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紙上特別講義

宇宙空間のモンスターたち:1(福江教授)

2007年11月03日

 太陽の何十倍も重い星が爆発してガンマ線を放出し70億年かけて届きました。

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 算出されたエネルギーは太陽の百億倍の百億倍でした。

 夜空に輝く星は、いつごろからあるのでしょうか。宇宙で最も明るく輝く天体の正体は。そしてブラックホールとは? 大阪教育大学の福江純教授(51)は、近年次々完成した巨大望遠鏡や観測衛星がもたらすデータをもとに、ブラックホールが引き起こす様々な現象を研究しています。

 「ブラックホール」と聞くと、宇宙空間に口を開けた真っ暗な「穴」を連想するかもしれません。

 しかし実際は、強烈な重力で周囲のガスを巻き込んだ円盤をつくり、膨大なエネルギーを放射して輝いています。私はその想像を絶する現象に魅せられ、大阪の郊外の研究室で理論計算を繰り返しています。

 研究対象の代表例は、宇宙で最も明るい爆発現象とされている「ガンマ線バースト」(GRB)です。

 その発見は、米ソの冷戦期にさかのぼります。1967年、宇宙の核実験を監視する米国の人工衛星が時折、正体不明のガンマ線=(1)を検出しました。

 どこかの国が極秘に核実験をしている疑いが持たれ、当初この発見は軍事機密とされました。しかし70年代に入り、大気圏ではなく宇宙空間の現象であることが判明しました。

 宇宙といっても、我々の銀河系内部から遠くのよその銀河まで、距離は様々です。ほとんどの天文学者は当初、GRBを比較的近くの現象と思っていたようです。遠方だとエネルギーは常識破りに大きくなり、超新星爆発=(2)すらはるかに超えてしまうためです。

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 ところが、米国が91年に打ち上げた人工衛星の観測から、GRBは宇宙空間のすべての方向で発生していることが分かりました。銀河系内部の現象ならば、天の川沿いに集中するはず。GRBは銀河系の外部のものとはっきりしました。

 さらに、イタリアとオランダが打ち上げたX線観測衛星が、97年2月に発生したGRBの方向を精密に求めることに成功し、ガンマ線では数十秒のGRBがX線では数日間「見えて」いることを示しました。

 この発見で詳細な位置測定が可能となり、同年5月に発生したGRBでは、ハワイ島マウナケア山頂にある米国のケック望遠鏡(口径10メートル相当)が、目に見える光で観測に挑みました。遠い天体ほど波長が延びる現象をもとに距離を測ったところ、約70億光年という恐るべき遠さでした。

 太陽系が生まれるさらに25億年も前に向こうを出発したガンマ線が、やっと地球に届いたというのです。算出されたエネルギーは、太陽放射の百億倍のそのまた百億倍。銀河系全体の放射エネルギーと比べても百億倍という大きさです。

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 現在の仮説では、GRBは、太陽の40倍を超える重い星が中心部にブラックホールを形成しながら爆発する瞬間、ブラックホールに吸い込まれなかったガスが光速の99.99%を超えるスピードで噴出されたものと考えられています。これでエネルギーや爆発時間の理屈は合うのですが、ガスを光速の99.99%以上に加速できる仕組みはまだ分かりません。

 宇宙の広さに比べれば、人間は海岸の砂粒にも満たない小さな存在です。しかし、その想像力は宇宙の果てすら超えることができます。宇宙に隠されたナゾに挑み、解く楽しみは、何物にも代え難いものです。

 次回は「宇宙最大のナゾ」と「宇宙で最初に輝いた星」の話をします。

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 福江純(ふくえ・じゅん) 大阪教育大学教授。京都大学理学部で宇宙物理学を専攻。専門はブラックホールの周囲に形成されるガス円盤とジェット現象の理論研究。宇宙を探究するだけでなく、解明が進む宇宙像の楽しさを一般の人々に伝える「天文楽者」をめざしている。

 ◆キーワード

 (1)ガンマ線 電磁波は波長が短い順に、ガンマ線、X線、紫外線、可視光、赤外線、電波と呼ばれる。ガンマ線は数ミリ程度の金属板は突き抜けてしまうため、反射・屈折させることが困難で、方向の特定が難しい。地球大気中で吸収されやすく、観測するには宇宙空間まで出なければならない。

 (2)超新星爆発 太陽の約8倍以上の重さの星が、老齢期に核融合反応を暴走させて大爆発する現象。爆発の明るさは、銀河全体に匹敵する。星の表面部は外向きに吹き飛ぶ一方、中心部は自重で内側に崩壊して中性子星やブラックホールになる。中性子星の半径はわずか10キロで、1立方センチの重さは5億トンにも達する。中性子星からさらに崩壊が進んだのがブラックホールで、光すらその重力から逃げられない。

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