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紙上特別講義

ニセ科学:3(菊池教授)

2007年05月07日

 うさんくさい話をみんなが笑い飛ばせる社会になるといいですね。

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 なぜ人はニセ科学にだまされるのでしょう。2週にわたる講義のなかで、菊池教授は(1)インターネットや科学を装ったテレビ番組の影響(2)しつけや道徳との親和性の高さ(3)相関関係と因果関係の混同(4)思考のプロセスを重視しない風潮――などを要因に挙げました。

 今回も、みなさんから多数の「答案」をいただきました。教授の講評とともに、2通を紹介します。

○距離を持ってつきあえる賢さを。

 奥村美枝さん(46)=主婦、大阪府箕面市

 うさんくさい話題って、面白い。突っ込みどころも満載。なので、私は放っておいてOK派です。

 実は、「水からの伝言」をノリでゲットしてしまいました。確かにトンデモ本で眉唾120%なんですが、科学的にまるっきり否定して、ブラックホール送りにしてしまうには、もったいない。昔、お盆のころに、お寺の和尚さんから得々と語られた「地獄話」のように、上手に使う知性と常識があれば、別に目くじらをたてる必要もないのでは。ただし、学校の道徳教材っていうのはいかがなものか。思いこみと事実は違うでしょう。

 「あるある」の捏造(ねつぞう)に踊らされてる人々っていうのも、こっけいで愛らしくもある。あんな内容のデータに一喜一憂する暇があったら、もっとリアルに社会構造を分析しようぜ、ってシニカルな思いがあって、私は見てないし踊ってもいません。ニセ科学と距離を持っておつきあいできる賢さを持ちたいもんです。

 ところで私、心霊写真をよく写すんです。さあ、菊池教授、どう受けてくださいますか?

○本物に触れる機会増やす努力必要。

 渋谷玲子さん(49)=自営業、福井県南越前町

 ニセ科学が横行する背景には、漫然と広がる不安感があると思います。厳しい労働条件、壊れていく自然、低下するモラル等々。不安材料に事欠かない中で、「これをしておけば一応、ダイジョーブだろう」的な、緩い安心感を求めて、人はニセ科学に群がるのではないでしょうか。

 信じることでプラス効果があるなら、「信じる人の勝手」と放任しておけばいいでしょうが、人に強要したり教育に使われたりしてはたまりません。ではどうしたらいいのでしょう。

 私は子ども向けの科学雑誌をそろえ、時々読み返しています。そこで扱われているのは本物の科学です。宇宙の謎や人体の仕組みの不思議には心底驚き、感動します。浮ついた興奮とは違います。本物には有無を言わさぬ力があります。本物に触れる機会が増えれば、ニセに簡単になびくことは少なくなると思います。要するにニセに対する免疫力を強めるのです。

 そのために、科学に携わっている方々に本物の魅力をもっと人に、特に子どもたちに伝える努力をしていただきたいと思います。

●講評

 《奥村さん》僕もうさんくさい話は好きです。『あるある』に対して、「信じていたのに」なんていう人もいたけど、「どうしてあれを信じるの?」と思った人も多かったのでしょうね。怪しい話は深夜の怪しい番組でやるくらいがちょうどよさそうです。うさんくさい話をみんなが笑い飛ばせる社会になるといいですね。そのためにどうしたらいいのか、まで書いてほしかった。心霊写真は「そうだと言われれば、そう見える気もする」という程度のものでしかありません。

 《渋谷さん》漠然とした不安はスピリチュアルにはまっちゃう理由でもありますよね。「緩い安心感」というのはうまい表現だと思いました。僕も、本物の科学の楽しさを知ってもらいたいと思います。ニセ科学よりも絶対に楽しいですから。でも、科学の楽しさを伝えることを科学のプロだけの仕事にしていいんでしょうか。身近なところでも、科学に触れられるといいですよね。

《記者からの質問》

 ニセ科学は日本特有の問題ですか?

《菊池教授の答え》

 外国にもあります。ただし、ニセ科学にはお国柄があるのです。

 血液型性格診断はおそらく日本と韓国ぐらい。「マイナスイオン」はアメリカではとっくに廃れてしまい、現時点で広く信じられているのは日本だけ。「ゲーム脳」は完全に日本独自のものです。逆に「水からの伝言」は、日本から世界に広まりつつあります。

 アメリカで最も深刻なのは、キリスト教右派による「反進化論」です。「知的計画(Intelligent Design)理論」と呼ばれ、教育現場への浸透が問題になっています。「地球上の生命は高度な知的生命体の計画によって進化させられた」とする主張ですが、表向き宗教色を廃して「科学」に見せかけており、ニセ科学の名にふさわしいと言えます。

 (大阪大教授 菊池誠)

 ◆もっと知りたい人へ

 【参考文献】

 人はなぜ騙されるのか(安斎育郎、朝日文庫)▽なぜ人はニセ科学を信じるのか(マイクル・シャーマー、岡田靖史訳、早川書房)▽人はなぜエセ科学に騙されるのか上下(カール・セーガン、青木薫訳、新潮文庫)▽カルト資本主義(斎藤貴男、文春文庫)▽科学(2006年9月号 岩波書店)

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