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JOCW

第1回 はじめに

2008年04月30日

●はじめに

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 インターネットを利用した教育に関するさまざまな取り組みがなされ、e−Learningの活用も多くの分野で進んでいる。

 一般に大学教育の分野はその活用の観点では産業界に比べ遅れている感があり、国際的にも後塵を拝していることは否めない。その中で大学の講義をインターネットで積極的に無償公開しようという取り組みが世界的に活発化している。その中心的存在がオープンコースウェア(以下、OCW)である。ここではその歴史的な展開や背景、日本および世界の取り組み状況、展望などについて概観してみたい。

●OCWとは

 <歴史とコンセプト>

 OCWは米国マサチューセッツ工科大学(以下、MIT)4)が提唱し、2001年から取り組み始めた「正規に提供された大学の講義および関連情報のインターネットでの無償公開」活動である。大学が全ての講義をインターネットで無償提供するのでは大学が要らなくなるのでは、といったセンセーショナルな取り上げられかたをしたが、MITのOCWサイトにも明言されている通り、OCWは「MITの教育の提供」ではない。講義情報は教育を構成する重要な要素であるが、その公開はMITでの教育の不要や代替を意味するものではない。OCWの共通的な基本コンセプトは以下のとおりである。

 (1)大学で正規に提供された講義の実体を提供するものであること、すなわち「大学内でその科目を履修した者に履修証明を与える目的で提供されている講義」がOCWの正式な対象であり、公開講座や講演会などの講演は大学として正規に提供しているものであっても狭義のOCWとは呼ばない。 この背景はOCWのコンテンツが高等教育の機会に恵まれない地域の人々の教育機会提供手段として正式に活用できるものとして位置付けているからである。

 (2)提供されたコンテンツは非営利かつ教育目的利用に限定して無償での利用・複製・再配布・翻訳を含む変更を認めることとしている。この背景も(1)と同様に仮に発展途上国の高等教育機関の教員が自らの大学等での講義の質を向上する目的で活用することを想定すると、提供されているコンテンツを複写し、また一部を翻訳して自分の講義の中に組み込んで活用することが必須となるからであり、さらにそのコンテンツが再度利用されることも広く教育の質を向上させるために許容されるべきであると考えているからである。ちなみにこの無償での利用許諾は「著作権の放棄」ではない。また、著作者の別の機会での有償提供を妨げるものでもない。世界の多くのOCWコンテンツにはオープンなコンテンツに関する著作権の扱いとして国際的に広く認知されつつあるクリエイティブ・コモンズ ライセンスが付与されており、著作者名の表示・非営利使用などの利用条件が明示されている。

 (3)組織の正式な活動としてOCWを提供している大学がほとんどではあるが、サイトのコンテンツ利用者に対しては教員・大学としての質問・問い合わせなどへの対応は行わないとしている。そして、多くのOCWサイトでは提供者側の一方的な情報発信に留まっている。このことがWeb2.0時代に適応できていないとの批判があることは事実である。しかしながら、この位置付けにも明確な理由・背景が存在する。一般に多くの大学では情報技術の導入に伴い、多くの教員が新たな負荷を感じている傾向があり、大学外の人々の無制限な問い合わせに対応する余裕はなく、可能な範囲での対応で構わない、との前提を置いたとしてもこの活動に積極的に協力できる教員は非常に限られてしまう。特に「全ての講義」の公開を前提としてOCWを開始したMITにおいては基本的に教員への新たな負担は限定的であることを保証する必要があった。そのためにOCWサイトにおいて明示的に「教員は一切対応しない。」と宣言している。従って先ずは全学規模での講義公開の枠組みを定着させるため、敢えて一般利用者の便益を後回しにしたと解釈する必要がある。もちろん、学習者の様々な形態での学習支援は今後の重要な課題であることはいうまでもない。

 (4)OCWの最低構成要素は「シラバス」「カレンダー」「講義ノート」である。この理由は大学で提供された講義の事実を伝えることができ、教育的利用に供し得る情報という理念に基づくものである。多くの大学で主として在学生向けにシラバスをWebで公開している。しかし、ほとんどの内容は講義提供教員が事前に記述した内容であり、場合によってはシラバスを修正せず数年間放置し、講義自体と既に内容的に乖離していたり、記述レベルが浅く、教育目的はもとより具体的な講義内容を推察することも困難なケースもあるのが実態である。しかしながら、OCWは事実として提供された講義ノートをそのまま公開することが骨子となっており、本質的に講義内容を忠実に表現するものである。

