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きょういく特報部

とまらない トンデモ授業 学校外の視点から3人に聞く

2010年11月8日

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写真:東北福祉大准教授・上條晴夫さん拡大東北福祉大准教授・上條晴夫さん

写真:歌人・俵万智さん拡大歌人・俵万智さん

写真:予備校講師・竹岡広信さん拡大予備校講師・竹岡広信さん

 割り算の「殺人文章題」、セクハラサイコロ――。耳を疑う内容の授業や試験が各地で相次いで発覚した。先生たちはなぜそんな非常識な授業をしてしまうのか。今の子どもはそこまでしないと興味を引きつけられないのか。学校から一歩離れて教育を見つめる3人に分析してもらった。

■最近発覚した「トンデモ授業・指導」

 (発覚時期・問題を起こした教諭・内容)

 ●9月 愛知県岡崎市立小の男性教諭(45)

 3年生の算数で「子どもが18人います。1日3人ずつ殺します。何日で殺せるでしょう」と口頭で出題

 ●9月 岡山県立高の男性教諭(25)

 夏休みの宿題を提出しなかった2年生の男子生徒に「出さにゃ殺すぞ」としかった

 ●10月 東京都杉並区立小の女性教諭(23)

 3年生の算数で「3姉妹の長女が自殺し葬式があった。葬式に来た男性に次女がもう一度会うには」とクイズ。答えは「三女を殺す」

 ●10月 愛知県立高の男性教諭(24)

 3年生の「総合実践」中間試験に「校長を暗殺した犯人はだれか」という設問。選択肢に教員の実名

 ●10月 埼玉県入間市立小の男性教諭(59)

 6年生の忘れ物などをした児童に罰として「キス」などの目がある「セクハラサイコロ」を振らせていた

■明るい笑いは潤滑油 東北福祉大准教授・上條晴夫さん

 教師たちはなぜ「トンデモ授業」をしたのか。気持ちは理解できる。教師というだけで与えられていた権威がなくなった今、子どもから遠いところに立って指導しようとしても、子どもに染みこまなくなっている。

 学級崩壊が注目されだした1990年代末、教育雑誌「授業づくりネットワーク」の編集長として崩壊クラスを調べ始めた。担任教師の多くはきまじめで、「もう少しダジャレでも言って楽しく学級を運営すればよかった」「もう少し芸達者だったら」などと話す。子どもたちの中で尊敬されるのも、まじめな子より冗談のうまい子、ユーモアのある生徒になっていた。

 そこで「お笑い」だ、と考えた。お笑いは、まじめ主義一辺倒の学校文化からは下に見られる世界だった。しかし、指導が染みこまなければ教師としては仕事にならない。

 子どもらがテレビで親しんでいる文化を持ち込み、身近なところから共感をベースに教えればよいのではないか――と、2001年に「お笑い教師同盟」を結成。明石家さんまやタモリ、爆笑問題のトークを研究し、まじめ教師にも応用できるようプロの技を紹介してきた。

 だが、そんな私から見ても、問題になった授業はいかにもまずい。「(教諭と)キス」「恋人指切り」などと書き込んだ「セクハラサイコロ」を振らせたり、「校長を暗殺した犯人は」と問い、選択肢に教員の実名を挙げたりするのは人権感覚が足りない。仮にクラスが盛り上がったとしても、いやな気持ちになった子もきっといたはずだ。1人でも好悪の分かれるものを、学校という公的な場で扱うのは許されることではない。

 ここまで連続してメディアでとり上げられているのだから、もう少し気をつけようと思わないのもおかしい。

 いま恐れているのは、一連の問題の結果として学校が「お笑い・ユーモアはすべてダメ」と全否定になりかねないことだ。

 というのも、子どもが一斉に教師の言うことを聞き「みんな同じ」「みんな仲良く」でやってきた村落共同体型の学級制度は、とうに機能していないからだ。この土台を変えないまま、「お笑い」による共感的な手法を使い続けても限界がある、と私は近年、思うようになった。

 クラスを特別支援や外国人の子ら多様な子どもがいることを前提に、違いを認め合い、意見を自由にたたかわせられる場へと根本的に組み替えなければならない。そのとき大切になってくるのが、潤滑油となるユーモアあふれる空気だ。ブラックではない明るい「お笑い」は、それを生み出すためにこそある。

    ◇

 かみじょう・はるお 小学校教師、教育雑誌編集長を経て現職。専門は教育方法学。著書に「お笑いの世界に学ぶ教師の話術」など。52歳。

■ワンフレーズ、悪影響 歌人・俵万智さん

 一連の問題を起こした先生たちには、魅力的な授業を進める力が欠けていたと思う。子どもたちを授業の力で引きつけられないから刺激的な言葉を使ってしまったのではないか。近くでパンと手をたたけば誰でも振り向く。同じように無理やり引きつけようとしていた気がする。

 刺激の強い言葉で人を引きつけるのは社会全体の風潮だ。テレビやネット、政治家まで、あらゆるところで短くて強い言葉があふれている。じっくり伝え合うのではなくワンフレーズで振り向かせる風潮が、教師にも影響を与えていると思う。

 言葉が人の心にどう波及していくかという点に考えが至らない点も問題だ。先生の日本語力が落ちているのではないか。自分の言葉が人を傷つけないかを判断できるかどうかは、人間性にかかわる問題でもあり、教員採用までさかのぼる話だ。試験の成績だけでなく、これまで以上に人間的な観点という基準を加える必要がある。

