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紙上特別講義

「ゆとり教育」と教育改革の行方:2(寺脇教授)

2007年07月21日

 単なる知識量だけでなく、柔軟な思考力とセットで学力と呼べるのです。

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 自ら調べて、学んでみる姿勢を引き出す教育が必要です。

 ●おさらい

 一人ひとりの子に応じたきめ細かな教育ができていない。そんな危機感を背景に始まったという「ゆとり教育」。全員が取り組むべき学習内容を削減したことなどから、「学力低下を招いた」と批判された。本当に学力は下がったのか、そもそも学力とは何か。

 前回は、「ゆとり教育」が生まれた経緯を話しました。今回は、「ゆとり教育」が学力低下を招いたという見方が正しいのか、そもそも学力とはどんな力を指すのかを話します。

 文部科学省が今年4月、全国の高校3年生約15万人を対象に05年秋に実施した学力テストと意識調査の結果を公表しました。前回調査(02〜03年)にも出題された問題で比べると、正答率は約14%の問題で上がり、約8割はほぼ同じでした。「勉強が好き」という答えは増えました。

 教育関係者に驚きと波紋が広がりました。「ゆとり世代」の学力は落ちているはずだという思いこみがあったためでしょう。

 03年度、「ゆとり教育」を柱とする現行の新学習指導要領で学ぶ小学5年〜中学3年生約45万1000人を対象にした初の大規模な学力調査がありました。こちらも、前回調査(01年度)に比べ、正答率が上がるかほぼ同じだった問題が8割を超えました。

 「ゆとり教育で学力が下がった」という意見は必ずしも正しくないということでしょう。

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 ただし私は、テストの点数だけを見て学力が上がった、下がったと議論するのは意味がないと考えています。教育改革とは、短期間に結果を出すためにするものではありません。長い目で見る必要があります。

 4月24日には、小6と中3全員を対象にした全国学力調査(テスト)が実施されました。「ゆとり教育」批判を背景にした調査だと思います。しかし私は、一斉テスト方式で学力をはかろうとするより、学校・学級単位で細かな目配りをし、日々の教育活動の中で、一人ひとりの子の学力把握に努めることが先決だと思います。

 加えて、学力低下問題を考える場合、そもそも「学力」とは何か、ということを明確しておくことが不可欠です。私は、本当の学力とは、単なる知識量ではないと考えています。時代の変化についていけるだけの柔軟な思考力や応用力とセットになって、初めて学力と呼べる。そう思います。02年度からの「ゆとり教育」の狙いも、そこにありました。

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 例えば、有名大学を卒業しても、パソコン一つ操作できないおじさんがたくさんいる。激動の時代にあって、きょう覚えた知識は、明日には無駄になるかも知れず、逆に昔は必要なかった知識が不可欠になってくることもあります。そうした点を踏まえ、「自ら調べて、学んでみようという姿勢」を引き出す教育が求められています。

 政府の教育再生会議は、第1次と2次の報告で「ゆとり教育見直し・学力向上」をうたいました。具体的な提言として「授業時数の10%増」や「教科書の分量を増やし質を高める」などを掲げました。ただ、めざすところや理念は、報告を読んでもはっきりとしません。「ゆとり教育」の理念の延長線上にあるのか、それともまったく別の理念のもとに進めるのか。注視しています。

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