類の中から好きなデザインを選べるようにしているという。(中村真理子)

     ◇

 〈就学援助制度〉 文部科学省によると、子どもが公立に通う保護者の学校生活にかかる年間負担額は、1人平均で小学生9万7500円、中学生16万9700円(06年度)。制度はこうした部分を公的に支援しようというもので、対象は生活保護を受けている「要保護児童生徒」と、それに準じて経済的に厳しい「準要保護児童生徒」。「準要保護」は各市町村教委が認定基準を決める。文科省によると、対象となる全国の児童生徒は97年度は約78万4千人、全体の6.6%だったが、07年度は約142万1千人、全体の13.7%と急増している。

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