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きょういく特報部

掃除で育め 生きる力

2010年9月13日

写真セミナーに参加した先生たちは、掃除を通じて子どもたちに成長してほしいことを書き出した。「実践力」「計画性」「協力する力」といった言葉が並んだ=愛知県北名古屋市立師勝小学校写真床をほうきで掃いたあとは、ぞうきんがけ。「掃除教育」の効果か、手際よく取り組んでいた=東京都小金井市立前原小学校

 学校での掃除時間が1日15分間とすると、45分授業に換算して年間約58コマ分。小学校の音楽や図画工作のコマ数とほぼ同じになる。この掃除時間をもっと有効に使い、「生きる力」を伸ばそうとする試みがある。名付けて「掃育」。その取り組みを現場で見た。

■先生に実践法を講習

 8月上旬、愛知県北名古屋市の市立師勝(しかつ)小学校。市内の小中学校から集まった若手からベテランまで30人の先生が、五つの教室に6人ずつ分かれて、ぞうきんを手に議論していた。

 「床は水ぶきする? ぴかぴかになるよ」と一人が言うと、「窓の桟も汚いな」と別の先生がぽつり。「でも、15分じゃ窓まで手が回らないか」

 「床をきれいにしても、いすや机の足の裏側にほこりが付いていたら、また床が汚れる。裏側もふこう」という一人の提案に、みんながうなずいた。

 こうした話し合いを、各グループ20分間。どこをどのように掃除するかを紙に書き出した。

 「始めて下さい」。合図の声とともに、実際の掃除が始まった。バケツに水をくみに走る人、チョークを片づけて黒板をふき始める人……。最初にすべての机を後ろに移動させるグループもあれば、最後まで机を動かさずに、床を磨くことに時間をかけたグループもあった。

 15分後。どの教室も見違えるようにきれいになった。男性教諭は「やったかいがあるね」と満足げに額の汗をぬぐった。

 このセミナーを無償で企画、運営するのは清掃用具レンタル大手のダスキン(本社・大阪府吹田市)。「掃育」とも呼び、社会貢献活動として2008年に始めた。座学とワークショップ、講評があり、6時間に及ぶ。対象は先生。学んだ方法を持ち帰り、子どもたちと実践してもらう。これまでに東京、埼玉、愛知、大阪、兵庫など85カ所で催し、約2200人が参加した。東京都品川区は初任者研修のメニューに採り入れている。

 同社のアンケートによると、「掃除をする時に好きな作業があるか」という質問に、「ない」と答えた児童は小学1〜4年生では8〜10%なのに、5、6年生は31%、中学生では34%。小学校高学年から「掃除嫌い」が進む傾向が読み取れる。

 先生の側にも「掃除をどう教えていいのか分からない」という声が多いという。新学習指導要領では、小学5〜6年の家庭科で指導すべき内容25項目のうち掃除に関するものは「住まい方に関心を持って、整理・整頓や清掃の仕方が分かり工夫できること」の1項目しかない。

 同社の「暮らしの快適化生活研究所」の藤原玲子研究員は、「掃除時間はほとんど顧みられることのなかった、学校生活の盲腸のようなもの」と話す。

 セミナーでは、画一的な「正しい掃除のノウハウ」を教えるわけではない。先生たち自らが方法を考え、実践し、うまくいったか検証する。単に校舎をきれいにするだけではなく、段取りを決めて実行する力や協調性、ひいては「生きる力」を伸ばすのが目標だからだ。

 また、成長段階に合わせた目標を設定するよう助言している。小学校低学年では「掃除をしたい」という意欲を引き出し、ぞうきんの絞り方など基本的な用具の使い方を教えることに主眼を置く。中・高学年では、みんなで取り組むことで社会性や協調性を育むことも狙う。中学生では、グループごとに掃除の仕方を振り返り、議論して改善できるようにする。

■初歩から学び やる気

 昨夏、8人の先生がセミナーを受講した東京都小金井市立前原小学校。林茂生教諭(32)は昨年度は4年生の担任だったが、ぞうきんを正しく絞れる子は少数派。ほうきを持っても、ゴミを集めるというより右に左に払っているだけの子もいた。

 受講して「ただ『掃除の時間だからやりなさい』ではだめだと知った」。セミナーでもらったDVDを使い、正しい道具の使い方や、掃除をしないといかに教室が汚れていくかを教え、「きちんと掃除をしたらきれいで気持ちいい」と説いた。すると「掃除をさぼる子が減り、やる気が出てきた。ゴミはゴミ箱に捨てるという、教室を汚さない意識も育ってきた」という。

 5年生の滋野優馬君(10)は「ちりとりでゴミ集めをするのがいやだったけど、押しつけ合うようなことがなくなって、みんなで掃除をするようになった」と話した。

 東京学芸大学副学長で日本家政学会会長の大竹美登利さんは「子どもは『やらされている』と感じると、興味や意欲をなくしてしまう。掃除を単なる指導ではなく教育として位置づけ、達成感と楽しさを感じさせるのは大事なことだ」と評価している。

■トイレ磨きも広がる 「学ぶ会」は海外へ

 掃除を通じた心の教育としては、トイレ磨きの活動も浸透している。NPO法人「日本を美しくする会」(事務局・東京都世田谷区)が1993年に岐阜県で始め、今では毎年10万人以上が参加するという。「掃除に学ぶ会」などの支部組織は全国123カ所あり、台湾やブラジルなど海外にも広がっている。

 学校独自の取り組みもある。栃木県立宇都宮中央女子高校は夏休み中に掃除のためだけの登校日を設けている。1年生が20人前後のグループに分かれ、それぞれ1日、登校する。自校に愛着を持ってもらおうと10年以上前から続いているという。

 中庭の草むしりをした生徒は「家から学校までは遠いので、最初は正直『やだなあ』と思ったけど、終わってみると、自分の学校がきれいになって気持ちが良い。やってよかった」と話していた。(花野雄太)

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