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きょういく特報部

芝生の校庭、管理に苦心 害虫被害・高コスト…

2010年9月27日

写真拡大休み時間、子どもたちがボール遊びに夢中になって芝生の上を走り回っていた=東京都新宿区立四谷第六小学校、中村写す写真拡大芝生がはげてしまった校庭=東京都台東区の小学校、中村写す

 転んでも痛くない。砂ぼこりがたたない。鳥が集まる。「校庭に緑を」と国や自治体が補助を出して学校の校庭の芝生化は広がった。でもその後は? 芝生だって生き物だ。日当たりが悪かったり、あまりに踏まれたりすればうまく育たない。それに教育予算には限りがある。耐震化やエアコン設置など学校施設は課題が山積み。それでもやっぱり芝生なのか。校庭をめぐりながら考えた。

■外遊び「気持ちいい」

 休み時間、子どもたちが校庭に飛び出してくる。

 「前は転んだらガリガリってなったけど、今は痛くないよ」「夏は冷たくて気持ちいい」。5年生の女の子たちは「芝生、大好き」と口をそろえる。東京都新宿区の区立四谷第六小学校は、舗装だった校庭が芝生に変わって2度目の秋を迎えた。

 「外で遊ぶ子が増えましたね」と高橋英明校長(60)は校庭の児童を眺める。ハクセキレイやスズメ、ムクドリがやってくる。座り込んだり、寝ころんだり。遊びの幅が広がった。ケガの件数は大きく減ったという。「芝生の上では子ども同士の距離が近づくように感じます」

 「サッカーも野球もOK。プロが使う芝生ではないので」と高橋校長。野球をするときは打席やマウンドに防護マットを敷く。スライディングで芝がはがれても、砂場の砂をまいて平らにならせば横から芝が伸びてきて、ふさいでくれるそうだ。

 しかし緑の校庭にこの夏、試練が訪れた。8月23日の朝、芝生のあちこちが突然はげて地面が露出していたのだ。1239平方メートルの芝生のうち4分の1ほどに及んだ。前日に芝刈りをしたばかり。驚いて専門業者を呼ぶと「夜盗虫(よとうむし)ですね」。芝の間を指で掘るとヨトウガの幼虫が出てきた。これが芝を食べてしまったという。

 「暑くて芝が弱っていたから。なぜうちの学校で、とは思いますが、自然のことはしょうがない。元気のないときに傷つきやすいのは人間と同じかもしれません」。ショックが大きかったのは校長先生の方で、子どもははげた芝生も気にせずに遊んでいる。

 ちょうど10月上旬に冬芝の種をまく予定で、自然に芝が伸びるのを待とうと決めた。農薬は「子どもは裸足で走り回り手で芝を触る。何かあったとき心配だから」と使わない。冬芝の種をまいた後、11月までの1カ月は養生のため校庭全体を使えない。その間、子どもは我慢だ。

 芝生化工事は2008年度に行われた。自動散水できるスプリンクラー付きで初期費用は6500万円。年間の管理費は200万円になる。芝刈りは夏なら週に2度、冬は週に1度、地域の人々がボランティアで学校に集まってくれる。いつまで補助が続くのかはわからない。学校は地域の住民や保護者を招いて芝生でキャンプやコンサートを開いてきた。地域の協力があってこその芝生なのだ。

■踏まれてすり切れ

 四谷第六小は時間をかけて乗り越える道を選んだが、東京都台東区のある小学校は、芝生化そのものを断念してしまった。

 5年前に校庭の周辺部分を芝生にした。初めは子どもたちが芝生の上で寝ころび、ピクニックのようなイベントもできた。

 しかし、芝生を楽しめた時間はわずかだった。今や芝生のほとんどがなくなってしまい、緑を探す方が難しいくらいだ。

 この学校の児童は400人を超える。校庭約2千平方メートルのうち芝生にしたのはトラックの外側の500平方メートルだけだった。もともと狭かった芝生は頻繁に踏まれる出入り口や手洗い場からすり切れていったという。