 <日本のOCW>

 MITがOCWを開始した時点で2つの目標が設定された。一つはOCWのMITとしての実現であり、そのための標準的なワークフローモデルを確立し、その支援システム・体制を整備することであった。もう一つはここで確立したMITモデルを一般化し、世界に普及・展開することであった。後者の目的で2004年から日本の主要大学がMITからOCW活動に関しての説明・勧誘を受け、当初その趣旨に賛同した6大学(大阪、京都、慶應義塾、東京工業、東京、早稲田)でOCWサイトを同期して立ち上げ、同時に連絡組織を設立することを決定し、2005年5月13日に全学長同席の共同記者会見を行い、OCW活動の開始と連絡会の発足を発表した。(写真1)OCW Webサイト立ち上げにあたって利用者に意義・価値を認めてもらうためには一定の科目数が必要との判断から各大学10科目の公開を最低条件としてサイト公開を目指すこととして準備し、結果的には公開時点で6大学の合計153科目を公開するところから開始した。その後、3大学(九州、名古屋、北海道)、1機関(メディア教育開発センター)が参加し、2006年末の時点で10機関の活動となった。また、先行して開始した6大学においても一定の運用ノウハウを蓄積したこと、また国際的にもコンソーシアムが形成される見通しが明確になったことから2006年4月20日に京都大学にて国際会議(International Conference on Opencourseware 2006)を開催し、同時に記者会見を行い、日本オープンコースウェア・コンソーシアム(以下、JOCW)5)の設立(連絡会組織の発展的拡大)を発表した。その後、会員大学、賛助会員を増やし、さらに2007年11月には一般企業にもコンソーシアム会員としての門戸を開き、継続的学習のための社会基盤形成を目指す体制とした。2008年4月時点では正会員(大学)20、准会員(非営利団体)5、賛助会員(企業)7、合計32の組織が加盟する規模となっている。また、各大学のOCWサイトへの月間訪問者も徐々に増加し現在では約30万人となっている(図1)。提供している情報の形態もテキスト中心の講義ノートに加えて講義ビデオの配信も増加の傾向にある。2008年4月現在JOCW参加大学から提供されている科目数は日本語806科目、英語172科目、計978科目である。これらの科目の中から見たい科目を検索するサービスをJOCWのWebサイトで提供している。

 <世界のOCW>

 先に述べたようにMITが主導して始まったOCWであるが、2006年には国際コンソーシアム6)が形成され、2008年3月時点では20カ国129の団体(ほとんどが大学)が加盟する規模となっている。また、先行したMITにおいては当初の計画通り2007年11月に公開可能な全ての講義の公開を達成し、次のフェーズ(Hightlight for Highschool:高校生を対象としたOCW活用プロジェクト)に移行したことを盛大に発表した。日本以外で特に活動が活発な国は中国、フランス、スペインである。中国はCORE(China Open Resources for Education)という国家コンソーシアムを形成し、13の主要大学とそれを含む31の大学からなる組織を形成し、精力的にOCW活動を推進している。当初はMITコースを中国語に翻訳して活用することが主たる活動であったが、現在はオリジナルコースの公開も進めている。今年4月23日には中国大連で国際コンソーシアムの定例会議が開催された。(写真3)フランスはパリにある11の工科系大学のコンソーシアムParisTech ”Graduate School”でOCWを推進している。スペインはOpencourseware Universiaという名称の16大学からなるコンソーシアムを形成し、MITコースをスペイン語化および独自のスペイン語コースを主として中南米のスペイン語文化圏向けに公開する活動を行っている。世界全体での公開科目数も2007年4月時点では合計3300科目であったが、2008年4月現在では6208に拡大し、この1年間で82%の増加となっている。ちなみに国際コンソーシアムは中国大連で行なわれた定例会議で理事を10人を130団体での選挙により選出し、グローバルコンソーシアムとして活動を活発化していく体制が確立した。日本からもJOCW代表幹事、慶應義塾大学の福原が大学から選出される理事の一人として選出された。

●OCWへの期待と可能性

 <世論調査結果>

 日本でのOCW開始から1年半を経過した2006年末にインターネットを活用した第1回の世論調査を実施し、2007年にもほぼ同様の内容・規模で第2回の世論調査を行った。詳細な内容は慶應義塾大学のプレスリリースとして公開されており、そちらを参照されたいが、概略は以下の通りである。

 (1)大学の講義内容公開について、90%以上が肯定的評価

 (2)講義内容を公開している大学の認知度は上昇傾向

 (3)大学の講義内容を見られるWebサイトを利用したいと回答した人は全体の8割以上(図2)

