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きょういく特報部2009

日本語教室、国費でスタート 不況でブラジル人学校閉鎖相次ぐ

2009年12月21日

写真拡大ひらがなの書き方を学ぶ小学校低学年の子どもたち。日系ブラジル人の先生がポルトガル語で指導する=浜松市南区卸本町

 日系ブラジル人の子どもたちを教育する国の事業「虹の架け橋教室」が各地で始まった。工場などで働いていた親の収入が昨秋来の不況で激減し、月に3万〜4万円かかるブラジル人学校に子どもを通わせられなくなった。それならば、無償で授業を受けられる日本の小中学校に通えるようにするため、半年程度、国費で日本語などを教えよう――という取り組みだ。

■公立への編入目指す

 ブラジル人が多く在籍する浜松市の外国人学校「ムンド・デ・アレグリア(喜びの世界)」。学校としての正規課程には110人の子どもが在籍するが、それとは別に、「虹の架け橋教室」の事業委託を受けて20人の小中学生を教えている。

 1時間目は日本語。物の名前をひらがなでノートに書く。漢字で名前を書いたことを日本人スタッフに褒められた日系4世のケンゴ君(14)は、日本語でおどけた。「スミマセン」「シゴトサガシテル」「シゴト、シゴト」

 日本生まれのケンゴ君は6歳で帰国、小学5年までブラジルの小学校に通ったが、2004年に両親と再来日した。しかし、編入した愛知県の学校では日本語がわからず、居場所がなくて教室から足が遠のいた。

 「同じ日系人がいるブラジル人学校に行きたい」。そんなケンゴ君の願いを聞いた父親のマルコスさん(37)は切なかった。派遣会社で通訳をしていたが、不況で仕事は激減し、2月に職を失った。生活保護でしのぐ暮らしでは、ブラジル人学校に通わせる余裕はなかった。

 今年9月、職を求めて浜松市に転居。日系2世の妻(37)は今月から自動車部品工場で働き始めたが、マルコスさんはいまだに職が見つからない。そんな中で「虹の架け橋教室」に出会った。

 「ずっと日本に住みたい。安全で、いつでも友達と会える」。そうポルトガル語で話したケンゴ君は、突然日本語で叫んだ。「日本、大好き!」

 同校の「虹の架け橋教室」では、日本語とポルトガル語、算数や音楽などを学ぶ。松本雅美校長によると、まず子どもにポルトガル語で考える力を身につけさせ、次に日本語を教える手法でカリキュラムを作ったという。日本の学校に行って、習熟の遅い児童生徒のために設けている授業についていける程度まで日本語のレベルを上げていくことを目指している。

 富士重工業の企業城下町、群馬県太田市にあるブラジル人学校「エスコーラ・パラレロ」。「虹の架け橋教室」が11月に始まり、正規の生徒でない8人が毎朝通っている。その1人がフジムラ・ヨシオ・ブレーノ君(12)だ。

 両親、1歳の弟とアパートで暮らす。工場の仕事がなくなった父親は昨年12月に別の職を見つけたが、月収は以前の34万円から14万円程度に減った。ブレーノ君は5年以上「エスコーラ・パラレロ」で学んでいたが、月約4万円の費用が2月から払えなくなって退学し、その後は家の中でテレビを相手に時間をつぶす生活だった。それが、ようやく形を変えて「復学」がかなうことに。「いつも鍵のかかった家の中。楽しいことは何もなかった。とにかく家の外に出られるのがうれしい」

■不就学児1割、自宅に

 どの教育機関にも行っていない「不就学」の日系人の子どもの問題は以前から指摘されていたが、この1年で一気に増えて深刻さが増した。

 日本ブラジル人学校協議会(AEBJ)が今年9月、ブラジル人学校の退学者でその後の行動が把握できた約2700人を調べたところ、最も多かったのが「帰国」で64%。日本の学校への編入は13%。その一方で、11%に当たる283人はどこにも通わず、自宅で過ごしている状態だった。

 そんな中で生まれた「虹の架け橋教室」は、文部科学省が約37億円の補正予算を組んで始めた。9月にブラジル人学校、NPO法人など10県の21団体が委託先に選ばれ、2次募集でさらに7県の11団体が決まった。

 ただし、これもあくまで緊急避難的な「つなぎ」の措置だ。

 ある程度日本語が上達し、公立の小中学校に編入したとしても、学習の遅れや友達関係に十分なケアができる体制がとれるのか、課題は大きい。

 親たちの気持ちも複雑だ。不況でも帰国せずに残っているだけに、相当な長期の滞在、定住も視野に入る。だが、そうではあっても、誇りある文化、独自性は失いたくない。言葉を含めて子どもたちに受け継いでほしいが、日本の学校で日本の教育を受け続けたら「同化」してしまわないか、不安を感じる親は多いという。

 本来、そうした部分を支えてきたのがブラジル人学校だが、AEBJの調査では、昨年10月からの1年間で、各地に99校あった学校のうち16校が経営難などで閉鎖され、さらに6校と連絡が取れなくなっているという。先の太田市の「エスコーラ・パラレロ」も、昨秋以降、生徒が340人から4割以下に激減。教員を17人から10人に減らしたが、それでもぎりぎりの経営が続く。

 お金をやりくりして子どもを通わせることができても、学校自体が無くなるケースが今後、各地でさらに広がる可能性がある。

 11月26日、日系ブラジル人が多い全国28市町でつくる「外国人集住都市会議」が太田市で開かれ、その場でも教育は重い課題として位置づけられた。採択された国への緊急提言では「外国人の子どもの就学義務化」とともに、「受け入れる公立校への十分な人的、財政的措置」「外国人学校の法的位置づけの明確化」といった項目も盛り込まれた。

■日系ブラジル人のリリアン・テルミ・ハタノ甲南女子大学准教授の話

 ようやく日本政府が外国籍の子どもの不就学対策に目を向けたのは前進だが、根本的な対応ではない。

 子どもの母国語が話せるだけでなく、教育の専門知識を持ち、教科の指導ができる人を配置してほしい。外国人学校への支援も足りないし、高校受験でも何らかの支援措置が必要です。

 現状では、「多文化共生」が言葉だけになっている。住民すべてが同じ言語、国籍、文化という時代ではないのだから、多様性を前提に学校も行政も対応すべきです。その中で、日本人の子どもも豊かな考えが持てるようになるはずです。(馬場由美子、上野創)

    ◇

 〈南米日系人の来日〉 製造業の労働力不足に悩む経済界の声を受け、国は1990年に改正出入国管理法を施行。南米に渡った日本人の血を引く日系2世、3世と配偶者、扶養を受け生活する未成年で未婚の4世に在留資格を拡大した。就労制限のない「定住者」の資格を定めたことから「出稼ぎ」日系人が急増。ブラジル・ペルー両国籍の外国人登録者数は、07年末には計37万6663人と法改正前の約20倍に。しかし、昨秋来の不況で初めて減少に転じ、浜松市では09年11月末時点で1万5936人とピークから約2割減っている。

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