 2年前、南側に高層マンションが建ったことが追い打ちをかけた。日当たりが悪くなり芝は育たなくなった。スプリンクラーで散水の回数を増やしても、減らしてみてもだめ。「強い芝だから」と業者に言われて植え直してみてもやはり根付かなかったという。「芝生は消耗品と聞いてはいたが……」と区教委の担当者は頭を悩ませてきた。

 区内では別の2校でも苦戦が続く。ある学校では芝生が傷んでその下の土が流れ出してしまった。児童数が多く、敷地の狭い下町の学校では難しいのかもしれない、と区は他校で新たな芝生化は進めていない。

 明治大学農学部の輿水(こしみず)肇(はじめ)教授(緑地工学)は「1人あたりの芝生面積が15平方メートル以下になると校庭の芝生化は厳しいと言われている。頻繁に踏まれると踏圧(とうあつ)で芝が損傷してしまうためだ。確かに校庭が狭くて児童の多い学校では難しいだろう」と話す。「芝は伸びて自然と増えていく。日当たりが良くて使用頻度の少ない場所を選び、少しずつ試してみればいい。無理せず、焦らず、背伸びせず、です」

 芝生が育たなくなった学校はその後、東京スカイツリーを望む屋上に芝生のスペースをつくった。様々な草が交ざり、緑豊か。今後は「壁面緑化や屋上緑化、ビオトープや家庭菜園など、違う形で学校の緑化を進めていきたい」という。

■雑草生かす「鳥取方式」

 「鳥取方式」なら失敗が少なくてコストも安い――。芝生の取材をしていると、「鳥取方式」という言葉をたびたび聞く。この夏、鳥取で校庭やグラウンドをめぐる芝生の見学会があると聞いて参加した。

 集合場所は鳥取空港からほど近い湖山池(鳥取市)の北岸だった。目の前に広さ2万1千平方メートル、サッカー場3面分の芝生のグラウンドが広がる。靴を脱いでみると、くすぐったくて柔らかい。そして、しゃがんでみると雑草が交ざっている。これが鳥取方式のポイントだ。

 この「グリーンフィールド」を管理するのはNPO法人「グリーンスポーツ鳥取」。代表のニール・スミスさんは「今までの芝生の認識をいったん捨てましょう」と話し始めた。

 日本で「芝生」と言えばゴルフ場やサッカー場。コストも敷居も高いイメージだ。しかし、鳥取方式では「土を覆って、転んでもケガをさせない、じゅうたんのような形状」の草地なら「芝生」。勝手に生えてくる雑草を頻繁に刈ってできたのも芝生だ。子どもたちには国立競技場のような芝は必要ない。ただ刈り込むだけでいい、という。

 このグラウンドに散水設備はない。芝刈りは週2〜3回。年間費用は人件費も含めて1平方メートルあたり50円、計105万円だ。

 鳥取大学付属小中学校も「鳥取方式」で04年に校庭の周辺部分4千平方メートルを芝生化した。散水設備なしで、年間費用は1平方メートルあたり25円。子どもや保護者らの手で、ポット苗を植える芝生化から維持管理まで低コストで実施してきた。芝は成長し、少しずつ面積が広がっているという。

 「肥料も水やりもできなくてもいい。とにかく頻繁に芝刈りをすればいい」とスミスさんは話している。(中村真理子)

    ◇

 ■校庭の芝生化 文部科学省によると、全国の公立学校でグラウンドを芝生化したのは1746校(300平方メートル以上)。屋外運動場のある学校の5%になる。東京都では昨年度までに175校で実施。1校あたりの芝生面積は1500平方メートル、費用は1平方メートルあたり2〜3万円とされる。大阪府も100校超。植え付けを住民が行い、費用を同約4500円に抑えている。

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