 (4)インターネットで見たい講義は「経済学」「情報科学」など実用的な講義が人気

という結果が得られた。また、講義内容を公開して欲しい大学の種類については国公私立を問わずできるだけ多くの大学からの公開を希望する人の割合がほぼ3分の2でトップとなった。見たい講義の分野は「経済学(33.3%)」「情報科学(33.3%)」「経営学・マーケティング(32.9%)」「文学(27.8%)」の順となっている。(図3)(写真2:情報系講義撮影風景)

 2年にわたる世論調査から日本も本格的な継続学習社会を迎える期待が高まっており、その中で高等教育機関の果たすべき役割は大きいと考えられる。

 <参加教員の声>

 一方で、この取り組みに参加した教員の意識についても慶應義塾大学では当初参加した教員11名に詳細なインタビューによる意識調査を行った。その主要な内容は以下の通りである。

 OCWによる教育情報公開について、「教育情報公開に関心はあったが、個人での公開は難しかったので、OCWがよいきっかけになった」という意見が複数の教員から寄せられた。また、「公開にあたっての講義内容整理の過程自体が非常に勉強になった」、との意見、「公開後にあらためて自分の講義情報を見て、講義テーマにより情報量に差があることなど改善点がわかった」、といった講義内容の質的向上への貢献を示唆する回答も複数あった。また、最近講義ビデオを公開した文科系のベテラン教員は「あらためて自分の講義を見て表現方法・態度を反省し、次回から改善した」という声を寄せた。

 国際的な発信に関しては、「一生行くことのないかもしれない国の人々がOCWを通じて自分の講義を利用してくれればこれほどやりがいのあることはない」という意見や、「英語で発表する機会の少ない教員が海外に向けて情報を発信できるいいチャンスになる」という回答もあった。これは慶應義塾大学で開始した領域が人文社会科学系であることにも起因した意見と思われる。 英語での情報提供にあたり、「日本の大学生向けのロジックをそのまま異なる文化背景を有する学習者に提供するのは難しいと考えて変更した」、という声もあった。また、講義の翻訳はOCWスタッフ側で行ったが、その翻訳内容に対して、「(アカデミックな場に発表するには)不満足」だったため、自分で英訳しなおした、あるいは大部分を修正した、との意見が多数あった。このように、国際発信に関しては、教員・研究者としての新たなやりがいや国際的な進路を切りひらく可能性がある一方で、具体的に言語や内容の質を確保するには克服すべき課題があることが明らかになった。また、慶應義塾大学がOCWを実施するにあたって狙いとしたことの一つは教員の情報化に対する意識改革であったが、教員の1人は「今後はOCWに利用しやすいことも考えて授業で積極的にパワーポイントを使いたい」と述べていた。別の教員は、「大学教員にとってITリテラシ向上は非常に重要だが、講習会を実施しても参加率が低いので、OCWを通じてリテラシを高めるサポート体制ができればいいと思う」、とコメントを寄せた。インタビュー結果からはOCWがITリテラシ向上に貢献する可能性が大きく、教員の側もそれを期待していることが読み取れた。

 <将来展望>

 日本でのOCWは開始後3年弱を経て、参加大学も3倍に増加し、公開コース数も7,8倍となり、徐々に軌道に乗りつつある。しかしながら、各大学の応分負担による活動基盤は未だ十分に強固とは言えず、先に述べた世の中の期待に十分応え得る活動にはなっていない。本格的な産官学連携による基盤構築を目指すべき段階にきていることは事実であるが、そのためにも認知度が未だに低いという点、およびこの種の活動に主体的に参加したいという教員が必ずしも多くないことなどは解決すべき喫緊の課題である。これはある意味では鶏と卵の関係に似ており、認知度が上がり、潜在ニーズが顕在化できれば参加を希望する教員は自ずと拡大し、大学にとってもメリットが具体的になり、教員へのインセンティブを明確にすることも容易になると期待できる。特に、日本のOCWは主要な大学が大学レベルで積極的な関与をしており、公開講義数が拡大してくるとその価値は飛躍的に高まると思われる。同一分野についての専門知識を主要な大学間で比較検討および利活用できる可能性は世界的にも日本のOCWが一歩リードしており、これらのコンテンツの世界全体への教育的貢献の可能性も決して小さくない。

