現在位置:asahi.com>教育>大学>紙上特別講義> 記事 ニセ科学:2(菊池教授)2007年05月07日 大人の「願望」がかなうので道徳やしつけとの親和性が高いのです。
* 「何か変だ」と気づくために必要なのは、常識と教養です。
●おさらい 「健康グッズ」と称されるゲルマニウム、マイナスイオン家電、言葉を「理解」する水……。世の中にはニセ科学があふれている。思いつき程度のことを、さも科学的に証明されたかのように装ったテレビ番組もあった。なぜ、人はニセ科学にだまされるか。
血液型性格判断のように、ニセ科学は昔からあったのですが、インターネットの出現で状況は一変したと思います。怪しい話が次々に転載されて、どこまでも広まります。情報源は同じなのに、コピーされて様々なホームページに載ると、「大勢の人が言っているのだから、本当なのだな」と錯覚しがちです。テレビの罪も大きい。オウム真理教事件の後、オカルトやニセ科学的なものを取り上げないよう自粛していたはずなのに、今や大手を振ってまかり通っています。 ニセ科学の共通点として、分類の単純さを挙げておきます。「マイナスは体によく、プラスはダメ」のように「いいか悪いか」二つに分類してしまうのが典型的です。一方、科学者に「体にいいのか悪いのか、はっきりしてくれ」と言っても、様々な留保条件を付けられたあげく、歯切れの悪い結論しか返ってこないでしょう。いいか悪いかは場合によりけりですから、仕方がないのです。 * 道徳やしつけとニセ科学は親和性が高い。話題になった「ゲーム脳」を例にとってみましょう。テレビゲームをし過ぎると思考や創造性をつかさどる脳の前頭前野の活動が衰えるという説ですが、非常に少ないデータを強引に解釈したものです。まともな論文もなく、科学的に証明された説とは言えません。でも、大人は子どもにゲームをさせない理由がほしい。「科学っぽい」ゲーム脳説は、そういう大人の「願望」をかなえてくれるわけです。 相関関係と因果関係を意図的に混同させるのも手です。 縦軸は平均寿命、横軸はテレビ保有台数で、右肩上がりの相関がきれいに表れています。ニセ科学なら「だからテレビは健康にいい」という結論を導き出すかもしれませんが、もちろん、そんなはずはありません。 でも案外、この手の理屈に引っかかることもあるのです。教育委員会などが、朝食と成績との関係を調べています。おおむね「朝食をとっているほど成績がよい」という結果になるようです。でも「だから朝食をとれば成績が上がる」と言われたら、それは変だぞと思いませんか。朝食は理由じゃないですよね。単に、普段の生活態度がきちんとしている子は勉強もきちんとやっているということでしょう。「相関がみられる」というデータだけでは「因果関係がある」という証明にはならないのです。 * オカルトは信じなくても、「科学っぽい」ことは信じる、という人は少なくないでしょう。でも、難しい説明は聞きたくない。結論だけに注目して、そこに至る思考のプロセスを重視しない風潮は、ワンフレーズを叫ぶ政治家が支持される現象と似ています。 科学的に誤りだ、というには知識が必要です。でも「何か変だ」と気づくのに必要なのは、常識と教養です。それから物事をさまざまな角度から考えてみること。結果だけをうのみにするとだまされちゃいます。
(大阪大教授 菊池誠) 紙上特別講義 バックナンバー
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