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ファッションの社会学:2(成実准教授)

2008年3月15日

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 「KY」を恐れるせいか若者の服装がおとなしい。

 横並び意識が見えます。

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 戦後のヒッピーやパンクは社会や大人への意思表示でした。

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 ●おさらい

 20世紀のファッションには、2度の世界大戦と大量消費社会の影響を受けた二つの波があった。現代の“普通の洋服”が生まれた20年代と、ミニスカートが登場した50〜60年代。では21世紀、平和で成熟した日本の若者のファッションには何が映っているのか。

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 なぜ、あなたは、その服を好んで着るのですか? 着心地の良しあしだけではない。「自己表現だ」という方がいると思います。

 19世紀以前の西洋の階級社会では、個人のファッションは一部の貴族や富裕層のもので、多くが労働者であった大衆の服装は帰属する集団を表しました。個人を主張する必要も余裕もなかったのです。

 大衆のファッションが、自己表現と強く結びついたのは20世紀半ば以降です。第2次世界大戦後の自由と経済的な豊かさの中で、戦前・戦中世代との違いを意識した当時の若者たちが、ファッションによって社会や大人への意思表示を始めたのです。

 例えば、欧米や日本で流行した60年代のヒッピー、70年代のパンク=キーワード=は体制への反抗でした。80年代に日本で話題になった「カラス族」は、全身真っ黒の装いで、こびない女を印象づけました。男性と同等に社会で活躍しようとした女性たちの意思の表れと言えるでしょう。

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 21世紀の日本の若者のファッションは、洗練されてはいてもおとなしく、自己表現を感じる装いが少なくなりました。奇抜さとは相対する、シンプルで着こなしやすい「リアルクローズ」の全盛ですね。

 昨年、若者の間で、場の空気を読めない人を指す「KY」という言葉がはやりました。背景には、周囲の人々と同調することを重視する風潮が見えます。ただ、周囲とは限られた仲間のこと。閉じた集団内で自分が浮き上がらぬように気にかけているのです。

 現代日本は「格差社会」と言われています。自分だけが遅れる恐怖感から、平均的であることに安心感を見いだす。インターネットや携帯メールで、いつも周囲とつながっていたい。そんな感覚が、ファッションに影響を与えているのかもしれません。

 ごく大ざっぱに言えば、英国など欧州の若者より日本の若者の方が服にお金をかけ、おしゃれです。ただ、古着や安価なモノを工夫しながら自分なりに着こなす欧州に比べ、日本の若者は横並び意識が強いと思います。

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 さらに、気になるのが、身体そのものの修正です。ダイエットやプチ整形をする人が増えました。体のある部位にコンプレックスを感じて自信が持てない、という人が多いようです。美人をめざすというより、「みんなの中で恥ずかしく思わない」容姿になりたいわけです。ここにも、周囲との同調につながる意識が見えます。

 ファッションはどう変遷していくのか。環境悪化や少子化なども影響するでしょうが、大量消費社会の時代が終わり、リアルクローズの傾向が強まるかもしれません。ただ、服作りを学ぶ学生たちには、売れ筋に流されず、メッセージを込めた服作りをしてほしいと話しています。着る側の方にも、装うことが社会と向き合うことであることを意識しつつ、作り手のメッセージを受け取ってもらえたらと思います。

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 ◆キーワード

 〈ヒッピーとパンク〉 ヒッピーは、ベトナム戦争の反戦運動を背景に、60年代後半の米国に現れた既存の制度やしきたりを否定する若者たち。長髪やジーンズなどがトレードマーク。パンクは、70年代にロンドンで生まれた反社会的な要素が強いロック音楽とファッション。ツンと逆立てた髪、破れたTシャツなど攻撃的な装いが特徴。

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