 先生と子どもの信頼関係の基本は、教科を自信を持って教えられることであるはずだ。面白さや人気だけでは、教室での信頼は築けない。

 そのためには、先輩教師が後輩教師を育てる教育機能が学校に必要だと思う。私の教師経験は20年以上前の4年間だけだが、最も参考になったのは先輩教師の授業だった。どの授業も自由に見学できたので、特に1、2年目の頃は同じ教科の先輩の授業をよく見学した。同じ教材を使い、同じレベルの生徒を相手にどう授業を進め、どんな質問をして生徒の答えを引き出すのか。今日見たことが明日すぐ役立つ感じで、参考になった。

 また、授業でオリジナルのプリントを作ったら、余分に刷って同じ教科の先生の机に置くのが恒例だった。教材を交換して参考にすると同時に、「このプリント、使わせて下さい」といったやりとりを通じて同僚とコミュニケーションをとるきっかけにもなった。

 教員志望の人たちに大学で教えられる内容には限界があるから、特に新任の先生が魅力的な授業をできるようになるには先輩たちとの情報交換が大切だ。けれども先輩は多忙で新人を育てる余裕がなく、教育機能が働いていないのが現状のようだ。

 先生にゆとりを持ってもらうには、1クラスの生徒数を今より減らすのが一つの方法だろう。予算がかかるとは思うが、教育にお金をかけることこそが国づくりのはず。子どもへの影響を考えれば、先生が疲弊している現状を改善することが急務だと思う。

    ◇

 たわら・まち 早大時代に短歌を始め、高校教師だった87年、「サラダ記念日」が大ベストセラーに。著書に「かーかん、はあい 子どもと本と私」。47歳。

■子ども扱いは間違い 予備校講師・竹岡広信さん

 私が予備校や塾で英語を教える時には、興味を引く話を織り交ぜている。例えば「シェル」は「貝」だけでなく、「エビやカニの甲羅」や「マツボックリ」とも訳せると教えてあげれば、生徒たちは目を輝かせる。

 こういった、授業の中で使えるネタはいくらでもある。先生たちは、もっと自分の担当教科を好きになって、知識を身につけることはできるはずだ。生徒の気を引くには、こうした正攻法が一番いいと信じている。

 ユーモアと問題発言との一線は相手との人間関係で決まると思う。きつい言葉でも、相手に対する思いやりや優しさが根底にあればユーモアになる。逆に、たとえ褒め言葉でも人を傷つけることがある。漫才師が相方をどつくのも「このコンビの人間関係は悪くない」という前提で見ているから笑えるのだ。

 インターネットやゲームなどを通じ、以前よりも「消えろ」「殺す」といった言葉が氾濫(はんらん)している。特に若い先生は、そういう言葉にかつてのように抵抗を感じないのではないか。

 大人に対して言わないようなことは、生徒にも言わないのは当然のことだ。生徒を子どもと見ているから「何を言っても大丈夫」と勘違いする。「セクハラサイコロ」を職員室でやったらどうなるかを考えたら、問題だと気づくはずだろう。私が尊敬していた先生は、生徒に会ったときには立ち止まって礼をしていた。「礼をせんかい!」と怒鳴るのではなく、生徒を社会人、大人と見て行動していた。

 ただ、先生を取り巻く環境が昔よりはるかに厳しくなっていることは押さえておかなくてはならない。まず、おかしな親が増えた。昔はどんな親でも、とりあえずは「勉強しろ」と言ったものだが、今はまったく言わない親も多い。また、昔はどうしようもない子に対し、先生は適度な制裁を加えることができたが、今はできない。そんな状態でクレーマーの親に囲まれていたら、異常な先生も出てしまう。

 しかし、そんな中でもしっかり仕事ができる先生はいる。そうした先生を確保するために、採用を厳しくするのは一つの手だ。もちろん、教師の待遇を良くしなくては、良い人材は集まらない。授業の自由度と給与の面から公立学校の先生を辞め、予備校の講師になって活躍している先生はたくさんいる。

 国は、教師の質を上げると同時に、教師を守るために何らかの制度も整備すべきだ。それも、国家存亡の危機くらいの覚悟で本腰を入れてやってほしい。

    ◇

 たけおか・ひろのぶ 駿台予備学校講師。高校教師に指導法も教え、英語塾「竹岡塾」も主宰。ユニークな教え方が漫画「ドラゴン桜」で紹介された。49歳。

■「情報見分ける力必要」 鈴木・文科副大臣

 文部科学省も相次ぐ不適切な授業の発覚を問題視している。鈴木寛副大臣は10月末の定例会見で「報道を見た印象だが、必ずしも子どもたちが見るのに適切でないテレビネタに引っ張られた対応が、学校社会になだれこんできてしまっている。そうしたものを見分けるメディアリテラシーが教師に欠落している」と見方を述べた。

 そのうえで、「今も(文科相の諮問機関である)中央教育審議会に諮問しているが、新しい社会の中で生まれ育ってきた、あるいはそういう中で活動している教員の質をどう担保し、新たにそういう能力を獲得させていったらいいか、根本的に考えないといけない」と話した。

(増谷文生、編集委員・氏岡真弓)

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