講義の撮影のため、ビデオカメラが教室に持ち込まれた。この講義がインターネットを通じて全世界に公開される=4月、横浜市港北区の慶応大矢上キャンパス
東京工業大のOCWのサイト(写真奥)。パソコンでどこからでも資料を更新できるようにし、使いやすさにこだわっている=東京都目黒区の東工大大岡山キャンパス

インターネットを活用し、授業計画や講義ノートといった大学の講義情報を無償で公開する取り組みが広がっている。オープンコースウエア(OCW)と呼ばれ、ビデオで講義を丸ごと見られるようにしたり人気ランキングを掲載したりと、内容も「進化」。少子化などで大学間の競争が激化する中、自慢の講義を学外の人にも体験してもらうことで大学のPRにつなげたいとの思いもあるようだ。
◆人材確保へ各校PR
OCWは、米国のマサチューセッツ工科大(MIT)が提唱し、01年に始まった取り組み。日本でも生涯学習などのニーズが高まる中、社会貢献の一環として大阪、京都、慶応、東京工業、東京、早稲田の6大学が05年5月に連絡会を結成して活動を本格化した。その後、他大学にも広がってきたため、06年4月に日本オープンコースウエア・コンソーシアム(JOCW)を設立。今年3月現在で正会員の大学は19に増えた。
利用に特別な申し込みは必要なく、世界中の人を相手にするため、英語で公開する講義もある。JOCW代表幹事の福原美三・慶応大教授は「MITは昨年11月に全講義の公開を達成したが、水平な広がりが一番活発なのは日本」と話す。
公開の仕方は様々だ。慶大の場合、一部は講義をビデオで録画して公開している。「社会思想史」の昨年12月3日の回を選ぶと、教壇で話す教員の姿が映し出され、説明用の資料を使う時は画像も資料に切り替わる。福原教授は「例えば板書を使う場合、ビデオで公開しないと内容が伝わりにくい。板書も読める画質にこだわっている」。
4月15日には横浜市港北区の矢上キャンパスで、中島真人教授の「情報工学」の講義の撮影があった。担当者が教室の後ろに設置したカメラ2台を使い、中島教授の動きを中心に追う。「いつも通り講義をしている。定年間際なので、自分の講義を記録として残してもらえる点もいい」と中島教授。正規の講義だけで6コース(科目)の映像を公開中だ。
東工大は5月上旬時点で、サイトに333コースの講義ノートなどを掲載。アクセスランキングに加え、講義ごとにユーザーが評価や感想を書き込めるコーナーも設けた。教員側の利便性も考え、パソコンを使えばどこからでも編集を行えるシステムにした。真島豊・同大大学院准教授はOCWを東工大の教育の共有財産化だけでなく、「ブランド戦略の一つ」と位置付ける。「高校生らに東工大はこんなにしっかりした講義をやっていることを知らせ、受験したいと思ってもらうことが大切」
名古屋大は05年12月に開始。「名大の授業」と題し、日本語と英語合わせて50を超すコースを公開している。特徴は「1分間授業紹介」。1分間の動画で各教員に自分の講義の内容や狙いをわかりやすく説明してもらうコーナーだ。さらに、教員同士が参考にできればと、それぞれの「授業の工夫」も紹介。山里敬也・情報メディア教育センター准教授は「内容を公開することで教育の改善にもつなげられる」と話す。
京都大は今年3月、世界最大級の動画投稿サイト「ユーチューブ」上での授業映像などの公開を本格化させた。公開した映像の数は、4月中旬時点で約200。ユーチューブを利用した理由の一つは、利便性が高いサイトのため、「京大のOCWの認知度を高められる」(土佐尚子・学術情報メディアセンター教授)からだ。同大のOCWのサイトでは、ノーベル賞受賞者を多数輩出した京大らしく、湯川秀樹氏の手書き論文なども見られる
◆「比較できるよう改善必要」
慶大などが昨年12月、社会人らを対象に実施したアンケート(有効回答千人)では、講義内容のネットでの公開を約9割が肯定的に評価、約8割が「利用したい」とした。一方で公開している大学を「知っていた」と答えた人は約2割だった。
福原教授は「認知度を上げ、使い勝手を良くすることが今後の課題。同じ分野を複数の大学が公開し、利用者が比較できるようにすることが必要だ」と指摘。さらに、「OCWで公開するのは飾りのない素の講義そのもの。いい講義を提供していると思われれば、優秀な学生や社会人を引っ張り込める利点もある」と強調する。
コンソーシアムでは、今後も大学に幅広く参加を呼び掛けていくという。
(大西史晃)
◆2004年にMITから日本の主要大学にOCW活動が紹介され、日本での実践が推奨されたことを受け、複数の大学でOCWに準拠した講義公開の準備を進めました。
◆創設メンバー大学での公開準備が整った2005年5月13日に合同記者会見を行い、日本でのOCW活動の開始を正式にアナウンスし、本コンソーシアムの前身である「日本オープンコースウェア連絡会」も同時に発足しました。
◆OCW活動を日本で最初に開始した設立時のメンバーは大阪大学、京都大学、慶應義塾大学、東京工業大学、東京大学、早稲田大学(50音順)の6大学でした。
◆2005年12月に九州大学、名古屋大学、北海道大学がOCW活動の開始を決定し、連絡会に参加しました。同時にメディア教育開発センターも協力メンバーとして連絡会に参加しました。
◆2006年4月20日 「日本オープンコースウェア・コンソーシアム」(略称:JOCW)が設立されました。
◆本会は「高等教育機関において正規に提供された講義および関連情報のインターネット無償公開」であるオープンコースウェアの活動に関し、会員間での情報交換を行ない、この活動を援助し普及することを目的として設立されました。
◆本会は日本国内のOCW活動を実践する組織・団体、およびその活動を支援する組織・団体間での交流を図るほか、国際コンソーシアムにもアフィリエイトメンバーとして加盟し、海外のOCW関連機関との交流にも務めていきます。
◆2006年9月、関西大学、筑波大学、同志社大学がJOCWの新たな会員になりました。
◆2006年10月京都精華大学、立命館大学、立命館アジア太平洋大学が正会員として、財団法人高度映像情報センター(AVCC)、NPO法人サイバーキャンパスコンソーシアムTIES(CCC−TIES)が賛助会員としてJOCWに加盟しました。
◆2007年4月NPO法人日本イーラーニングコンソーシアムが賛助会員として加盟しました。
◆2007年8月女子栄養大学が正会員として、NPO法人クリエイティブ・コモンズ・ジャパンが賛助会員として加盟しました。
◆2007年11月明治大学が正会員として加盟しました。
◆2008年1月会則を変更し、准会員を設け、非営利団体は准会員とし、賛助会員として企業に加盟を呼びかけていくこととしました。また、2008年度より会費制に移行することを決定しました。
◆2008年1月朝日新聞社 ディジタルメディア本部、NTTレゾナント(株)、東京電機大学出版局が賛助会員として加盟しました。
◆2008年3月国連大学が正会員として、またメディアサイト(株)、(株)シーディーネットワークス・ジャパン、(株)メディア・リンク、(株)デジタル・ナレッジが賛助会員として加盟しました。