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きょういく特報部

我が子はなぜ死んだのか 子どもの自殺 第三者調査検討

2010年2月8日

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 2008年度は全国で136人にのぼった児童生徒の自殺。その半数以上は原因が解明されないままだ。いじめや教師の体罰がうかがわれるケースでは、真相究明を求める遺族に学校が難色を示したり、調査が不十分だったりするケースが少なくない。そうした状況を改善しようと、文部科学省の有識者会議は弁護士ら第三者を含めた調査方法の指針づくりも検討しているが、遺族には期待と懸念が交錯する。

■文科省指針、持ち越し

 「自分の子どもがなぜ死んだのか。知りたいという親の権利を認めてほしい」。昨年9月、子どもの自殺の原因を究明する調査方法の指針づくりを目指す文科省の有識者会議で、横浜市の小森美登里(みどり)さん(53)が訴えた。高校生の長女香澄(かすみ)さん(当時15)を「いじめ自殺」で亡くした。遺族が文科省の会議で話すのは初めてのことだ。

 香澄さんは98年に神奈川県立高校に入学。まもなくいじめを受けるようになり、同年7月に命を絶った。担任教師はいじめの相談を受けていたとされるが、学校はいじめの存在を否定し、詳しい調査を拒否した。

 両親は01年、真相究明を求めて同県を提訴。訴訟で、学校が調査目的で生徒約30人に書かせた「作文」の存在が明らかになった。6年後、東京高裁で作文の一部開示などを条件に和解したが、内容は口外しないよう求められている。「学校側の心ない対応で何度も傷つけられた」と小森さんは話す。

 文科省の有識者会議では、子どもの自殺の背景を調査する手法として、学校や教育委員会以外の第三者組織による調査の本格的な導入や、学校から教育委員会への報告書の書式、調査項目の共通化などを検討している。第三者による調査について、文科省は07年6月、必要に応じて実施するよう都道府県教委に通知。しかし、具体的な手順や方法を示しておらず、対応は学校側に任されていた。

 当初は09年度内に調査の指針をまとめる予定だったが、「課題が多い」として10年度に持ち越された。

■学校の対応、不信招く

 文科省のまとめでは、過去20年間の子どもの自殺者数は増えたり減ったりを繰り返しており、全体としては改善の兆しはみられない。08年度は136人(中学生36人、高校生100人)だった。

 08年度に自殺した子どもについて、文科省が学校側に複数回答で背景を尋ねたところ、「不明」(53.7%)が最多で半数を超えた。続いて、「進路問題」(11.8%)▽「家庭不和」(9.6%)▽「父母らの叱責(しっせき)」(7.4%)▽「病弱などによる悲観」(7.4%)と続いた。

 一方、「いじめの問題」(2.2%)や「教職員との関係での悩み」(1.5%)といった学校側の責任にかかわる項目は下位にとどまった。いじめを示唆する子どもの手紙などが残っていても「不明」とした例もある。

 文科省の有識者会議のメンバーで、子どもの自殺問題に詳しい坪井節子弁護士は「学校が関係者らに詳しい聞き取りをせず、遺族の意向も聴かずに沈静化を図るケースは少なくない。対応の悪さが遺族らの不信を招き、問題を深刻にしている」と指摘する。

 坪井弁護士によると、子どもの自殺をめぐる損害賠償請求訴訟では、原因調査の有無や保護者への報告を怠ったことが争点となり、学校側の過失を認めるケースが出ているという。

 長年、自殺予防の授業に取り組んでいる近畿地方の50代の小学校教師は「学校現場では、子どもの自殺や自殺未遂の話題はタブー視され、教職員の間で語られることはほとんどない。遺族らと向き合うことが大切だとは思うが、どうすればいいのか分からない」と本音を漏らす。四国地方の50代の高校教師は「自殺の背景を調べれば、家庭内の問題に踏み込む必要も出てくる。教師にどこまでできるだろうか」と話す。(相江智也)

■遺族の知る権利、保証して―小森美登里さん(NPO法人理事)

 いじめで自殺した子どもの遺族らでNPO「ジェントルハートプロジェクト」をつくって活動しているが、遺族の知る権利を保障することが必要だ。遺族への情報開示を前提にし、調査方法にも遺族の意見を反映させてほしい。子どもが自殺する原因は一つとは限らない。事実を調べるうちに、家庭内の問題が浮き彫りになることも考えられる。それでも、親として子どもが死を選んだ理由を知りたいと思う。

 第三者による調査を一律に導入することには不安を感じる。教育委員会などが第三者に調査を委託するケースも出ているが、遺族が納得している例は多くない。教委関係者がメンバーに入る一方、遺族がシャットアウトされて学校側の意向に沿った結論が出されたり、プライバシーを理由に議論の経過や結論が開示されなかったり。学校が「すべて調査委に任せている」として遺族との話し合いを拒否した例もある。

 残された子どもらは衝撃を受けている。何があったか話してもらうにはノウハウが必要だ。現代の学校のいじめの実情を知る人でなければ実のある調査はできない。そうした人材が各地で集められるだろうか。調査着手に時間がかかれば、学校による口封じが進むほか、子どもらの記憶が薄れるおそれもある。

 まずは、学校から教育委員会への報告書の書式の共通化を考えてほしい。現状はばらばらで、遺族と学校の考えに相違があっても学校の意見だけが報告されることが多い。同級生らに自殺の原因について思い当たることを書かせる取り組みも必要だ。包み隠さず伝えることは、事実の解明だけでなく、残された子の心のケアにもつながる。

■過ち直視し公正に調査を―内海千春さん(全国学校事故・事件を語る会)

 子どもを亡くした遺族は、世間の風評による二次被害を受ける。遺族が再び顔を上げて暮らすための第一歩が、事実を明らかにすることだ。学校による調査は交通事故の一方の当事者が現場で捜査するのと同じこと。事実がゆがめられても、現状では遺族に反論するすべがない。

 私の長男(平(たいら)君、当時12)は小学6年だった1994年、担任教師から顔を殴られる暴行を受けた後、自宅の裏山で首をつった。学校側は当初、暴行を認めて謝罪したが、その後否定に転じた。近所の人から「家庭の育て方に問題があった」という中傷を受け、「自殺ではなく事故死」という誤った情報も流れた。約1カ月後、学校が教育委員会に出した報告書には、「管理外の事故死・原因状況不明」と記されていた。

 学校にかかわる事件事故で子どもを亡くした遺族が支え合う活動を始めて16年。これまで相談を受けた約40件の自殺のうち、約8割がいじめや教師の体罰の存在を訴えている。原因不明が過半数を占める文科省の調査とは大きな隔たりがある。遺族が「うやむやにされた」と怒りを感じるのは当然だと思う。

 会として、国に原因調査のための第三者機関の設置を求めてきた。しかし、調査ですべてが解決するとは思っていない。結果をもとに学校や行政は再発防止策や遺族への支援を考えなければならない。

 一つひとつの事例を公正に調査し、検証することで問題点が見えてくるはずだ。学校が過ちから目を背けていては、少しも前に進まない。中学校教師を務める立場で、そう痛感する。

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