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きょういく特報部2009

福祉系高校に法改正の大波

2009年12月28日

写真北海道置戸高校の2年生の介護の実技実習。実践形式のカリキュラムが続く=北海道置戸町図拡大  図拡大  

 全国の福祉系高校に今年、試練の「大波」が押し寄せた。2007年の法改正により、今年度の新入生から、介護福祉士の受験資格を得るのに必要なカリキュラムが約1.5倍に増加。医師、看護師といった専門職の教員の配置も必要になった。介護サービスの多様化、高度化に対応するためとされるが、学校運営のハードルが高くなった結果、08年度に220校あった福祉系高校は今年度、4分の3の164校に。「高校で介護福祉士を養成するのをやめろと言っているに等しい」。学校現場からはこんな声が漏れる。

■夏冬休み削り介護実習

 北海道東部、人口約3400人の置戸町。北海道置戸高校(生徒数85人)は道立高校で唯一の福祉科をもち、介護福祉士の合格率95%、福祉系の就職率は100%を誇る。

 寮生活をしながら学ぶ3年生の高田有紗さん(18)は先月、出身地近くの介護老人保健施設に就職が内定した。「施設には曽祖母がいます。介護で恩返しができそうです」。いまは1月の介護福祉士の受験勉強に集中する。「資格のあるなしで給料が3万〜4万円は違うと言われたから、もう、必死です」

 杉原萌香さん(18)も出身の札幌市近郊の特別養護老人ホームに就職が内定した。「実習で『ありがとう』と感謝されるこの仕事が本当に楽しい」。両親は入学前、「福祉の勉強は普通科高校に通ってからでも遅くない」と反対したが、杉原さんは「さらに先を目指したいから」と説得したという。

 同校では卒業と同時に介護員(ホームヘルパー)1級の資格が取得できる。介護福祉士に合格して就職した後は、実務経験5年でケアマネジャー(介護支援専門員)の受験資格も得られる。最短で23歳には専門職へのキャリアアップが可能だ。

 佐々木裕校長は「資格を持って介護分野で働きたいと思う人にとって本校は最短の道です。目標が高いことが、介護福祉士の高い合格率にもつながっている」という。

 だが、法改正には頭を抱える。福祉関連科目の履修は従来の34単位(1190時間)から52単位(1820時間)に。同校では、7時間目の授業や夏・冬休みを削った介護実習(13単位)を組み込まなければ対応できなくなった。

 同校の3年間の取得単位数は計87単位のため、普通教科は35単位しか確保できなくなった。「卒業生の何人かは一般推薦で看護や福祉系の大学へ進む。これでは進学後に苦労しないか心配で……」。佐々木校長は顔を曇らせた。

 それでも、同校のように福祉科に特化する学校は、教員配置でまだしもやりくりできる余地がある。生徒の就職先が様々で、進学も視野にカリキュラムを組む総合学科などは「福祉科目を増やして」と言われても対応できないのが実情だ。

 釧路市の北海道釧路明輝高校(生徒数598人)は、介護福祉士受験可能校の看板返上という事態にも追い込まれかねない状態になっている。1年次に共通履修科目、2年次以降は人文科学や健康・福祉など六つの選択科目を選ぶが、義務化された52単位の福祉関連科目の消化について、皆添英二教諭は「カリキュラム上も教員の人員を考えても絶対無理」と言い切る。

■卒業後の実務で「特例」

 こうした事態を想定し、文部科学省と厚生労働省は、従来の34単位の履修でも卒業後に9カ月の実務経験を積めば受験資格が得られる「特例」を認めた。釧路明輝高をはじめ全国で公立41、私立16の計57校がこの措置を申請したが、これも13年度入学者までの時限措置だ。

 福祉系高校の履修科目時間をめぐり、3年前には霞が関で論争が繰り広げられた。

 一時は57単位、2千時間程度を課すべきだという意見が示され、厚労省であった検討会で高橋福太郎・福祉科高等学校長会会長(青森・東奥学園校長)はこう反論したという。「高校の福祉教育はまさに崩壊、消滅してしまいます」

 最終的に52単位で決着した現行のカリキュラムについて、高橋会長は「介護福祉士のあり方を考えればやむを得ないことだった」と理解は示す。しかし、同時に「教育内容が専門学校や短大、大学と同等にまで増え、大変厳しい」とも言う。

 福祉系高校は01年以降、介護福祉士試験の合格率で全体の平均を上回る実績を積み重ねてきた。制度見直しにかかわった厚労省の矢幅清司・教育課程調査官も、福祉系高校について「地方、特に過疎地で人材供給という役割を立派に果たしている」と意義を認める。

 実は、法改正に当たっては、将来の見直し規定があえて盛り込まれている。厚労省福祉人材確保対策室は「介護福祉サービスそのものが多様化、高度化する中で、資格取得のカリキュラム、取得ルートなどが検証され、必要な措置が講じられることになる」という。

 見直しが想定されているのは17年。その時、福祉系高校の存続をはかる制度が認められるかどうか。関係者には「現在の高い合格率を維持することが判断材料になる」との見方がある。(加賀元)

    ◇

 〈介護福祉士資格〉 「社会福祉士及び介護福祉士法」で規定された国家資格で、取得するには三つのルートがある。厚労省によると、09年9月末の資格登録者は全国で81万1440人(養成施設ルート25万5343人、実務経験及び福祉系高校の両ルート55万6097人)。

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