現在位置:
  1. asahi.com
  2. ライフ
  3. 教育
  4. きょういく特報部
  5. 記事

きょういく特報部

ホームレスを考えた 中学生ら修学旅行で/紙上討論で

2010年7月19日

 貧困問題が深刻になるなか、家がなく路上で暮らす「ホームレス」の人々について教室で取り上げる試みが始まっている。修学旅行で支援団体の夜間巡回活動に加わり、人のつながりを考えた岐阜県中津川市立第2中学校。「ホームレスになるのは自己責任か」をテーマに考えた神奈川県小田原市立白山中学校。ふたつの取り組みをみた。

■無関心を越え、いじめとも重ねて

 5月末の夜7時過ぎ、雨の音が響く東京都庁の広場。横たわるホームレスの一人ひとりに、しゃがんで声をかける中学生の姿があった。中津川市立第2中の3年生たちだ。

 支援団体の人に付き添われ、「こ、こんばんは」。ためらいながら話しかけると「なんでここにいるか聞いてくれよっ」。笑顔で言葉が返ってきて、硬かった生徒の表情がほどけた。

 この日、生徒らは行政の自立支援センターやNPOを回り、ホテルで支援者や野宿経験者の話を聴いた。

 取り組みの出発点は2年前。修学旅行の行き先が、旅費と移動時間を抑えるため長崎から東京に変わったことだった。

 当時1年の学年主任だった岩川太郎先生(47)は考えた。首都の光だけでなく影も見つめさせたい。「親の給料が減って塾に行けない」「父親の工場が閉鎖された」。そんなことを口にする生徒たちにとって、貧しさは身近な問題だ。貧困、その極みのホームレス問題をテーマに決めた。

 今年1月、NPOスタッフや教師らからなる「ホームレス問題の授業づくり全国ネット」がつくったDVDを生徒に見せた。なぜ路上生活に至ったか語る当事者の姿を映し、夜回りに加わる大阪の子どもの活動を描く内容だ。

 生徒は路上生活者を「顔の見える人」として意識し始めた。「缶を集めても少ししかお金をもらえない。上から目線だと思うけど、かわいそう」「見た目だけで決めつけるのはよくない」

 感想文の一部を岩川先生が同ネットのメーリングリストで紹介すると、ネットの共同代表でライターの北村年子さんから手紙が届いた。「ホームレスとは安心できる居場所のない状態を指す言葉です。教室の中でいじめられている人もそう。最大の暴力は、その人々への『無関心』であると思っています」

 子どもらはホームレスをいじめと重ね、自分自身に向けられた問題だと受けとめるようになる。傍観や無関心を越え、人と人はどうつながるのか。3月、修学旅行時にホームレスの人たちを訪ねる「夜回り」の参加者を募ったところ、147人中42人が手を挙げた。支援団体の受け入れ限度は30人。「家がない人の心に土足で入り込むようなことがあってはいけないんだよ」。やる以上は軽い気持ちではだめ、といさめたつもりだったが、再度希望をとると逆に100人に増えた。抽選で30人を選んで5月の旅行に臨んだ。

 旅から帰った6月、生徒たちは思いをつづった。「夜回り」中、通行人から避けるような目で見られた女子は「前の私も同じような目をしていたのかもしれない」。「他の場所を観光したい」と夜回りに参加しなかった男子は「頑張って支援する人がいるのに、自分だけ無関心は嫌だと思いました」。「人間を訪ねた旅だから心が揺さぶられたと思う」と岩川先生は話す。

■自己責任と思うか? 揺れる生徒

 小田原市立白山中ではホームレス問題について2年生の生徒が思いを書き、互いに読み合う取り組みを進めた。

 担当したのは柏木修先生(56)。昨年末に「ホームレス問題の授業づくり全国ネット」のDVDを見せたところ、こんな感想を書いた子がいた。「計画的に生活していなくて失敗してしまったのに、とムカついてしまった。汚いと思うキモチはぬぐえなかった」

 柏木先生はこの文を「A」とし、別の生徒が書いた「だらしないからホームレスになると思っていました。でも頑張っている人もなったのかと悲しいです。支援活動に参加してみたい」という逆の内容の文章を「B」とした。そして、A、Bそれぞれの意見をどう思うか考え、書いてみる授業を始めた。

 まず噴き出したのがAに近い意見だった。「ホームレスって働く気を失って頑張って努力をしない人。手助けするのは甘やかしている」「中学・高校・大学と努力しなかった人がなっていると思う。自業自得と思う」

 「A」派は、家が豊かでなく親が苦労しているのを見ている子や、「頑張ってよい成績をとっている自分が野宿者になるようなことはない」と思っている子が目立ったという。

 これに対し、「B」の立場から反論が起きた。「不況なのでだれでもホームレスになる時代」「貧乏な家で育ち高校や大学に行けなかった人もいる」「死にそうなのに、何で助けることがいけないの?」

 「紙上討論」を2度、3度と重ねると、B派が膨らんでいった。しかし「どちらとも言えない」という生徒も出てきた。「Aはひどいが、実際に野宿者を前にしたとき、私は手助けできるだろうか」と両方の考えに距離を置く子。「Aと同じように思う。でもBのように同じ人間だから助け合わないとと思う」と両方にうなずく子。自分を見つめ、真剣に考えた結果だと先生は受け止めた。

 国語を教える柏木先生は4月、朝日歌壇のホームレス歌人、公田耕一さんの短歌を読んだ。炊き出しの会の日程を知らせると数人が参加した。

 そして6月、ホームレスの人をどう思うかを400字以内で書くよう求め、試験の作文の課題とした。「必ずしも自己責任と思わない」という立場の子が7割を占め、「自己責任」派は2割近く、「どちらとも言えない」などが1割だった。

 6月末、試験明けの授業で柏木先生は初めて自分の意見を話した。「テストで点が低く、頑張らなかった人は生きる権利がないのか。僕はそうは思わない」「炊き出しは、食べ物を渡すだけでなく、困ったときは助けるよという気持ちを伝えることに意味がある」。そしてこれまで書いた文を一人ひとりに返した。「自分は最初はこう考えていたのか」。生徒たちは感慨深そうに振り返ったという。(編集委員・氏岡真弓)

     ◇

 両中学が活用したDVDのタイトルは「『ホームレス』と出会う子どもたち」。一般価格2800円。注文は、名前、住所、電話、メールアドレス、本数を書き、メールで「ホームレス問題の授業づくり全国ネット」(net@class−homeless.sakura.ne.jp)へ。

検索フォーム


朝日新聞購読のご案内
新聞購読のご案内事業・サービス紹介

[PR]注目情報

学校からのお知らせはこちらから

ジャンル別の最新情報はこちら
  • 大学
  • 中学・高校
  • 通信制高校