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きょういく特報部

校庭結び チョウの道 広がる「食草園」

2010年6月14日

写真卵が産み付けられたミカンの木を観察する木村先生(右)と園児=東京都品川区立城南幼稚園

 チョウが好む草花を学校で育てる活動の輪が、東京の都心から広がっている。「蝶(ちょう)の道プロジェクト」として3年前に東京都品川区が事業化し、チョウの「食草園」は同区内で40カ所を超えた。子どもたちは観察を通じて命の大切さを学んでおり、取り組みは周辺の区や関西でも始まっている。

■小さな命の尊さ学

 「あっ、卵だ!」

 「ここにもあるよ」

 品川区立城南幼稚園の園庭で子どもたちの歓声が上がった。高さ1.5メートルほどの鉢植えのミカンの木の葉に、小さな粒が産み付けられている。アゲハチョウの卵だ。木村友美先生(25)は「今年はなかなか卵が付かなかったから心配していたんです」。

 同園では2008年5月、ミカンのほか、パンジー、ハボタン、マリーゴールド、ナスタチウムなど約10種類を園庭や花壇に植えた。いずれも幼虫が葉を食べたり、チョウになってから蜜を吸ったりする草花だ。「蝶の道プロジェクト」を知った保護者が提案して植えた。

 この時、4歳児の担任だった木村先生は1匹の幼虫が付いた葉を飼育箱に入れ、室内で飼った。さなぎになって2週間後、6月下旬にクロアゲハが羽化し、子どもたちは大喜びした。

 「外に逃がそうか」と声をかけると、子どもたちは「やだ」「もっと見たい」。しかし、蝶は狭い箱の中で動き回り、黒い羽根はぼろぼろになっていく。2日後、木村先生が「逃がしてもいい?」と聞くと、子どもたちはさびしさをこらえて「ウン」とうなずいた。

 翌年は、同じ子どもたちを持ち上がりで担任し、アゲハチョウを飼った。子どもたちは自分からフンの掃除をしたり、観察窓の付いた大きなケースを段ボールで作ったりした。10匹以上が次々と羽化し、その日のうちに「お別れ会」をして放した。飛べないまま死んだチョウは、園庭に丁寧に埋めた。

 「小さな命の生や死について感じたり考えたりする経験が、命の尊さに気付くことにつながる」。木村先生はこう感じている。

■パンフで「こんな草」

 プロジェクトの仕掛け人は、グラフィックデザイナーの南孝彦さん(57)。04年秋、目黒区と品川区にまたがる都立「林試の森公園」で、山地のチョウのイメージがあるルリタテハが飛んでいるのに出会った。同じころ、品川区の運河の土手を散歩しているときに、ジャコウアゲハのサナギをツツジの枝に見つけた。ともに、幼虫の食草群が近くにあった。

 食草を増やせば、都会でもチョウが飛び交うようになるだろう。チョウが生きやすい環境を整えることは、色々な生物が共生できる環境をつくることだ――。そう考えて、小中学校や児童センター、企業などに、敷地内に食草園をつくってくれるよう依頼して回った。

 「ガーデニングをしている人は多いけれど、花が散るとたいてい植え替えてしまうので幼虫が育たない」と南さんは残念がる。「花が散っても、葉が食べられても、生き物のことを思って花壇の一部はそのままにしておいてほしい」

 プロジェクトでは、12種類のチョウと、それぞれの幼虫が好む主な草を写真で紹介するパンフレットも配布している。モンシロチョウはナスタチウム、ツマグロヒョウモンはパンジー、ヤマトシジミはカタバミ……といった具合だ。

 品川区は07年度から、食草園づくりのための苗木代やパンフレットの作成費などとして毎年百数十万円の予算を付けている。

 これまでに設けられた食草園は49カ所。そのうち11カ所が小中学校だ。多くは環境学習の一環として位置づけられており、理科の授業で観察をするなどしている。区立山中小学校では5月22日、土曜日の課外活動で、児童らが保護者とともに苗を植えた。梶千枝子校長は「作業中にクロアゲハが飛んできた。自然に親しむいいきっかけになる」。

 同様の取り組みは、世田谷区や豊島区の小学校、大田区の児童センターなどのほか、関西にも広がっている。奈良県御所市の保育士、橋田知代子さん(37)は2年前にプロジェクトのことを知り、「都会じゃないから普通にチョウは飛んでいるけど、もっと増やしてみよう」と考えた。

 南さんに電話でアドバイスを受けながら、花壇やプランターを使って勤務先の保育所に食草園をつくった。「子どもは虫が大好き。私の話を集中して聞いてくれない子も、チョウを見ると目を輝かせる」

■路地にもビル街にも

 南さんはいま、広い緑がある皇居から丸の内のビル街を抜けて東京湾岸にある浜離宮庭園まで、チョウの道をつくる計画を関係者と温めている。

 路地にプランターを置いたり、道路脇の植え込みを活用したりして、チョウが羽を休める花壇と食草園をつくっていく。南さんは「一つひとつの『点』は小さくても、間隔を縮めていけば線になり、道になる。ビルの谷間でチョウが舞うようにしたい」と言う。

 立教大学社会学部の阿部治教授(環境教育)は「子どものころから自然に触れることの大切さが再認識され、自然体験活動の場も急速に広がっている」と話す。「蝶の道プロジェクトは優れた環境教育であると同時に、生物の多様性を都市に取り戻し、実感する手法としても有意義だ」(花野雄太)

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