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きょういく特報部

拡大教科書コストの壁 弱視生徒向け

2010年6月7日

写真拡大各地の盲学校高等部に配布された「理科総合A」の拡大教科書(上)。原本となった標準の教科書(下)と比べると、大きさは約1.4倍になっている写真「単純拡大」の教科書でもなお読みづらく、拡大鏡を使う生徒=高知市の高知県立盲学校図拡大教科書公開の場所と期間

 教科書を読むのが大変な弱視の児童生徒のために文字を大きくした「拡大教科書」が広がっている。普及を促す法律が2008年に成立したのを受けた動きだ。ただ、高校段階になるとコストの壁が大きく、使い勝手が良いものが生徒に提供できていないのが現状だ。

■小中は普及進むが…

 文部科学省によると、拡大教科書が必要な児童生徒は小学校で1千人、中学、高校ではそれぞれ五百数十人程度いるという。

 かつては顔をこすりつけるように近づけたり、ルーペなどの弱視用レンズを使ったりして標準の教科書を読むしかなかったが、ボランティアが拡大コピーするなどして、手作業で拡大教科書を作る動きが徐々に出てきた。

 04年には、ボランティアがつくる拡大教科書の費用を国が負担する仕組みができたが、同時に依頼が殺到し、製作が追いつかなくなった。こうした流れを踏まえ、08年6月の国会で「教科書バリアフリー法」が成立し、教科書会社が拡大教科書の発行に努めることが定められた。義務教育の小中学生向けに多くの教科書会社から提供が始まったのは09年度で、今春には全教科書430点のうち、約180点で拡大教科書が発行された。今後2年で、ほぼすべての教科書の「拡大化」がはかられる見込みだ。

■1冊10万円以上にも

 一方、高校生用の拡大教科書については、教科書会社は1年置いて今年度から発行を始めたが、盲学校の高等部が採択した教科書に限られている。一般の高校に通う生徒で拡大教科書が必要な生徒は約120人いるが、こうした生徒は学校が盲学校と同じ教科書を採択していないと、入手は難しい。

 理由は「コストの壁」。盲学校は全国約70校で同じ教科書を使うため一定数の需要があり、教科書会社も製作費の計算が立つ。1冊当たりの価格は3〜4万円程度と高額ではあるが、盲学校の場合は公費の「就学奨励費」でまかなうことができ、保護者の負担はゼロで済むという。

 しかし、一般の高校では事情が違う。学校によって使う教科書はまちまちで1点当たりの需要は少なく、例えば需要を10冊として試算すると価格は1冊12万円を超える。就学奨励費のような制度もないため、事実上、発行するのは困難な状況だ。

 高校生用の拡大教科書の使い勝手はどうか。

 4月半ばに手にした高知県立盲学校(高知市)高等部1年の六久保茉優さんと東野千夏さんは、中学の時まで使っていた標準の教科書に比べると見やすくなったと話す。ただ、それでもなお字や図が細かくて読みづらいこともあり「もう少し大きかったらいいのに」と言う。筑波大学付属視覚特別支援学校(東京都文京区)高等部1年の伴悠介君も「僕には字が小さすぎる。せめてゴシック体なら少し読みやすくなるが……」。

 今春、高校生用につくられたのは、ほとんどが標準の教科書をそのまま拡大したものだ。大きくし過ぎると使いづらいとして、原本の1.1〜1.4倍程度にとどめている。

 これとは別に、教科書の大きさは変えないまま、レイアウトの変更で字や図版を大きくするタイプもある。小中学生向けはこれがほとんどで、原本の1ページ分を2〜4ページに置き換えるためかなり読みやすい。

 ただ、文科省は、高校生用については「社会に出る前にルーペなどを使って小さい字を読むことに慣れる必要もある」などとしている。レイアウト変更は手間がかかってさらに製作費がかさむこともあり、この春、高校生用に発行されたものはほとんどが単純拡大型だった。筑波大付属視覚特別支援学校の宇野和博教諭は「単純拡大式では生徒のニーズを満たせない」と言い切るが、教科書協会で拡大教科書の問題を担当する東京書籍の渡辺能理夫・編集局次長は「企業としてはやはり費用がネックになる。編集できる人材の確保も相当に難しい」と話す。

 中野泰志・慶応義塾大学教授(障害児心理学)は「文字がそれほど大きくならない単純拡大でも、教科書会社から発行が始まったことは評価できる。そこからさらに進めるため、関係者が協力し、レイアウト変更の作成コストを下げる方法を探らなければならない。まずは現状の改善点を詳しく検証する必要がある」と指摘する。(前田智、上野創)

    ◇

 文部科学省は、来年度から小学校で使われる教科書について、東京で先行公開しているのに続き、7県で7〜8月に公開する。3月末に教科書検定に合格したもので、「脱ゆとり教育」でボリュームが大幅に増えたのが特徴だ。検定の過程で教科書調査官がつけた意見や審議会の議事概要も初めて公開される。

 先行公開の東京会場は、江東区千石1丁目の教科書研究センター。公開は7月30日までの午前10時〜午後4時半(正午からの1時間は休館)。土、日、祝日は休み。

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