現在位置:
  1. asahi.com
  2. ライフ
  3. 教育
  4. きょういく特報部
  5. 記事

きょういく特報部

偉人伝記 変わる顔ぶれ 人気上位 野口英世外れイチロー入る

2010年11月15日

印刷印刷用画面を開く

Check

このエントリーをはてなブックマークに追加 Yahoo!ブックマークに登録 このエントリをdel.icio.usに登録 このエントリをlivedoorクリップに登録 このエントリをBuzzurlに登録

図:  拡大  

 囲炉裏に落ちた野口英世。流水に触れて言葉を悟ったヘレン・ケラー。偉人の人生をつづった伝記は、小学生の頃、誰もが一度は手にしたことがある本だろう。そのラインアップが最近、変わってきている。今どきの伝記の人気を探った。

■新シリーズ、オードリー・ヘプバーンも

 本田宗一郎、黒澤明、植村直己、岡本太郎……。

 児童書のしにせ、ポプラ社が2009年3月から出している新しい伝記シリーズ30巻のラインアップだ。今まで伝記では見かけなかった人物が目を引く。

 担当者は「今の時代にあった伝記を作りたかった」と話す。シリーズのタイトルは「この人を見よ! 歴史をつくった人びと伝」。今の社会につながりが深い業績を挙げた人物を取り上げる、というコンセプトだという。例えば漫画家・手塚治虫や映画監督・黒澤明は大衆文化。ホンダ創業者の本田宗一郎はものづくり。社会や政治制度が近代化された幕末、明治を重視し、吉田松陰、勝海舟、渋沢栄一らも加えた。

 では、新シリーズに入らなかったのは誰か。同社が1959年に出してベストセラーになった「子どもの伝記物語」(全50巻)に入っていて、今回は選に漏れた主な人物は北里柴三郎、二宮金次郎、一休、リンカーン、ノーベル。いずれも「今の子どもには読まれなくなった」からだという。

 一方で今も不動の人気を誇る「定番」の人物もいる。09年6月〜10年5月の同社の新伝記シリーズ売り上げベスト10には織田信長やエジソン、ヘレン・ケラーらが並ぶ。

 作り手は子どもたちの好みをどう読んでいるのだろう?

 「一言で言うと『偉人』から『ヒーロー』『ヒロイン』へ、でしょうか」と話すのは、集英社で児童書を担当する伊沢昭夫さんだ。

 同社は今年3月、漫画の新しい伝記シリーズ「世界の伝記NEXT」を創刊した。第1弾はオードリー・ヘプバーン、諸葛孔明、松下幸之助。それぞれ女子、男子、親の好みを分析した結果だという。

 例えばオードリーは、おしゃれで美人という女の子のあこがれを押さえた人選。前半で自分の個性を貫いた姿を描き、後半は晩年のユニセフ活動で社会貢献という側面を紹介した。3冊の中では最も売れ行きが良いという。

 「旧来の伝記はいわゆる『偉人伝』で、全人格的にすぐれた人の物語。そういう話を大人に押しつけられるより、子どもは純粋にヒーロー、ヒロインを求めているのでは」と伊沢さん。人選で重視したのは「どれだけ自分の信念を貫いたか」。7月以降も坂本龍馬やグレース・ケリーらを配本している。

 読者からのリクエストはテレビで話題の人物が多い。昨年は米国のスター、マイケル・ジャクソンやゴルフ界の新星、石川遼の名前も挙がったという。

■男子はヒーロー、女子は偉人好む

 作り手はラインアップを変えたが、伝記は旧版も含めて図書館で借りることも多い。子どもたちが実際に読む伝記も変わっているのだろうか。

 千葉県の主婦榎本陽子さん(35)は月に2回、近くの自治体の図書館に家族で出かける。「伝記は成功した人でも努力してきたという話。子どもにはぜひ読んでほしい」。読書好きな小5の長男に、何度か「読めば?」と水を向けてみたが、手に取るのは中村俊輔や高橋尚子らスポーツ選手のものが多いという。「実際に活躍している姿を知っている人を読みたがりますね」

 ヘレン・ケラーなど自分が子ども時代に読んだ定番も薦めてみるが、長男は「よく知らない人だから……」。逆に長男から「何をした人?」と聞かれ、うまく説明できずに困ることも。「ダメですね。親もちゃんと知っていないと」と苦笑する。本田宗一郎ら新しい顔ぶれは「親も『車のホンダをつくった人』と説明しやすいし、子どもも車の話なら取っつきやすい」と期待する。

 全国学校図書館協議会は毎年、全国から抽出した小学4〜6年生の約3千〜4千人を対象に読書調査を実施している。その中に「5月1カ月間に読んだ本」を挙げさせる質問がある。そこで、その回答のうちタイトルが人名で伝記だと推測される本を抜き出して、答えた子どもの人数を合計し、1970年代後半(77〜79年)と現在(07〜09年)の上位を比較してみた。

 両者を比べると5人の名が消えている。野口英世、ベートーベンら。いずれも男性だ。実は30年前は「読んだ本」に伝記を挙げた子の男女比はほぼ半々だったが、今は16対9で女子が多い。男女とも同性の伝記を選ぶ傾向があり、ランキングに女性が増えたのは読み手の男女比の影響でもある。

 さらに、男女別に見てみると、男子は伊沢さんの言う「偉人からヒーローへ」の傾向がくっきり出ていた。戦国武将が根強い人気の一方、「偉人伝」の代表格・野口英世を読んだのは0人。新たに加わったイチローを挙げたのは、すべて男子だ。

 一方で、女子はナイチンゲールら定番の人気も根強い。マザー・テレサは新しい顔ぶれだが、「困難に負けなかった人」「他人に尽くした人」というイメージは定番の人物と共通している。

 「偉人からヒーローへ」を詳しく読み解くと、「男子はヒーロー、女子は偉人」となるのかもしれない。

 日本子どもの本研究会の黒澤浩会長は「伝記で大事なのは、人選より著者の姿勢」と話す。同会は「良い伝記」の評価基準に「(人物の)欠点も含めて人間的にとらえられているか」を挙げている。「何より、大人が子どもに『良い伝記』を選び与えることが大事です。それが将来、子どもに自分で良書を選ぶ力をつけさせることにもなる」(原田朱美)

検索フォーム


朝日新聞購読のご案内
新聞購読のご案内事業・サービス紹介

[PR]注目情報

学校からのお知らせはこちらから

ジャンル別の最新情報はこちら
  • 大学
  • 中学・高校
  • 通信制高校