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紙上特別講義

宇宙空間のモンスターたち:3(福江教授)

2007年11月24日

 宇宙を解き明かす営みは、人類がなぜここにいるのか答えを探すことなのです。

 近年の観測で、宇宙の年齢は「137億歳」と判明しました。我々が日常接している元素は宇宙全体の4%に過ぎず、残りはナゾの物質とエネルギーということもわかってきました。今回はこれまでの紙上講義と趣向を変え、宇宙についての質問を「宿題」として募りました。届いた質問のうち代表的なものに対し、福江教授に答えてもらいました。

 【宿題】宇宙について不思議に思うことはありませんか。福江教授への質問を、なぜ聞きたいかの理由とともにお寄せください。

 ○宇宙には「果て」があるの?

 長島純子さん(47)=公共機関勤務、大阪府吹田市

 宇宙は「果て」があるのでしょうか。それとも「無限」なのでしょうか。私たちは限りある世界に暮らし、広い海も、生きていられる時間も、例外ではありません。それだけに本当に「無限」ということがあり得るのか全く実感できず、夫に尋ねても迷惑顔をされるだけです。ぜひ先生にお尋ねしたいと思います。

 《福江教授》

 大変いい質問です。宇宙が有限か否かは、10年ほど前まで答えることができない質問でした。しかし、宇宙の年齢を明らかにした近年の観測から、宇宙空間は本当に無限で、今後も無限に広がり続けることがはっきりしました。船がいくら進んでも前方に水平線が見えるのと似た原理で、光の速度が限られているため、自分の場所から見通せるのは、宇宙の年齢と同じ137億光年先までに限られます。しかし、球面の地球上を進むのと違い、宇宙空間をどこまで行っても、元の場所には戻ることはありません。ところで、誠に残念ながら、私も宇宙の研究がメシの種なのに、「無限」というものの実感がつかめず困っています。

 ○なぜビッグバンの爆発で拡散?

 塩見勝美さん(62)=無職、京都府福知山市

 ブラックホールの重力からは、なにものも脱出できないと聞きます。重い星が自重で崩壊してブラックホールになるのに、けた違いに大きな宇宙全体が、なぜビッグバンの爆発で拡散できたのでしょうか。

 《福江教授》

 極端に単純化すると、ブラックホールは、手に持っていたボールをそっと放し、どこまでも落ちてゆく状態に相当します。一方、ビッグバンは、上に向かってボールを放り上げるような感じです。もう少し正確に言うと、下向きの力が生まれる前にボールを上へ投げ、落下する力が働きだしても、まだ上へ飛び続けているような状態でしょうか。ただし、最初の「投げ上げる」力がどのようなものだったのかは、現在の宇宙論でも大きなナゾの一つです。ビッグバンを引き起こした力のもとを当面「真空エネルギー」と呼んでいますが、正体はよくわかっていません。

 ○地球外生命体の探索、どこまで?

 安藤知明さん(65)=パート、大阪府豊中市

 晴れた夜空を眺めると、その宝石のような美しさに魅入られ、各地に残る天女伝説に思いをはせます。羽衣の美女に見立てられるような知的生命体が地球以外の星にいると、私は信じています。巨大望遠鏡などによる観測で、地球以外の生命体探しはどの程度進んでいるのでしょうか。

 《福江教授》

 地球外生命体の探索は現在、大変面白い局面を迎えています。これも10年ほど前までは単なる議論に過ぎませんでしたが、95年にスイスの研究チームがペガスス座51番星に惑星を発見して以来、200を超える惑星系が見つかりました。多くは木星より大きいうえに主星のすぐ近くを回る灼(しゃく)熱の惑星ですが、今年4月、てんびん座「グリーゼ581」という星に、重さが地球の6倍程度で比較的離れた軌道を回る惑星が見つかりました。10年以内に地球と似た環境の惑星が見つかると、私は信じています。そうすれば地球外生命体の発見も現実味を帯びてきます。しかし、発見された生命体が「羽衣の天女」のような美人かどうかは、いささか保証いたしかねます。

 ◆先生に質問!

 《記者からの質問》

 何十億光年も先にある宇宙の現象を研究することが、現代社会にどのようなメリットを与えるとお考えですか。

 《福江教授の答え》

 実利上のメリットは、現時点では全くありません。断言できます(笑)。

 しかし、人はパンだけでは生きられません。芸術作品が人間の心に大きな感動を与えるように、宇宙のナゾを解き明かす営みは、我々人類がどうしてここに存在するのかという、根源的な問いに答えることを可能にします。

 また、以前は全く役に立たなかった知識が、現代社会で大きな役割を果たしている事例はたくさんあります。例えば、約100年前に生まれた量子力学は、当時は何の役にも立ちませんでしたが、現代のエレクトロニクスには欠かせません。目先の利益や実用上の要請だけでなく、長い目で研究の推移を見ていただけたら、と思います。

 ■もっと知りたい人へ

 【参考文献】

 宇宙はどこまで明らかになったのか(福江純、粟野諭美編、ソフトバンククリエイティブ)▽最新宇宙学(同、裳華房)▽SFはどこまで可能か?(福江純、扶桑社)▽ブラックホールを飼いならす!(同、恒星社厚生閣)▽暗黒宇宙の謎(谷口義明、講談社)▽ブラックホール天文学入門(嶺重慎、裳華房)

 《記者から》

 通信機器の劇的な発達で、空中には携帯回線の電波が飛び交い、波長帯を分けているはずの電波望遠鏡の観測領域にも深刻な影響が出ています。都市の夜間照明はますます明るく、星空を身近に感じる機会もすっかり減りました。しかし、宇宙からの微弱な光や電波は、何十億年も昔と同様に降り注いでいます。長い目線で、我々を取り巻くナゾの解明を進める研究者の姿勢を頼もしく思いました。次回は芦屋大大学院アスペルガー研究所長の井上敏明教授が「『困った子』たちの未来」をテーマに話します。

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