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きょういく特報部

免許失効した「先生」が教壇に 刑罰歴 自己申告に限界

2010年4月12日

図拡大  写真拡大三重県教委の「誓書」

 禁固以上の刑で執行猶予中の人が教壇に立って子どもたちを教えていた――。そんな事例が、東京都と三重県で相次いで明らかになった。なぜ、そんなことが起きたのか。

■東京・三重で発覚

 「有罪判決を受け、懲役刑の執行猶予中だった男性(当時31)が2009年5月に県立高校の講師として採用され、授業をしていた」

 今年3月、三重県教育委員会は、朝日新聞などの取材に対し、こう明らかにした。

 県教委によると、男性は会社員だった08年3月、少女に売春相手を紹介したとして、児童買春禁止法違反の罪で執行猶予付きの懲役1年6カ月の判決を受けた。

 教育職員免許法によると、教員免許を持つ人が執行猶予も含めて禁固以上の刑を受けた場合、免許は失効する。その場合は都道府県教委に返納しなければならないが、男性は返しておらず、県教委は事実を知らぬまま09年5月に講師として採用した。男性は同年8月に別の少女への強制わいせつ事件で逮捕され、以前の事件も県教委が知るところに。今月9日には強制わいせつ事件の方で懲役3年の実刑判決を受けた。

 一方、東京都教委が09年12月に発表した内容はこうだ。

 「禁固以上の有罪判決を受けて執行猶予中の男性(当時25)が09年4月から区立小で臨時教員などをしていた」

 都教委によると、男性は大学在学中の07年2月、執行猶予3年の有罪判決を受けたが、09年3月に教員免許を取得。翌4月に区立小学校の非常勤講師に採用され、5月に臨時教員として学級担任になった。10月には教員採用試験に合格。都教委は正規採用を予定していたが、調査の結果、執行猶予中であることがわかった。

■採用時の確認に手間

 都道府県教委は、教員採用の際、地方公務員法や学校教育法に基づき、執行猶予も含め、禁固以上の刑を受けていないことを条件にしている。確認方法について国の指針はなく、各教委に任されている。

 現職の教員なら、罪を犯して裁判にかかるようなことがあれば、周囲も大抵は気づく。免許が失効すれば官報に公告され、全国の都道府県教委にも通知されるため、各教委は「失効者リスト」で管理できる。難しいのは、採用前の刑罰歴の確認だ。東京も三重もこのケースだった。

 東京都教委は、教員採用試験の受験申し込みの段階で、「禁固以上の刑に処せられ、その執行を終わるまで、またはその執行を受けること(執行猶予)がなくなるまでの者」などに「該当していない」との文書に署名させている。

 さらに、正規採用の場合、本人を通じて本籍地の市区町村で刑罰歴を確認することにしている。本人から照会依頼文と回答書類を自治体に渡し、都教委へ返送してもらうというやり方だ。09年度は約3200人の合格者に実施した。

 都教委選考課の藤本龍夫課長は「一人ひとりを確認する作業は大変だが、まれに該当することがある。やめることはできない」と話す。先の小学校教員の事案が発覚したのも、この手続きによってだった。

 ただ、こうした厳しい運用は、産休や病気休職などの補充として短期採用する年間1千人近い臨時教員らには適用されない。採用のたびに確認作業をしていては手間がかかり過ぎて現実的ではないという判断だったという。今回の問題が明らかになった後、臨時教員らも正規採用と同じようにチェックを厳しくすべきだとの議論が出ており、具体的な運用を検討中だという。

 三重県教委のチェックは、誓約書の提出だけで、すべては本人の自己申告に委ねている。県教委人材政策室の出口勤副室長は「誓書でうそをつくという前提には立っていない」。しかし、3月に明らかになった男性講師の件は、まさにその「うそ」をつかれたケース。現在は、都教委のやり方などを参考に、免許失効の確認方法を検討中だという。

 教員免許をめぐっては、10年に1度、大学などでの講習受講を義務づける免許更新制が09年度に始まったのを受け、免許情報を電子化して全国的にネットワーク管理する免許管理システムが稼働した。名前や生年月日、免許の種類などについて、都道府県教委が情報を共有できるようになった。ただ、個人情報を扱うためとして、「免許更新」業務ではない目的外使用はできないことになっているという。

 文部科学省は「東京都教委のように刑罰歴を確認するのは有効だが、個人情報保護の観点から照会に応じない自治体も一部にあるようだ。そうなると、自己申告に頼らざるを得ないだろう」と話す。

 実際、チェックは自己申告の誓約書だけという教委は多い。「先生になろうという人に悪い人はいない」。ある県教委の担当者は、なおこんな「性善説」を口にする。

 教員選考のあり方に詳しい愛知教育大の荒井文昭教授(教育制度学)は「団塊の世代の教員が大量に退職する中、教育現場は先生の確保に必死になっているが、今回のような事例で免許が失効した人が先生になることは絶対に排除しなければならない」と話す。

 「手間ひまかけてもきちんとチェックすべきで、その仕組みをいかに効率的にできるかが課題だ」(二階堂勇、永友茂則)

    ◇

 〈教育職員免許法〉 幼稚園や小中高校、特別支援学校などの教員の免許に関する基準を定めている。免許状の種類や授与の手続き、失効の要件などを定めた。法改正で2009年度から、教員免許に10年の期限が設けられ、更新時に講習を受けないと失効する免許更新制が始まった。ただし、政権交代後、民主党の政務三役は、新たな教員養成制度の導入とセットで更新制を廃止することを検討している。

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