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きょういく特報部

成長遅い子ども 「就学猶予」見守ってあげて

2010年3月29日

写真来年度も幼稚園に通う6歳の長男。生まれた時は身長26.5センチだった=茨城県日立市

 医療の進歩で救われる命が増えた一方で、同じ年に生まれた子どもより成長や発達が遅れる子もいる。そんな子どもたちのために、小学校に通う年齢になっても、発達の程度によって学校に通わないことを認める「就学猶予」という制度がある。ただ、制度を知る人はわずかで、適用例もまだ少ない。

■「1年待てば体力つく」

 「猶予を認めることになりました」

 茨城県日立市に住む40代の母親に1月中旬、市教育委員会から電話があった。長男(6)は予定日より3カ月早く、440グラムで生まれた。小さく、握ると折れるのではないかと心配になるほど指が細かった。半年間、新生児集中治療室(NICU)で過ごし、2600グラムに成長し退院した。

 同い年の子より、体が小さく、胃と直接つなげた管で鼻から栄養剤を取っている。注入回数は次第に減り、今では家にいる間の1日3回だけ。幼稚園では管をほおにはわせてテープで止め、昼食に卵焼きを食べたり牛乳を飲んだりできるようになった。ただ、身長100センチ、体重14キロと体格は4歳半程度だ。

 小学校入学が近づいたが、「体力不足で何をやっても周りについていけず、心まで不健康にしたくない。まだ学校には行けない」と思った。

 就学猶予という制度を知り、市教委に相談すると、当初、「原則、やっていない」と後ろ向きだった。だが、親の強い希望や医師の意見もあり、受け入れられた。母親は「親だけでなく制度を知らない自治体の担当者も少なくない。一人ひとりの子に合った教育を選べるよう、周知が進めばいい」と話した。

 就学猶予の中心はかつて、身体・知的障害や経済的な事情で学校に通えない子だった。戦後まもない1948年度には、本来なら小学校に通う年齢の猶予者が2万6372人いた。次第に養護学校などが整備され、89年度に475人と底を打った。

 一方で近年、発達の遅れや障害を伴う子は増えている。日本小児科学会の調査では、体重1千グラム未満の超低出生体重児の死亡率は1985年に42.7%だったが、医療の進歩で2005年は17.0%に改善。彼らは成長が遅れがちで、障害が残るリスクもある。猶予者数は89年度から増加に転じ、08年度は1095人に達した。

 就学猶予を望む親を支援してきた三科潤・東京女子医大元准教授は「500グラム未満の特に小さな子の就学問題は、ここ5年ほどで新たに出てきた」と話す。「1年待てばかなり体力がつく。子の将来を誰より思う親の希望を重んじ、教委や学校は猶予を認めてほしい」と言う。

■過度の期待は慎んで

 子どもの成長に過度な期待をかけることを戒める識者もいる。未熟児の発達に詳しい横浜市中部地域療育センターの原仁所長は「いつも周りと比較してつらい立場に子どもを置くより、例えば特別支援学校などに進む方が良いケースもある。保護者は教委と相談し、子どものことを一番に考えて猶予を検討してほしい」とアドバイスする。

 東京都内の母親(58)は制度を活用し、次女(21)の就学を1年遅らせた経験がある。本来一つ下の学年のはずだが、4カ月早く675グラムで生まれた。右手を中心に先天性のマヒがあり、猶予を見越して私立幼稚園に1年遅れで入れてもらった。

 5歳で何とか歩けたし、話もしっかりできた。養護学校(当時)も考えたが、「1年待って普通学校に行かせ、周りについていけるか様子を見たい」と猶予を申請し、認められた。

 入学までに一人で着替えられるようになった。進学先の公立小学校には洋式トイレを一つ設けてもらったが、在学中、母親が同行したのは低学年の遠足とプールの授業くらい。あとは周囲の支えで過ごせた。

 私立中高一貫校に進み、今、私立大3年生だ。ただ、身体障害者手帳1級で右手は不自由、身長140センチ弱と小柄だ。

 「同学年の子と同水準まで体が発達することはなかった」と母親は話す。「普通学校でもまれて打たれ強くなった半面、つらい思いもした。猶予したことに悔いはないけど、養護学校なら同じ痛みの分かる友達もできたかもしれない」とも思っている。

 埼玉県川口市立医療センターの奥起久子・新生児集中治療科部長は「猶予を勧めても、1年の遅れが将来足かせになると考え、無理に普通学校に入れる親もいる。本来の学年より早く生まれ、発達も遅い子は二重に不利なのに、結果的に子どものためにはならない」と話した。(吉野慶祐)

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