また、利用者の疑問や声を相互に交換あるいはそれに専門家が答えるという本質的な教育サービスを如何に実現するかということも喫緊の課題である。専門家としての助言や指針提供大学教員への過度な負担が増加しないことのバランスをとりつつ実現することも早期に解決しなければならない。さらに、OCWが本質的に国際的な取り組みである一方で日本の大学での提供講義の多くが日本語で提供されており、OCW公開科目も必然的に日本語が中心になることから、どのようにこれらの情報を国際的に流通可能としていくかも大きな課題である。

●まとめ

 大学の講義公開活動であるOCWについて背景と現状および将来展望について述べた。この活動が潜在需要の高い活動であることが世論調査を通じて明らかになった。OCWには大きな可能性があり継続学習社会の実現を牽引する存在となり得るものであると思われる。Webでの知識に関しては一般に、Wikipediaに代表される利用者発信・参加型の大規模知識が広く認知・活用されている。しかし、その信憑性についてはかならずしも保証されていないこと、それを十分認識した上で活用できる利用者ばかりではないことなどを想定すると、大学が正規に提供している専門知識を広く提供することの意義は非常に重要である。

    ◇

参考文献・参考URL(下段のこの記事の関連情報もご参照ください)

 1)総務省通信利用動向調査:http://www.soumu.go.jp/s−news/2007/070525_1.html

 2)慶應義塾大学プレスリリースWebサイト(PDFファイル):http://www.keio.ac.jp/pressrelease/070208.pdf

 3)慶應義塾大学プレスリリースWebサイト(PDFファイル):http://www.keio.ac.jp/pressrelease/080205.pdf

 4)MIT OCW Webサイト:http://ocw.mit.edu/

 5)日本オープンコースウェアコンソーシアムWebサイト:http://www.jocw.jp/

 6)OCW国際コンソーシアムWebサイト:http://www.ocwconsortium.org/

 7)福原美三.日本におけるオープンコースウェアの現状と課題・展望.情報管理2006;49(6):301−12.

【JOCW沿革】

◇2004年にMITから日本の主要大学にOCW活動が紹介され、日本での実践が推奨されたことを受け、複数の大学でOCWに準拠した講義公開の準備を進めました。

◇創設メンバー大学での公開準備が整った2005年5月13日に合同記者会見を行い、日本でのOCW活動の開始を正式にアナウンスし、本コンソーシアムの前身である「日本オープンコースウェア連絡会」も同時に発足しました。

◇OCW活動を日本で最初に開始した設立時のメンバーは大阪大学、京都大学、慶應義塾大学、東京工業大学、東京大学、早稲田大学(50音順)の6大学でした。

◇2005年12月に九州大学、名古屋大学、北海道大学がOCW活動の開始を決定し、連絡会に参加しました。同時にメディア教育開発センターも協力メンバーとして連絡会に参加しました。

◇2006年4月20日 「日本オープンコースウェア・コンソーシアム」(略称:JOCW)が設立されました。

◇本会は「高等教育機関において正規に提供された講義および関連情報のインターネット無償公開」であるオープンコースウェアの活動に関し、会員間での情報交換を行ない、この活動を援助し普及することを目的として設立されました。

◇本会は日本国内のOCW活動を実践する組織・団体、およびその活動を支援する組織・団体間での交流を図るほか、国際コンソーシアムにもアフィリエイトメンバーとして加盟し、海外のOCW関連機関との交流にも務めていきます。

◇2006年9月、関西大学、筑波大学、同志社大学がJOCWの新たな会員になりました。

◇2006年10月京都精華大学、立命館大学、立命館アジア太平洋大学が正会員として、財団法人高度映像情報センター(AVCC)、NPO法人サイバーキャンパスコンソーシアムTIES(CCC−TIES)が賛助会員としてJOCWに加盟しました。

◇2007年4月NPO法人日本イーラーニングコンソーシアムが賛助会員として加盟しました。

◇2007年8月女子栄養大学が正会員として、NPO法人クリエイティブ・コモンズ・ジャパンが賛助会員として加盟しました。

◇2007年11月明治大学が正会員として加盟しました。

◇2008年1月会則を変更し、准会員を設け、非営利団体は准会員とし、賛助会員として企業に加盟を呼びかけていくこととしました。また、2008年度より会費制に移行することを決定しました。

◇2008年1月朝日新聞社 ディジタルメディア本部、NTTレゾナント(株)、東京電機大学出版局が賛助会員として加盟しました。

◇2008年3月国連大学が正会員として、またメディアサイト(株)、(株)シーディーネットワークス・ジャパン、(株)メディア・リンク、(株)デジタル・ナレッジが賛助会員として加盟しました。

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