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ファッションの社会学:1(成実准教授)

2008年3月8日

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 第1次大戦後の欧州。女性の社会進出が促され、今の洋服が定着しました。

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 服装の大きな変遷の背景には、社会構造の変化があるのです。

 ファッションには時代や社会の思想が表現されている――。京都造形芸術大の成実弘至准教授(44)は、そんな視点で人々の装いの移り変わりを研究しています。今の洋服の形が生まれた20世紀初頭から現代まで、主な流行が生まれた背景に何があったのか。先生にたどってもらいます。

 今、あなたが着ているような膝(ひざ)丈のスカートやワンピースが生まれたのはいつだと思いますか?

 実は意外に最近で、ざっと80年くらい前なんです。19世紀の欧米の女性たちは、コルセットで腰を締め、クリノリン=キーワード(1)=など特殊な下着で砂時計のような体形をつくり、床をこする長い丈のドレスを身に着けていました。映画「風と共に去りぬ」の登場人物のような格好ですね。

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 20世紀に入り、工業が発展して人々の生活が豊かになるにつれ、それが変化していきます。日本でもこのころ、和服から洋服への転換期を迎え、以後、欧米とほぼ同じペースで変化しました。

 注目すべきは1920年代です。膝丈のスカートに直線的なシルエットといった今のような「普通の洋服」のスタイルが、仏のガブリエル・シャネルら当時のオートクチュール=キーワード(2)=を率いたデザイナーから次々発表され、世の中に受け入れられます。

 どうしてでしょう。大きな要因は第1次世界大戦(14〜18)でした。兵士に限らず国民全体を巻き込む総力戦は、女性の社会進出を促しました。そのため、より動きやすく、シンプルな装いが受け入れられたのです。

 さらに、身体そのものの価値観にも変化が起こりました。家庭を守る良妻賢母を象徴するような豊満な身体より、スリムな方が美しい、となりました。戦後から世界恐慌(29年)までの20年代は、米国を中心に大量生産が進み、新しい装いは雑誌メディアの紹介も手伝って広がりました。日本でもこの時期、同様のスタイルを楽しむ女性たちが生まれ、モガ(モダンガール)と呼ばれました。

 20世紀のもう一つの大きな変化の波が、50〜60年代に押し寄せます。やはり背景には戦争、第2次世界大戦(39〜45年)がありました。戦争が終わると、若者は自由な空気の中で、戦中・戦前の世代と一線を画した新しい文化にこだわりました。服装に見られる代表格が「ミニスカート」です。ロンドンの街角の少女たちの装いだったのを、英デザイナーのマリー・クワントが商品化。さらに仏のアンドレ・クレージュがパリコレで発表して世界に広まり、スカートは膝丈までという当時のパリモードのおきてを破って最先端の風俗となりました。

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 大流行の背景には、戦後さらに進んだ大量生産・大衆消費社会の中で安価な既製服が次々つくられたこと、家庭の洋裁でもミニは比較的つくりやすかったこともあると思います。

 日本でも60年代後半にはやりました。日本の女性たちも、古い女性像を飛び出し、民主主義や消費社会という新しい時代を楽しんだのです。

 今、あなたが当たり前と思っている洋服の誕生と変化の背景には、2度の世界大戦と大量生産・消費社会の出現があったのです。次回は21世紀の若者ファッションに迫ります。

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 成実弘至(なるみ・ひろし) 京都造形芸術大准教授。大阪大大学院修士課程修了後、雑誌編集者に。ストリートファッションなどの若者文化や都市論などに広く興味を持ち渡英。ロンドン大大学院修士号取得。専門は社会学・文化研究。著書に「20世紀ファッションの文化史」(河出書房新社)など。

◆キーワード

 (1)クリノリン 輪っかにした針金などを使ってドレスのスカート部分を広げる、ちょうちん形の下着。1850〜60年代に流行した。ファッションリーダー的存在だった、仏のナポレオン3世の皇妃ユージェニーが好み、普及したとされる。現在もウエディングドレスに影響が残る。

 (2)オートクチュール 職人による手作業中心の高級仕立て服。狭義には、パリの通称「サンディカ」という同業者組合加盟のメゾン(店)の服を指す。もともと、衣装は職人が顧客の要望に従って仕立てていたが、オートクチュールは作り手側が主体的に考えて提案する。英国生まれのデザイナー、チャールズ・ワースらが19世紀にパリで始めた。70年代以降は、プレタポルテ(高級既製服)がモード界の主流になっていく。

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